リセット
私が人らしい生活を送り始めたのは、働くことを辞めた一週間後のことだ。
高齢化の進む産業の世界に、「かっこいい!」と自ら飛び込んだ若者たち。ソファーに寝ころびニュースを眺めていた私の腰を上げさせるには、十分すぎるニュースだ。
まずは掃除。縦に一列、横に一歩ずれて一列。高校の時はモップだったけれど、今は掃除機。部屋も、体育館の何分の一という小ささなので、すぐに終える。いつのまにか溜まった郵便物やら何やらもシュレッダー。明日はちょうど、燃えるゴミの日。ごみ袋にむかって、紙くずが零れ落ちないようにごみ箱を傾ける。
体を動かしたらお腹がすいたので、うどんをつくることにする。食べることは生きること。とてもいきものらしい行為。起き上がることだって出来ないんじゃないか、そう感じていたのに。ニンジンの皮を剥き、白菜を刻む。汗がにじんできたから髪を一つに縛り、換気扇を回す。
「いただきます」
美味しい。美味しいぞ。自画自賛しながら麺をすする。「頑張る」の終わりが見えてこなくて、休むことが怖くなっていた。歩むことを止めたら、どこへも行けなくなると思っていた。
「大丈夫」
私は生きていける。
「ごちそうさまでした」
はぁ。まずは、再就職先探さなきゃなぁ。




