笑わせることで草を生やせるようになったお笑い芸人の話
頭を空っぽにしてバカになって読むことをお勧めします。
突っ込んだら負けという感じです。覚悟が出来たらスクロールをしてください。
始まります。
俺は『叫び十万ヘルツ』と名乗る者だ。いわゆるしがないお笑い芸人というやつだ。なお、本名は御手洗 笑……おい、いま御手洗 笑と読んだか? まあ、お笑い芸人だから、そんな名前ならきっと売れたと思うが、残念なことに御手洗 笑と読む。
俺はどうやら声がでかいらしいからその勢いでお笑い芸人になれるのではないかと思い今に至るごくごく普通の芸能人である。なお、街には変装せずに出ても騒ぎにはならない程度には普通(の容姿)だ。悲しい。
ちなみに、学生時代のあだ名は『歩く騒音』だ。親しみではなく侮蔑をこめて呼ばれていたことが特徴である。やっぱり悲しい。
そんな普通の俺は、ある日普通ではなくなってしまったらしい。
(笑)(笑)(笑)
その日は平凡な俺らしい普通の日だった。不本意ながら騒がれることもなくレトルト食品を買って一人暮らしをしているアパートに帰り、だるかったから備蓄していたカップ麺で夕食を済ませ、ざっとシャワーを浴び後は寝るだけといった時に、声が聞こえてきたのだ。
「聞こえてますか~そこの残念なお笑い芸人さん~」
ゆったりとした男の声だ。そもそも一人暮らしをしているので俺に話しかけてくるような奴はいないはずなのだが……
せめて、きれいそうな女の声にしろよ、俺の妄想力……と思いながら寝ようとした時にそいつははっきりとこう言ったのだ。
「あ、ちょっと~君の妄想じゃないから寝ないで! 重要なことを言いに来たのに~」
さすがに無視できなくなった上に妄想ではないとか断定されたので俺はよいしょと体を起こした。
「えー何? 俺忙しいんだけど……」
「いや、君は暇でしょ? 鳴かず飛ばず売れずモテずなお笑い芸人さん」
「ヒッデェ!!!」
起きたとたんメンタルにどでかいダメージ!! 俺は再び布団に沈んだ! 壁が揺れたような気がするが気のせいだろう。
「まあまあそう叫ばないで」
「叫んだわけじゃないぞ。地声だ」
「うわぁ……」
何かドン引かれた気がするが気のせいだと思う。
「それで、重要なことってなんだ」
「ああ、そ~だった。君にある能力をあたえました! やったね!」
「どんな能力だ!」
男なら特別な能力に惹かれるものだ! 俺はその声に即座に聞いた。隣の壁が叩かれた気がするがそれどころじゃない。
「ふっふっふー君に与えた能力は君ならではのものだよ! この能力を使って地球を救ってほしいんだ」
「おお! 特別な使命! 俺ならではってなんだ?」
「それはね、人を笑わせることで発動する能力なのさ!」
「何が起こるんだ!」
おお! 条件付きの能力! 絶対強い奴だろこれ!
「草が生える」
「は?」
俺の耳おかしくなったのか? いろいろありえないことが聞こえたような気がする。
「正確に言うと、『草生やすことで草生える能力』だね」
「はぁあああああ!」
驚愕に叫ぶと隣から「うるさい! 今何時だと思ってんのか!」と聞こえた。
(笑)(笑)(笑)
そんなこんなで、普通な俺は『草生やすことで草生える能力』を手に入れた訳だ。正直に言おう。
「こんな能力ぜんっぜんいらねぇ!!」
「ひどいなぁ」
「お前まだいるのかよ……」
ついでに俺の脳内にこんなアホみたいな能力をあたえた自称天使が住み着いたらしい。いやむしろ憑りついたと言うべきか。
「それに、前言った通り君の活動に役立つかもしれないし~」
お笑いになる前に笑わせないといけないだろうが……
「あと、上手くやれば砂漠化を止められるかも、だっけか」
「そう~ むしろそっちが本命なんだけどね」
自称天使はどうやら砂漠化を止めたいらしい。それで最小リソースで止めるためにこんな能力を作り出したそうだ。だが、俺に渡すのはミスキャストではなかろうか?
「いやいや、君のちょっと先の未来を見た合理的な話だよ?」
心を読むなよ。というか、それどういう事だ?
訪ねようとした時、前からアホ毛が生えた中年男性が歩いてきた。確か、優秀な番組制作者とか言ってたっけ?
「君が『叫び十万ヘルツ』君かな?」
「そうっすけど……」
「君を含む若手で面白そうな一発企画を思いついたから、参加しないかい? 内容は『砂漠で我慢大会』なんだけど」
「これに参加して!」
「おわっ!」
急にしゃべるな自称天使! ビビるだろうが!
「どうしたの?」
「いや、びっくりしただけ……受けます」
「おお、ありがとう。君みたいな若くて向こう見ずなリアクションは絶対面白くなると思うんだ!」
「ありがとうございます」
俺が選ばれた原因はこれかよ!
(笑)(笑)(笑)
そんなこんなで撮影当日。俺はなぜか宿泊先の冷蔵庫に入ってたどくろマークのビンを持って撮影に向かっていた。自称天使に問いかけると、そのビンは僕からのプレゼントだよ☆ と言われてしまった。中身は赤色の香辛料を濃縮したものらしい。
なんてものを持たせるんだ!
内心でそう憤りながらも撮影場所に向かった。道中で水と勘違いして飲みそうになったが自称天使に止められた。その時ばかりはマジ天使とばかりに感謝した。
撮影場所は地獄絵図だった。ただでさえ砂漠で暑いのに見るからに辛そうで熱そうな料理が生産されていた。……アホ毛の手によって。
何してんの、アンタァアアアア!
仮にも指示する人がすることじゃないよね、それ!
なんて驚いていたらほかの参加者が声をかけてきた。
「わっしは『スピーカースピーカー』じゃ。よろ~」
「おれっちは『爆速爆弾ver.2』だぜい!」
「オラは『おら~おら』だオラ」
濃いわ!!!
「ああ、俺は『叫び十万ヘルツ』だ。よろしく」
とりあえず挨拶して収録が始まるのを待つことにした。あまり関わり合いになりたくない。
(笑)(笑)(笑)
撮影が始まる前になるべく長く我慢して目立てと自称天使から言われた。天使じゃなくて悪魔だと思った。
「わっし、むりぃ。でもがんばるぅ」
「あっついぜ! あっついぜ!」
「おら~おら~」
阿鼻叫喚である。俺は三杯目の激辛カレーを食っているが……
「これ考えた奴馬鹿だろ!!」
もちろん叫んでる! これが俺の芸風だからな……
「三杯目いったぞー! このやろおぉぉおおおお!」
「おら~」
隣で『おら~おら』が限界とばかりにオアシスの方に向かっていったが気にしない!
「ここで四杯目からは特別ルール!! 持ち込んだものをかけてもいいこととします!!!」
なん、だと。あの天使ぃぃいいいいいい!!!! 知ってやがったな!
「わっしは冷蔵庫に入ってた氷を入れる~」
「おれっちはマイマヨでいくぜい!」
俺は、俺は、うわあああああああ!!
「俺は! ここで甘える! ことなんてしない!! むしろやばくしていくぞ!!!」
持たされていた赤い液体をかけていく!
そして一口食べてから俺の記憶はない。
(笑)(笑)(笑)
あれから、なんだかんだでお茶の間の笑いはとれたらしい。一斉に草が生えてきたらしい。お茶の間に草を提供できたのなら俺は満足だ。満足なのか?
砂漠も一斉に草が生えて謎現象だけど砂漠化が多少緩和できてよかったということになったらしい。それでいいのか環境省。
そうして俺は砂漠を巡って今日も草を生やしている。一時的な対処になるが少しずつ名も売れてきたらしい。世界中の人が一斉に草を生やしたとき、砂漠を根絶するほどの草が生えるらしいが俺にはまだそこまでの力はない。だが、少しずつ頑張ろうと思う。
最後に一言。なんでこうなった!
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