06
今回短いです
〈居住エリア〉
結局高校棟でもその中央制御室とやらに繋がっているらしい扉を見付ける事は出来ず、ナナと姉ちゃんと合流した俺達は居住区へと戻りナナの部屋に来ていた。
なんでミュータントの家にと文句を言ったゴミの口にバナナの皮が大量発生したが特に気にすることもなく、俺は気になっていた事を妹ちゃんに聞く。
「なぁ妹ちゃん、何処の部屋もこんな感じなの?」
「人によって違うよー。ボクや265番――お姉ちゃんの部屋だったら小物からぬいぐるみまで色々置きすぎてむしろゴミ屋敷みたいになってるし……あ、人間ゴミ屋敷のゴミ様の前でゴミ屋敷とか言わない方が良かったかな」
「変な気遣いいらねーから! ついでに人間ゴミ屋敷ってなんだよ!」
どちらかと言えば生ゴミ入れだろう。
「部屋の構造は同じ様な物だけど、デコレーションは人によってって感じだよー。多分ここまで殺風景な部屋は他には無いんじゃないかなー?」
「殺風景で悪かったね……今後の話をする為に来たんじゃなかったの?」
「ごめんなさい。まぁ今後どうするかって話をするにしても俺はここに何があるのかすら知らないんだけどな」
この未来世界において、どのようなエリアがどれほどあるのかを俺は知らない。最悪の予想ではあるのだろうが、ここが俺の知っている地球と同じだとは微塵も思えないのだ。同じだとしても、俺の知る過去のように解放的では無いのだろう。閉鎖的で局地的、ある程度断絶させた空間をエリアと呼び、どこでもドアのような移動装置によってエリアを移動する――今のところ立てられる予想では、これが一番現実的だった。
「まずここが居住エリア。大体千人分の部屋がある住宅団地なんだけど、ここにある建物の半分くらいは誰も使ってない見てくれだけの建物だね」
ケルベロスと命懸けの鬼ごっこを繰り広げたこのエリア、やけに広いなとは思っていたがなるほど二千人……もしくはそれ以上の人間が住める広さならば納得である。
今でこそ使われてはいないが、まだ人間が多かった頃にでも使っていたのだろうか? だとすると、今の荒れ具合は想像もつかないのでなるべく近寄らない方が良いだろう。
「次にさっきまで調べてて……体育館とか色々調べ残しもあるけどあれが学校エリアだね。小中高が並んでいて学生は全員あそこに通ってたね。ちなみに寮の設備もあるから部活によっては合宿なんかもあったりしたよ」
校舎内を見て回った感想としては、情報処理を専門とした学校のような感じがした。基本的にパソコンらしき機械が大量に配置されており、音楽や美術などの教室は平凡以下程度の設備だった。この未来世界において、それがどれ程重要視されているかが分かり、パソコンは大して得意でも無い俺には生きにくい環境だと知らしめられた。絶対二回に一回はパソコン使う授業あっただろ。
「あとは企業エリアにアミューズメントエリア、図書エリアに……まぁ、他にも何個か」
「急に雑になったな」
「だって知らないし……基本家でコード打ちの練習しかしてなかったから……」
心が苦しくなるのでやめて下さい。
「しゃーねーな、おいゴミ。活躍の機会を与えてやっから他に何のエリアあるのか教えてくれ」
「風俗エリア」
そんなのあんのかよ、と俺は未来世界にドン引きする。
「他には?」
「カップル専用エリア」
聞く相手を間違えたなと後悔したが時既に遅し。
「ちなみにその二つのエリアの利用者は滅多にいないらしいぞ」
「え、そうなん?」
「おう。俺らは基本恋愛なんてしないし特に性欲も無いからな。たまに興味本位で行く人がいるだけだ」
特に驚く要素は無いのだが、流石に千人全員に性欲が無いと言うのは信じ難い……が、何もかもが意味不明なこの世界だ。そうなのだと納得するしかないだろう。
「あ、じゃあゴミは童貞なのか」
チェリーボーイかよと笑ってやろうとしたが、真顔で「そうだけど?」と答えるゴミを見て俺はそれをやめる。童貞だろうが違っていようが、処女だろうが非処女だろうが、コイツらにとっては心底どうでもいい事のようだ。面白おかしい冗談にすらなり得ない。
「……えっと、他のエリアは?」
「知らね」
どうして自分達の住んでいる世界の事を知らないんだ、と思ったがそれは俺にも当てはまる事なのでとても言えなかった。ロシアのトップだれ? と聞かれても俺には答えかねるし、埼玉県の名産は? と聞かれても俺は知らないし、鳥取砂丘の広さってどのくらい? と聞かれても分からない。自分の興味の及ぶ範囲の事しか分からない俺と同じで、彼等も自分達が利用するエリアしか知らないのだろう。
「で、これからどうするかだけど……どうする?」
俺としては一段落したいところだが、俺がこの部屋から目覚めてまだ数時間しか経っていないのが現状だ。休むにしては早過ぎるが違うエリアを調べるにしては疲労の蓄積があるだろう。
「まぁ学校エリアの残りを探索するのが妥当なんだろうけど……正直歩き過ぎて疲れたかな」
あの程度でナナは疲労困憊のようだ。移動距離にしてもせいぜい4キロあるか無いか程度だ。小学生の登下校でももう少し距離があるだろう。
だが、そこまで疲れていない俺に対し他の三人はナナと同意見のようだ。俺を襲って俺を疲れさせた張本人であるクセに俺よりも疲れていると来た。
この未来世界の住人は舐めてるのだろうか? それとも本気で体力がカスなのだろうか? 引き篭もりのニートでももう少し体力あるだろうに。
「……え、まさか休息の流れ?」
「寝たい」
「ミュータントにいっぴょうぉっ!?」
「712番に一票!」
「264番と同意見……」
当然の流れのように口の中に焼き芋を突っ込まれたゴミは放置だが、全員が休みたいと言っている。
「マジで言ってんの? なんか聞いた感じだと命懸けで休む暇も無い極限のサバイバルゲームみたいなこの生存競争とやらをやっている状況下で? 寝たい? そんな緩い感じなの? 敵はハードモードなのに?」
「むしろ残り十人になるまで続くなら、出来る限り安全地帯で過ごしておくべきでは無いでしょうか」
私は引き篭もってるつもりは無いよ、と声高に宣言していた白髪少女は、提案するようにそう言った。
確かに生存確率を上げる方法としては悪くない。むしろ推奨すべき行動の一つですらあるだろう。だが、さっさとゲームから上がりたいが為にゴールを探すとあれだけ言っていたナナがそれを言うのか? とんだ手のひら返しではないか。
だが四対一では分が悪い。悪いどころか勝ち目は無い。反対しようものなら一人で勝手に探してと追い出されてケルベロスに喰われるのがオチだろう。
はぁ、と溜め息を吐いて俺は白旗をあげた。
その後ゴミはゴミ箱に、姉妹ちゃん達は自分達の部屋に戻り、俺はナナの部屋に残った。ナナはあっという間に睡眠へと落ちたが俺は少しも眠る事が出来ず、最後まで反抗しておけばなと俺は後悔する事になった。
まぁ週2投稿だし多少はね?




