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02

ここまでで一区切りだな、とか考えずに書いてたから02です。魔術の説明が難しかったらプログラミングみたいなもんだとおもってて

 一言で言うならワンルームの家。ドアを開けると玄関があり横に洗面所トイレ風呂を詰め込んだような部屋があり、正面には広い空間がある。

 本来であれば、その広い空間は小物や必要な物でレイアウトされているのだろうが、あるのはベットとローテーブルだけだった。一応ガスコンロや冷蔵庫のようなモノがあるようだが、一度も使われた事が無さそうな綺麗さだった。

 女の子の部屋だと言うので平凡な男子高校生らしくドキドキと緊張していたのだが、勝手に抱いていた淡い期待はものの無惨に打ち砕かれた。

 ベットに座っていいよ、と言われるがそれは流石にしんどいので、フローリングの床に腰を下ろす。そして早速で少し悪い気もするが本題へと入らせてもらう。

「これどうやって治すの?」

 改めて見ても酷い有様の両腕、傷だけならばともかく輪郭が歪んでいるこの状態を、一体どうやって治すのか皆目見当も付かなかった。

「ああ、ちょっと待っててね」

 そう言って彼女は手を前に出す。するとその手元に薄く光るキーボードのような何かが現れ……カタカタと何かを打ち込んでいく。

「あれ、操作受け付けないな……じゃあ自然治癒待つしかないか」

 良く分からない呟きが聞こえた直後、ローテーブルの上に包帯らしきモノが現れる。

 そしてそれを手に取り、俺の腕を圧迫するように巻き始める。これで治すのか? と言う疑問はあるのだが、ここから何かをするのだろうと思う事にする。

「改めて助けてくれてありがとう。俺は佐藤亮太だ」

「サトウ……? 私は712番だよ」

 自己紹介で番号? それとも自己紹介の習慣が無いのだろうか?

「えっと、712番……ちゃん、名前は?」

「名前? 肉とか野菜とか魚みたいな?」

 どうやら名前は無い……と言うよりも、番号管理をされているようだ。勿論現実的では無く到底信じられない事だが、信じられない事が起こりすぎている現状名前が無いと言われたくらいで「そんな馬鹿な」と取り乱したりはしない。

 どうやら自分は通っている高校の制服を着ているようだが、これならば証明書にもならないだろう。あと両腕の部分がボロボロになっているので無事に帰れたら買い替えなければならない。この金額は誰かに請求出来るのだろうか。

 話を戻すが時代が違えば常識も違う。常識が違うのなら考え方も違う。わざわざ名前を付けるよりも番号で管理してしまった方が管理者としては楽なのだろう。

 現に現実世界でもマイナンバーと呼ばれる個人の番号が割り振られている。腐る程人間はいるので数も膨大なモノになるだろうが、わざわざ個人の名前を覚える必要が無いのでその分楽になるだろう。具体的にどう使っているのかを俺は知らないけれど。

「えっと……712番さん。言って信じてもらえるかは分からないんだけど、どうやら俺は過去から来たらしい」

「ああ、生存競争の人数欠けが起きたら過去からサルベージされる事があるって聞いた事はあるけど、本当だったんだ」

 どうやら、今起きている生存競争とやらについては知っているらしい。

「生存競争……あのケルベロスは生存を妨害する為のシステム、みたいな感じなの?」

「正確には攻撃プログラムだね。生存者を探知すると襲いかかってくるの……まぁ、一体一体が人間よりも強いから生き残るのは困難だよ」

 良く生きてたねと自分を褒めてあげたい。僅かな時間の鬼ごっことは言え何度も死にかけた気がする。

「つーか、その生存競争ってのは何人参加なの?」

「千人だよ」

「千人……千人!?」

「ただ、敵が強く設定されてるから、能力の優劣に関わらず結構な人がやられてるみたいだね」

「その千人って、大半はここの住人なの?」

 それでも約千人の人間が死ななければならない状況はマトモでは無い。勿論半分くらいは過去から連れてきて、だなんて言われても過去の人間を何だと思っているんだと憤りを感じるが。

「そうだね……多分一人除いて999人はここの住人のはずだよ。むしろ、過去の人間が連れてこられる事態は人数欠けが無い限り起きない筈だし」

「つまり、どういうワケか人数に欠けが発生してしまったが為に、わざわざ過去から何億人といる中の内の一人である俺が連れてこられたと?」

「そうなるね、まぁ欠けた人に関してはこれが始まる前に病気か何かで死んじゃったんじゃないかな」

 絶望的なまでに不運過ぎる。

 これで大丈夫、と腕を叩かれる。見れば俺の傷口を隠すように、綺麗に包帯が巻かれていた。それだけで歪んでいる輪郭が直るとは思えないのだが……自然治癒に任せると言っていたので、時間を置いてみるしか無いのだろう。

 それで死んだら笑えねーな。

「ありがと。それで、参加者じゃない人達はどうしてるんだ?」

「全員参加だけど?」

「……は?」

「だから全員参加。ここの住人総勢千名による生存競争、それが今行われてる事だよ」

 総勢千名……たったそれだけしか生きていない? しかも、その千人がたったの十人になるまで続く? 人類はいつから自滅願望ならぬ絶滅願望を抱いたんだ?

「……死ぬんだぞ? なんとも思わないのか?」

「死にたくないから生き残ろうと必死にもがいてるんだよ。生き残りたくないの?」

 嗚呼、と頭を押さえたくなる。

 彼女は――いや、考えたくは無いけれどもしかしたら彼女を含めたこの時代の人間達は、そんな理不尽を強要されている事に何の疑問も抱いていないのだ。まるでそれが日常の一ページであるかのように、下手をすればせいぜい高校の嫌な授業に対する不満を抱く程度で、それを受け入れているのだ。

 死ねと言われて「えー嫌だなー」と言いながら死んでいっているのだ。死にたくないから生き残ろうとしている? 違う、それはただ単にスポーツへの意気込みのようなものだ。負けたくないから勝とうとしていると同義だ。本当に死にたくないのなら、この生存競争自体を拒絶する筈なのだ。

 もしかしたら、欠員の人はこの生存競争を拒絶したが為に死んでしまったのかもしれない。

「……ちなみにだけど、生き残ったらどうなるんだ?」

「そんな先の事は分からないよ……ただ、生き残らないと知る事は出来ないよね」

 まるで戦争をしている兵士のようだと、そう思った。自分達が何の為にこんな事をさせられているのかは分からないが、その先に何があるのかは生き残らなければ分からない。だから今すべき事に最善を尽くす――

 最後の一人は願いを叶えられるという事も、どうやら知らない様子だ。

 ん? とそこで疑問を覚える。どうして十人になった時点で終了なのに、願いを叶えられるのは最後の一人なのだろうか、と。

「……まぁ、考えても分かることじゃねぇな。あのケルベロス達を消し炭にした炎とか、この巻いてくれた包帯とか、一体どうやって出したの?」

「魔術だよ」

 頭が痛くなる。ただでさえタイムトラベルの時点でSF要素全開なのに、そこに魔術とか言うファンタジー要素をぶち込んでしまうのか。未来なら未来らしく進歩した技術とかでいいモノを、まさかの魔術だと?

 術とか式とか詠唱とかで奇跡の真似事を起こすアレ?

「って、魔術って言う割にはそれっぽい事してなかったよな」

 思い返してみれば、俺は包帯を出す時の彼女の行動をしっかりと見ていた。良く分からないキーボードのような物を手元に出現させ、何かをひたすら打ち込んでいただけだった。では、それ以外に俺が気付かなかった行動で魔術を行ったのだろうか? それとも、その行動自体が魔術を起こすモノだった?

「えーっと……当たり前にある技術だから説明が難しいなぁ。世界って情報に溢れてるよね? それで情報によって世界は作られてるよね。だから空間に干渉してその情報を書き換える事によって、現実を歪めて現象を起こす。それが魔術だよ」

 魔術無いなんて、過去はよっぽど不便なんだねと彼女は驚いたように言うが、今の説明だけで既にファンタジー要素を突き抜けていた。

 空間に干渉する? 情報を書き換える? 手札にあるカードの効果を書き換える技なら知っているが、流石にそんな技術は想像も出来ない。

 第一、それで何が出来るのだろうか。酸素を水素に変えられるのだろうか。それとも酸素を爆弾に変えて吸い込んだ人を爆発でもさせられるのだろうか。

「……それで何が出来るの?」

「何でも出来るよ」

 何でも出来るのかーそっかー人間は未来では全能になってるのかー。

「その顔は信じてないね、まぁ説明だけされても分からないだろうし、もう一回見せるよ」

 そう言った彼女の手元にはまたもやキーボードのようなモノが現れる。そして、その上で指が踊る。

 すると、机の上にブドウ味の炭酸飲料が現れた。しっかりと中身が入っているペットボトルは、見た限り封がされている状態だ。飲みかけを手品で出した、というワケでは無いらしい。

「……飲めるの?」

「勿論」

 恐る恐るそれを手に取り、封を破る感覚を覚えながらフタを開ける。シュワァっと炭酸が抜けていく音を聞きながら飲み口に口をつけ、ペットボトルを傾ける。口の中に流れてきた液体はブドウの風味がする甘い炭酸水で、喉を通っていく感覚も胃の中で弾ける感覚もしっかりとあった。

 うめぇ……じゃない、間違いなく本物だ。

「魔術を使えば無から有を創り出す事も出来るよ」

 むしろそれがメインだけどね、と補足説明をされる。

「じゃあ助けてくれた時の炎が熱くなかったのは?」

 炎を単純に出しただけならば、囲まれていた俺は蒸し焼きにされずとも火傷程度はしてもおかしくはない距離だった。それなのにも関わらず、あの炎は熱さを全く感じさせなかった。

「あれは攻撃対象を攻撃プログラムに絞ってたからね。道路が黒くなったりしてなかったでしょ?」

 いやそこまで見てませんでしたよ。見てたとしても注意深く観察してたワケじゃ無いんで覚えてませんよ。

「あーでも、なるほどな……魔術があるから、敵もあれくらい強く設定されてるワケか」

 ここの住人達は対抗手段を持っていたのだ。身体能力も一般的で武器も持っていない俺には逃げる事しか出来なかったが、魔術で倒すないしは追い払う事が可能であるのなら、生存確率はグッと上がるはずだ。

「多分そういう事だろうね。まぁでも、魔術を行使するにしてもコードを打ち込むのに時間がかかるから、結局やられる人はやられちゃうけどね」

 空間ハッキング系魔術とでも呼ぶべきだろうか。いや、流石に魔術と呼ぶには万能過ぎる。魔法や魔術の定義なんてそれぞれの世界で変わってくるのだろうが、物質の創造を容易く行える事を魔術や魔法の範囲内に収めてはいけない気がする。

「でもこれ、家ってか部屋が安全地帯なら芋ってればいいんじゃね?」

「芋る?」

「あー、つまり家の中に引きこもって外出しなければ安全なんじゃない?」

「まぁ、それはそうなんだけど……同じ場所に十二時間いると失格になっちゃうんだよね」

 何と言う事だ……休日のように眠ってしまっては、起きたら死んでたなんて事になりかねないではないか。

「失格って、死ぬの?」

「うーん、どうだろ。ただ資格が剥奪されるから、まぁ消されちゃうんじゃないかなぁ」

 つまり、睡眠食事風呂家事を十二時間以内に終わらせてまた外出しなければならないという事だろうか。生存競争だけではなく、こんなところもハードモードではないか。まさか落ち着く事を許されていないとは。

「ああ、例え安全地帯に隠れてる事が出来たとしても、私は引きこもって生き残るつもりは無いよ」

「何かする事でもあるの?」

 残り十名になるまで続く生存競争だと言うのに、俺のような戦えない人間を助けるとか?

 助けられた身で言えることではないが、それはやめておいた方が良いだろう。なにせ十名になるまで続くのだ。助けていてはこの地獄は終わらない。

「エリアの何処かに中央制御室への入口があるらしいから、それを探すの」

「中央、制御室……?」

 大規模な工場や、精密機械が大量に配置されているような建物を連想させる名前だ。

「そこに行くと、どうなるんだ?」

 何かが起きるのか、或いは何かがあるのか……それを聞かれた彼女は得意気な笑みを見せて、何故か自信満々と胸を張って答える。

「この生存競争から勝ち抜けする事が出来るんだよ」

やっぱり週2更新の方が良き?

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