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09

昨日は体調不良で死んでました(治ったとは言ってない)

〈風俗エリア〉

 今思ったけど、風俗エリアと言うよりはラブホ街もといラブホエリアなのでは?

 と、そんな事を考えて現実逃避をしながら再びラブホの一室へと俺とゆうきは戻ってきた。そしてどうせならと思いクローゼットの中を覗いてみると、普通のジーンズがあったのでそちらへと履き替えておく。流石に世紀末ファッションのままでは恥ずかしい。

 どうして現実逃避をしているかと言えば、素直に俺は恐ろしいと思ったからだ。容赦も躊躇いも無く過激派の男を切り捨てたゆうきが……ではなく、人ひとりが目の前で死んだと言うのに何も感じなかった自分が、である。

 思い返してみれば学校エリアでもそうだった。目の前で複数の人間が消えた光景に何かを思う事も無く、ただ自分の心配だけをしていた。自分の命に危険が迫ったから考える暇が無かった――そう思い込んでいたが、どうやら違っていたらしい。

 まるで画面越しにその光景を見ているような、ゲームの中の出来事のような……そう思ってしまっているのだろう。

 死んだ後死体として転がっていればもう少し何らかの感情を抱いたかもしれないが、ここでは生命が尽きた肉体は消えてしまう。そんな現実味の欠片も無いような世界だからこそゲームのような、と思ってしまうのだろうか?

 そもそも身体がデータで構成されている、と言うのがおかしな点だ。最初は自分だけなのかも、と思っていたがそうではなかった。学校エリアで1番に殺られた人間達もさっきの過激派もデータがバラバラに散っていくように消えた。俺だけではなく、ここの住人全員の身体がデータで作られていると考えて間違いないだろう。

 では、データの身体が生命体として生きていられるこの空間は?

 現実世界の知識として考えて思い付くのはせいぜいホログラムが限度だろう。だがホログラムにしても実体は無くただの虚像に過ぎず、モノに触れる事も何かを食べる事も、ましてや声帯を震わせて声を出す事も不可能だろう。

 ゲームの中だと言えばすっぽりハマるのだ。そう結論を出せば楽だからそう考えたくなる。ゲームの中だから命の価値が恐ろしいまでに低い。ゲームの中だから命をかけた殺し合いが行われている。ゲームの中だから――

「大分考え込んでるみたいだね?」

 そう声をかけられてからようやく気が付いた。俺の顔を覗き込む為だろうがゆうきの顔がすぐそこまで接近しており驚いて後ろに倒れ込んでしまう。ベットに座ってて良かった。

「……そこまで驚かれるとショックだなぁ」

「いや、ごめんごめん。ちょっと頭の整理が追いつかなくて」

「あー、私が過激派の……何番だったか忘れたけど、あの男を簡単に殺しちゃった事?」

「それもあるけどそれだけじゃなくて、むしろそれは大して気にしてもいないような事で……」

 普通、でも無いが命をかけたデスゲームなんてモノは、命をかけるに見合う対価があってこそゲームとして成り立つ。貧乏人達が大金を求めて殺し合うように、娯楽として誘拐された人達が生き残りたいが為に殺し合うように……だがこの世界の生存競争にはそれが無い。生き残った先に何があるかも分からず、生き残った事に対する褒美も無く、とてもゲームとして成り立たないのだ。

 そう言えば最後の一人は「願いを何でも叶えられる」んだっけ?

 とは言えそれも知らされていない様子だ……いや、もしかしたら皆それを知っているが表には出さないだけだろうか? だが、知っていたら知っていたでもっと殺伐とした殺し合いが行われていても良いだろう。

「駄目だ考えても分かんねぇわ」

「スリーサイズは上から――」

 違うから、と全力で否定するとガッカリとゆうきは肩を落とす。

「じゃあ何を考えてるの?」

「何でここの連中はこぞって生存競争なんてモノをやってるのかって」

 少なくとも、その仕組みを理解出来ればこの世界が何であるのかに繋がるはずなのだ。

「あー……何でだろうね?」

 ナナとは違う答えに俺は耳を疑う。参加しておきながら自分でも疑問に思うのか……?

 詳しく聞く必要がありそうだと考え、俺は「何でなの?」とゆうきに聞いてみるが、聞かれた本人は困ったような表情を浮かべて自分の髪の枝毛を探し始める。

 遊ばれているのだろうか?

 この世界はゲームの中なのでは? と考えてしまう要因はもう一つある。例えば変態思春期な少年青年はエロいちゃんねーを見ると股間のセンサーがビンビンに反応するだろう。ロリコンと呼ばれる病気を患っている人間ならば幼い少女を、画面の中の平面キャラしか好きになれない人間ならばそう言ったキャラクターに。

 俺はこれまで少なくとも四人の可愛い女の子に会い、一人とは同じ部屋で寝て一人にはベットに押し倒された。普通に考えれば間違いなく股間のセンサーが反応するだろう。だが俺はどの状況でもガン萎えだった。更に、会って間もないとは言え彼女達のその可愛さに、惚れるまではいかなくとも好意を抱いても何ら不思議ではない。

 だが何の感情も抱いてない。

 俺は彼女達にも、ゴミにも、何の感情も抱いてないのだ。使える、使えない、信頼できる、頼りになる、そう言った「一つの駒」としての見方しか出来ないのだ。

 例えばロールプレイングゲームで、パーティーに設定出来る人数が四人で使えるキャラが八人いるとすると、好きなキャラや使えるキャラをパーティーに持ってくるだろう。そう言った好きでなら見れるのだが、好意や下心をまるで抱けない。

 それともこれは、俺が人間的感情を失っているだけなのだろうか?

「あーあーごめん、ごめんって! ちゃんと答えるからそんな放心状態みたいにならないで!」

「え、そんな酷い顔してた?」

「右目が右向いて左目が左向いて口がポカーンって開いてた」

「そんな酷い面してた!?」

「冗談だけど、目が虚ろで魂抜けたみたいにはなってたよ」

 自分の顔面を両手で叩いて正気に戻す。大丈夫、大丈夫……大丈夫だよな?

「で、ちゃんと答えてくれるって?」

 そう聞き返すと再びゆうきは困ったような表情になってうーんと唸る。

「まず、生存競争について疑問に思った事が無かったんだよね。やらないといけない事って分かってて、それが大体いつ始まるのかって分かってて……だから、何でこんな事してるのか? って聞かれても正直答えられないんだよね」

 それは俺がナナと話していた時に思った事だった。それがやらなければならない事であり、少しも疑問に思わず、死ねと言われて「嫌だー」と不満を言いながら死ぬのだ。

 あー、とゆうきが声をあげる。何事かと視線を向けると彼女は人差し指を立てて「こう言えば分かりやすいかな?」と言った。言って続けた。

「私達はそういう風にプログラムされてるんだよ、多分」


 どうして生存競争に参加しているのか、その答えを得てもこの未来世界の全体図は一向に見えなかった。漠然とし過ぎていて何一つとして見えてこない。

 とは言え、分からない事にいつまでも頭を悩ませているワケにもいかない。

「ゆうきはこれからどうすんの?」

「ここの風俗エリアのホテルの扉を片っ端から開けては閉める作業に入るかな」

 何だそりゃ、と率直な意見を口から出しそうになったが、恐らく彼女も中央制御室への入口を探しているのだろうと理解する。

 風俗エリアと聞いた時は正直どうしたものかと思っていたが、どうやらこれは好機のようだ。自分一人で調べるとなると過激派やケルベロスにビクビク怯えながら調べるしかなく、護衛として中学生を連れてくるには抵抗のあるエリアだ。そこを幽鬼として恐れられているゆうきと調べられるのなら是非その恩恵をあやからせて貰うしかない。

 ……そう言えば彼女の年齢を聞いていなかった。ゆうきが中学生と言う可能性も十分に有り得るので、念の為に聞いておこう。

「ゆうきって何歳?」

「高校二年生だよ」

 よっし同い年! 同い年とこんなエリア歩くのは心底嫌だけど中学生と比べれば断然マシや!

 だが一つだけ言わせて欲しい。その質問にその答えはおかしくないだろうか?

「俺もついてっていい?」

「もち、むしろ大歓迎」

 歓迎されるような能力を俺は持っていないんですけどね。

「足でまといのお荷物だけどよろしく」

「いやいやダーリン、お荷物どころかむしろ増強剤ですよ」

 んん?

「……ん?」

 ????????

「そんな目をハテナにしないでよダーリン」

「あれ、おっけーって言ってた気がしたんだけど……俺の聞き間違いかな? 俺の事をダーリンって呼んでないよな?」

「呼んだよ?」

 なんで?

「なんで?」

「わあ心の声と口から出てる声がシンクロしてる……過去の資料によると、好きな人の事はダーリンって呼ぶんでしょ?」

 なるほど、彼女は過去から参戦した俺に合わせようとわざわざそんな呼び方を捻り出したのか。

「その好きがどういった種類の好きかにもよるけど、必ずダーリンって呼ぶワケじゃ無いぞ」

「恋愛感情の好きだよ、好きってかもう大好き」

 え、ええ……。

 グイグイ来られても正直困る。俺はゆうきを頼れる駒としてしか見れていないのに好きと言われても、心が痛むだけだ。

「あ、ああまぁその好意を持ってもらえるのは非常に有難いんだけど……その呼び方はちょっとやめてもらえない?」

 人前でダーリンと呼ばれるだなんて、周りの人が意味を理解していなくても俺が恥ずかしい。

「私のダーリンってもう決めたから、それを主張する為にもダーリンって呼ぶよ」

 先程までの普通な態度はどこへ消えた。急変し過ぎて俺でも付いていけないぞ。

 ってかコイツ絶対やばいヤツや。ヤンデレとかメンヘラとかそう言った種類の面倒臭いタイプのヤツだろ。やめて、まじでやめて。

「な、なんで無能で役立たずで会って間もない俺なんかを好いてくれたんですかね?」

「死にかけなのに私を守ってくれるなんてヤバすぎるじゃん?」

 お前の頭の中がヤバすぎるよ。

 このままグイグイこられたら吐きそうなので話題を変えなければ。増強剤って? と聞こうと思っていたが理由を分かってしまったのでもう良い。

「あー駄目だ話題が思い付かない。良し行こう出発しよう」

 くっついて来るようなら過去を振り返らず未来へとダッシュだ。つまり全力で逃げる。

「おっけー、行こうか」

 また態度が急変したよ……。


 ラブホテルの部屋を一つずつ開けては閉める作業と聞けば、うんざりする程面倒なモノだと想像する事は出来る。給料も出ないのにそんな事をしろと言われても誰がやるだろうか? 監視が付いていなければある程度はすっぽかしてやったと言うに違いないだろう。

 実際にやってみて、想像以上にしんどい。もう帰りたい。

「まだ一つ目のホテルの半分だよ? もう疲れたの?」

 中学生四人からは体力お化けとまで言われた俺が、まさかここの住人からそんな事を言われる日が来ようとは。

「疲れたってか飽きた、かな。だっるいなコレ」

 包帯を巻いたからと言って、怪我がすぐに治るワケではない。怪我をしている限り俺の身体は痛みを感じるし、負ったダメージに応じて身体機能も低下している。おまけに気持ちの悪い喪失感を肌でビンビン感じながらの作業である。

「まぁ一種の拷問みたいな感じするしね。仕方が無いから私が代わってあげよう」

 元はと言えば全ての扉を一々蹴破って回ろうとしたゆうきさんが悪いのですが、流石に全身がダルいと訴えているのでご好意に甘えることにします。

 やったー、と棒読みで言いながら立ち位置を変え、ゆうきは流れるように扉を開ける。

「わー、お楽しみ中かな?」

 何かを感じ取ったのか、ゆうきは迷いも躊躇いも無く部屋に入っていくので、慌てて後を追う。

 嫌な予感がする中短い通路を進み、開けた空間へと出ると真っピンクの内装に迎えられる。

 カーテンもピンク、マットもピンク、ベットもピンクで……そのベットの上には、仰向けに倒れている女と馬乗りになっている男がいた。

 ハァハァと獣のように荒い息とギシギシとベッドが軋む音……聞こえないフリをしていたが、ここまで接近してしまうとそれが実際に聞こえている音だと理解してしまう。

 耳と目を塞ぎたくなるようなその光景を、ゆうきは平然と見つめながら「君は何番かな?」と聞いている。

「いや何やってんのコレ……え?」

 女の両手両足はベッドの端から伸びている鎖で開くように固定されており、全身が切り傷だらけとなっている。

 これがどう言ったハードプレイなのか俺は分からないのに、両手にナイフらしきものを持っている男は「お楽しみ中だよ!」と俺に怒鳴ってくる。

「気がふれた奴って訳わかんない行動取る時あるからねー、多分他の人をじわじわと苦しめて時間かけて殺す事で心の平穏を保ってるんじゃない?」

 俺の方へと顔を向けてゆうきは真面目に解説をしてくれる。だが解説してくれる時が悪かった。

 お楽しみを邪魔された男は両手のナイフを掲げゆうきへと飛びかかる。当然そちらを見ていなかったゆうきは反応が遅れ――

 まるでタキサイキア現象でも起きたかのようにスローモーションでそれらを眺めていた俺は、自分の身体をゆうきと男の間へと滑り込ませてカウンターの要領で男の顔面へと拳を叩き込む。

 勢いを失った男はそのまま地面へと倒れ込む。

「おお、流石ダーリンやるじゃん」

 特に驚いた様子も無くゆうきは鉈を取り出して――

「あ、ちょ待っ」

 ――俺の静止も聞かずに男の両腕を肩から切り落とした。

 サッと殺してしまうのではと思い声をかけたのだが、どうやら殺す気は無かったようで――飛沫のように噴出するデータの量はとても多く、包帯を巻いて抑えるか違う方法で治さなければ男の命はそう長くないと見て取れ――やっぱり殺す気マンマンだった。

「大丈夫、瞬殺するような可哀想な事はしないから」

 いやそうじゃなくて……と言った俺の声は、断末魔のような男の絶叫によってかき消された。

 お前そんなうるさくしたら殺されるぞ、と俺が思っているとゆうきは男の口の中に落とした男の片腕を断面からぶち込んだ。

「これで良し」

「良くねぇよ」

「あーほんとだ、まだ番号聞いてない!」

 そうじゃねぇよ、と言いかけたがこの女に何を言ったところで恐らく無駄だろう。確かに過激派も真っ青になりそうな思考回路をしている。幽鬼として恐れられている理由が良く分かった。

 元から別に助けるつもりも無かった男なので「どうでもいいモノ」として俺の中から切り捨て、ベッドに拘束されている女の方を見てみる。

「あーそれもう死んでるよ」

「は?」

 見た所傷も輪郭も流出しているデータの量も大した事が無いこの女が? そう思いながら脈を確かめようと首へと手を触れようとすると――まるで雲を掴もうとした時のように、何の感触も無く女の姿が煙のようにゆらめき、そのまま散っていった。

「え?」

「ウイルスだね、多分痛みを倍増させるタイプの」

「まさかウイルスにやられたって?」

「違うよ、痛みが酷すぎて中身が事切れたんだよ」

 激痛によるショック死と言う事だろうか?

 所々現実の世界と常識が違う所があるので、あまり深く追求しない方が良いだろう。

 さて、と言ってゆうきは男の首を掴んで持ち上げ、そのまま窓へと投げた。抵抗をする事も出来ず男は窓ガラスを割砕いて飛んでいき、少しの間を置いて地面に落ちた音が聞こえてきた。

「人を傷付けて楽しむクズは抵抗も出来ずに攻撃プログラムにやられてもらおう」

「なかなかひでぇ事するな」

 むしろ爽快ですらあるゆうきの行動に、俺は自然と笑みを浮かべる。

「運良く攻撃プログラムに出会わずに生き残れるかもしれないじゃん?」

「あの傷で生き残るなら、誰かに助けてもらわないと無理だろうな」

 俺は外を見る事もなくその部屋を後にした。

毎回読んでくださってる20人くらいの方々ありがとうございます。

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