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04

昨日は疲れてて投稿出来ませんでしたの……

「やっちまったよ……」

 彼女の体力の無さを完全に失念していた自分の失態だった。

 中学棟内部を探索し始め僅かもしない内から「疲れた」だの「休もう」だのとのたまっていた彼女を完全に無視しながら、彼女の目に何か違和感のある物が映らないだろうかと黙々と進んでいたのだが、彼女の声が途中から聞こえなくなっていた。

 最初はバテて置いて行かれたのだろうかと考え来た道を戻って行ったのだが、行く手を阻む壁を見つめてただ呆然と「ハメられた」と理解した。

 誰に?

 それは分からないが、彼女と別行動になってしまうのは俺の身が危険だ。何とか合流しなければならない。

 取り敢えず行く手を阻んでいる壁を叩いてみるが、周りの壁と同じような硬さ材質音と、完全に本物でハリボテという事は無い。

 これをぶち破れるような腕力を持っていればこの問題は解決するのだが、そもそもそのような腕力を持っているのならば、わざわざケルベロスから逃げ回ったりはしない。

 此処だけに壁が出来ているのであれば、回り込むだけで解決するだろう。もし他の場所に作られていたとしたら――そこまで考えて足を動かす。

 そんな疑問は一目見るだけで解決する。

 そして階を移動して歩いて、そして結論を出す。

 どうやら校舎を二つに分断するように壁が作られているようだ。

 一体誰が、どんな目的で?

 何も無い所に突然何かを発生させる技術、そこに無いものをいきなり出現させる奇跡……それには心当たりがあるというか、恐らく魔術しか可能性は無いだろう。

 では、誰がどうしてこのような魔術を使ったのだろうか。


 ――そんな俺の疑問は、突然両足を切り裂かれた事により吹き飛んだ。


「――ッ!?」

 苦痛よりも、驚きが大きかった。

 何しろ突然の事過ぎて、痛みを頭が理解する前に軽くパニック状態になってしまったのだ。

 ケルベロスでも現れていたのかと慌てて辺りを見渡してみるが、それらしい姿どころか俺以外の誰かすらも見当たらない――いや、いたわ。

 階段の角あたりからチラチラとこちらを覗いている男がいた。制服のような服を着ている黒髪短髪の男だ。もしかしなくても、あれで隠れているつもりなのだろうか?

 確かに様子を伺うにはこちらを見る必要はあるけれど、せめてもう少し何とかならなかったのだろうか?

 とは言え、相手との間にはある程度の距離がある。十メートル程度の距離しか無いけれど、一秒もかからずに魔術を行使していた712番を基準で考えると、相手の元に辿り着くまでには少なく見積もって一発、最悪の場合でも三発程の魔術を許す事になるだろう。

 チラリと太ももの傷へと目を遣る。ざっくりと深く切られているその傷が、何で付けられたモノかは分からないが……これを首に受けたら最悪胴体とお別れする事になってしまう。

 そもそも、どうして人間に攻撃された?

 あいつが攻撃したワケで無いのなら、そもそもあんなところからチラチラとこちらを見たりはしないだろう。

 ――どちらにせよ、取っ捕まえれば分かる事だ。

 このままジッとしていれば的だ……だがまずは、相手にとってどういう行動をされたら嫌なのかを考えよう。

 712番が校舎探索中――まだ疲れを見せていなかった頃――に説明してくれていた事を思い出す。魔術と呼んではいるが、どうやら発生させる場所は自分で選ぶらしい。そして範囲や攻撃の種類は自分の想像と技術が許す限りで可能らしい。だが、逆に言えば自分で考えてから発生させる為の準備に――つまりはコードを打ち込み始めるのだ。

 つまり、例え打ち込むのに一秒もかからないとしても、どういった攻撃を発生させるのかを考えるのに少し時間を要するのだ。

 ならば進行方向を予測させにくいようにジグザグに走ろうか? ――いや、それでは範囲が広い攻撃で対処をされてしまうだろう。

 どちらかと言えば、考える時間を与えてもらえない方が嫌だろう。どう言った攻撃をするか、どこに発生させるか……考える時間が無く焦ればそれだけ雑な攻撃になる可能性は高い。無論、冷静に対処出来るような相手であればただの的でしか無いが――どちらが可能性が高いかと言えば、真っ直ぐに全速力で突っ込む方がマシだろう。

 一種の賭けである。それも自分の命を賭けた負けられない大博打。

 ――思い切り息を吸い込み、一気に駆け出す。五十メートル七秒台の俺が十メートルを駆け抜けるのは単純計算で一秒弱。焦りを生む事が出来れば一発も魔術を受けずに辿り着ける。

 周りの景色がスローモーションに見えた。一歩一歩が重く、進むのがとても遅く感じた。それでも、死なない為に走る。

 もう少しで男の顔面に手が届く――そこまで迫って俺は身の危険を感じ咄嗟にブレーキをかける。すると、腹部と首元を何か鋭いモノが掠めた。

 もう一歩でも踏み込んでいれば、確実に死んでいた……その事実を直感し、背筋が冷たくなるのを感じる。

 俺が足を止めた隙にすかさず顔をチラリと見せていた男はその姿を現し、キーボードを出現させて何かを打ち込む。

 前に行くべきか、後ろに逃げるべきか。その二択で一瞬迷ってしまった。迷ってしまったからには下手に突っ込めない。

 慌てて後ろに下がる――が、魔術が飛んでくるどころか、男がキーボードに打ち込むのが終わりすらしていなかった。

「……なるほどな?」

 恐らくではあるが、大規模な魔術を使う程入力しなければならないコードは多くなるのだろう。そして、コードを打ち込む速さには当然個人差がある……そこから考えられる可能性は二つだ。

 まず、あの男が余程大規模な魔術を起こそうとしている可能性だ。だが自分を巻込みかねないような魔術をわざわざ使うか? と考えると可能性は低くなる――もっとも、自分を守る術を用意しているのならば話は別になるが。

 もう一つは単純に712番がコードを打ち込む速度が圧倒的に速いという事だ。中学校でパソコンをいじるような授業があったが、タイピング速度は使い慣れている人程速く、使い慣れていない人程遅かった。あの男がそこまで極めていない可能性は十分にあるだろう。

 ――魔術への対策をするよりも、今の間に男を取っ捕まえた方が良さそうだ。

 まだキーボードらしきものにせっせと何かを打ち込んでいる男を一瞥し、俺は近くにあった窓を力任せに蹴り砕く。

 バリィン! と喧しい音を立てて割れた窓の破片を――なるべく大きめのモノを選んで掴み、それを男へと投げつける。

「うわっ!?」

 何をするんだ、と言いたげにこちらを睨みつける男の手は当然止まる。それを確認してから走り出し、そしてスライディングで男の足元を掬う。

 男が盛大にコケたのを見てすかさず掴もうとするが――

「ッ!?」

 ヒュンッと何かが空を切るような音がし、俺の右腕と左肩にバックリと裂け目が付けられる。

 痛い……なんてモノでは無い。焼きごてでも押し付けられているかのような熱さと全身の神経を駆け巡る激痛、それに耐えきれずその場にうずくまってしまう。

 良く見れば、階段の下と上にそれぞれ少女が一人ずついたようだ……顔が似ているので、双子だろうか? 二人とも同じ制服を着ていて、二人とも青い色の長髪で青い目をしている。ちょっと未来ファンシーすぎない?

 男は黒髪短髪黒目といった至って標準的な見た目なのだが、何故かコイツだけ浮いているような感じがする。

「三対一とかちょっと卑怯過ぎませんかね……?」

 油断をすれば口から出てしまいそうな絶叫を堪えつつ文句を言ってやる。もちろん頭を働かせて状況の把握に努めながら、である。

 右腕、左肩、両の太ももとやられており満身創痍とも言える状況ではあるが、神経がやられていないからなのか(もちろんそれぞれの傷から激痛がするが)動かす事が出来る。男はコケており、階段の上と下に一人ずつ居座っており、キーボードらしきものを構えていつでも魔術を放てるぞ、とアピールしている。本来ならば見えない位置まで下がらなければならないだろうが――

「あーこりゃ、チェックメイトだな」

 ――冷静になれば簡単な話だ。三人居て魔術を放てる速度があれなら、警戒する必要も無いだろう。言い方は悪いが人質も手に入れているのだ。

 柔道なんて授業でやった程度なので抑え込みは出来ないが、人質なら人質らしい使い方がある。先程投げつけたガラス片が近くに落ちていたのでそれを拾い、男の首元へと押し当てる。

 不思議そうにこちらをしばらく見続け、ようやく状況を理解したのか、二人の少女はキーボードのようなモノを何処かへと消し、両手を挙げてこちらへと近付いてくる。恐らく降参のポーズだろう。例え違っていてもそこから取れる行動は限られている。

「まさか魔術無しで倒しちゃうなんて、思わなかったなぁー」

「全くですよ。しかも途中まで私達に気付いてすらいなかったのに」

 どうやら褒められているようでむず痒さを覚えるが、今回は運が良かっただけである。次も切り抜けられる保証は無い。

「えーっと、あんたら二人は降参って事で良いのかな?」

「うん」

「はい」

 あっさりとし過ぎて逆に拍子抜けではあるが……自分の身体の状況を考えれば非常に助かる。

「……だそうだが、あんたは?」

 盛大にコケた男へと聞いてやると、舌打ちをしながら渋々といった感じで両手を挙げた。こちらも同じく降参のポーズだろう。

 さて、と気を取り直し一番の疑問を解決する事にする。

「……で、なんで俺を襲ったんだ?」

「お前、この生存競争のルール知らないのか?」

 馬鹿にするかのように男が言ってくるので、少しムッとしてしまう。

「残り十人になるまで続くんだろ?」

「逆に言えば残り十人になれば終わるんだ」

 あー、と理解する。

 残り十人になるまで続くのなら助けようとはしない方が良いと考えた俺に人の事は言えないが、コイツは結構なクズのようだ。

「十人になるまで減らしちまえばいいってか?」

「ああ。まぁ負けたら元も子も無いんだけどな」

 参った参ったと笑いながら男は言う。

「お前ほんっ――とうにクズだな」

「賢いって言ってくれる?」

「小賢しい奴だな、あくまで小だけどな」

「てめぇ――」

 男が何か――恐らく文句を言いかけた時だった。


 物凄い轟音を立てながら行く手を阻んでいた壁が砕け散った。当然のように瓦礫をこちらへと飛ばしながら、跡形もなく粉砕されたのだ。


「おー、リョータ生きてんだ。良かった良かった」

 壁の向こう側から現れたのは綺麗な白髪の少女712番だった。まるで疲れを感じさせないような笑顔でこちらに手を振りながら歩いてきた。

「おま……あっぶねぇじゃねぇか!」

 悪運があったから何とかなったが、流星群のように飛んでくる瓦礫を見た時は流石に死を覚悟した。むしろ良く生きていたなと自分でも驚いているくらいだ。

 て言うか、あいつぜってー休んでたろ……。

 もっと早く助けに来てくれよと心の中で溜め息を吐いていると、俺の横で寝転がっていた男は「ゲッ、ミュータント」と意味ありげな台詞を吐いた。

 ミュータント? 突然変異?

「あー53番じゃん。え、リョータにやられたの? 魔術使えないリョータに?」

「うるせぇミュータント! ぶっ殺して――」

 53番と呼ばれた男の暴言は途中で途絶えた。

 何事かとそちらへと目を遣ってみると、53番の口には大きな氷の塊が突っ込まれてあって――

「53番だっさーい」

「実力差も考えずに変な事言うからー」

 やはり712番と名乗った少女の実力は頭一つ抜けているどころか、下手をすればこの男とは月とスッポン程の差があるのかもしれない。

「うるせぇミュータント、ぶっ殺して……何かな?」

 口を(物理的に)塞がれた53番へと笑顔で問いかける712番がとても恐ろしく感じられた。

まぁ読んでくれてる人の数なんてたかが知れてるんですけどね

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