19
鈍い頭を振り払い、何とか瞼を開ける。
「……あー、生きてる」
自分が一命を取り留めた事を理解し、何となくそう呟くと大きな赤い瞳が俺の顔を覗き込んでくる。その背後に見える景色からここがナナの部屋である事を理解する。
「なんだよナナ」
いってぇ、と言いながら上体を起こそうとすると、まるで介護を必要としているジジイの手伝いでもするかのようにナナが助けてくれる。
「いや、生きてるなーって思って」
「そりゃそうだろ」
少なくともこの世界では、死んだらすぐに消えてしまう。ならば、身体が残っている事が生きている証明となるはずだ。
「……治ってるのか?」
チラリと視線を横に向ければ、泥のように眠っているゆうきがいる。ナナがあの場に駆け付けたという事は、本来間に合わないモノを力技で間に合わせたからのはずだ。そうなると治っているのだが……見捨てた可能性も有り得る。
そんな俺の不安を消し飛ばすように、ナナは笑って「もちろん」と答える。
「そっか……そうなると、プロテクトぶち壊す力技が通じたん?」
「いや、普通に通り抜けて治したよ」
「マジかよ……」
つまり、十八時間はかかる作業を十四時間で終わらせて見せたのか。それは……すげぇな。
「はは、やっぱナナは主人公だな」
まさかそれだけの事をやってのけ、自分の疲労も気にせずあの場へと駆け付け、1番とあれだけの攻防を繰り広げたとは。
「私が? いやいや、私はそんなんじゃないよ」
「はは、ご謙遜を……つーか今気付いたけどこれ酷くね?」
見える範囲ではあるが、俺の身体には包帯がぐるぐる巻きにされている。感触的に全身がそうなっているだろう。つまり、そう――
「ミイラみたいだな」
「ミイラって?」
「ああ!」
「答えになってないよ……」
「そういや、あの後1番に動きは?」
顔面をブサイクに整形させられたかはデータモザイクにより定かでは無いが、殴られ続けた1番は「降参だ、助けてくれ……死にたくはない」と命乞いをした。
殺してしまえば後の面倒は色々と解決したのだが、ナナや双子ちゃんの手前という事もあって見逃してあげる事にした。
負け知らずで自分が一番強い、そんな1番だったからこそ、俺に――俺達に敗北したのはさぞ屈辱だっただろう。だからこそ報復が怖いのだが、トラウマとして植え付けた事が出来たかもしれないと考えれば悪くは無いだろう。
とは言えだ、ヤバイ奴を見逃してしまった事には違いない。その後の行動を監視――まではいかなくとも、気にはすべきだろう……反抗の芽があるなら潰す為にも。
「はは、知らない」
「だよな」
ストーキングをしているワケでも無ければ、わざわざそんな事に割ける人員がいるワケでもないのだから、分かるはずもない。
「いやぁ一回こういうのやってみたくてな」
「まぁ、その気持ちは分からないけどね」
分かんねぇのかよ、と笑っておく。
「……なぁナナ、これ治んのか?」
全身が包帯でぐるぐる巻きにされているとは言ったが、1番との戦闘により失った左手はそのままだ。肘から先が無いままだ。
常識的に考えれば治らないだろう。ファンタジー的に考えても異常な再生能力か発達した医学が無ければ到底無理だろう。
「んー、どうだろうね。私達は死にさえしなければ自分の身体にアクセスしていくらでも治せるけど……リョータの場合は操作が出来ないからね」
どうなるか分かんないと首を振る。
「なぁ、それってどういう事なんだ?」
「んーとね、分かりやすく説明するとアクセスは簡単に出来るんだよ。私達にはプロテクトがあるけどリョータには無いしね」
「え、無いの?」
「うん、でも操作をロックされてるって言うのかな……私達にはどうやっても弄ることが出来ないんだよ」
「じゃあ、治るか分からないけど自然に治癒するのを待つしか無いって事か」
「そうなるね」
そこにある気がするのに、見ても触ってもそこには無い。そんな不思議な感覚だった。
「そう言えばナナ、1番にめっちゃキレてなかった?」
何となく思い出したが、ゴミにミュータントと呼ばれた時も特に怒らずに仕返しをしていたナナだが、俺が見るに1番に対してはブチギレだった。
確かにイケメンだし色々とムカつくところもあるが、何か気に触るような事でもあったのだろうか。
「ああ、だってリョータをこんなんにしてたしね」
「え、俺っすか」
「うん」
ああ、それは何と言うべきか――そこそこ恥ずかしいな。
「なんで俺やねん」
恥ずかしさを誤魔化す為に、ボケにツッコムように言ってみる。が、返ってきた答えは想像より重いものだった。
「だってリョータは私と話してくれた初めての人だしね」
笑えないし嬉しいとも思えない答えだ。先程まで恥ずかしさを感じていた自分がアホらしく思えてしまう。
それ程までとは、流石に想定外だった。
いくら、どれだけの人にイジメられようとも、絶対味方になってくれる人は存在する。それは例えば親だったり、肉親だったり、同じような境遇の人間やネットの友達など、状況環境によりけりではあるが、一人は必ずいるものだ。ナナの場合なら、そう……家族とか――
「……そう言えば、家族いないの?」
気にしていなかったワケではない。だが、考える暇が無かった……いや、それも言い訳だろう。単純に自分の置かれた境遇を理解しようとしすぎて周りを気にしていられなかったのだ。
考えれば分かる事だった。家族がいるならそもそも自分の部屋へと簡単に迎える事は出来ないだろう。番号毎に部屋が与えられているのなら家族とバラバラに住んでいてもおかしくは無いが、行動は共にするだろう。
「いる人にはいるよ。ほら、264番と265番みたいに」
「あー双子ちゃんか……でも親は?」
「いる人にはいるよ……クラスの四人に一人は近親者がいるって感じかな」
「不謹慎な言い方だけど……死んじまってるのか?」
考えられるとすれば、今は――現在は半分ほど減ってしまっているが――千人いるが昔はもっといた可能性だ。生存競争をやる為に千人まで減らされた可能性もある。
「いや、元からいないよ」
「……は?」
「いる人には最初からいるし、いない人には最初からいないよ」
「じゃあ誰が子供を育てるんだよ」
「育てるも何も、私達がやるべき事は生存競争へ向けた学習だし」
はぁ?
「流石に常識違いすぎて笑うわ……はは、えーっと? そもそもどうやって産まれた?」
「知らない」
知らないと来たか、これはお手上げだ。
「あー、えーっと……ナナ今十四最高だよな。なら八歳くらいの頃の記憶とかある?」
「私が持ってるのは三年前までの記憶だけだね……他の人も多分同じじゃないかな?」
「なるほどな……」
もし全員が同じ時からの記憶しか無いとするならば、集団での記憶喪失だろうか?
なるほど――ここが未来の世界と言うのも怪しくなってきたな。
千人程の人間を拉致し、記憶を消去し、何かの実験をしている? 生存競争と銘打って、何をしているんだ?
そこら辺を探れば、この生存競争をさっさと終わらせられる可能性も出てきそうだ。
チラリと視線をナナへと向けると「なに?」と笑う。
ただの可能性を告げて、期待をさせるワケにもいかないだろう。
「いんや、何でも」
そこら辺の事をするにしても、まずは休まないとだな。
「そういや俺って居住エリア合計何時間いる事になってるんだ?」
「学校エリアで気絶して私の部屋まで運んで寝かして……かれこれ十一時間だね」
休んでる暇ねーじゃんふざっけんなよ。
「取り敢えずエリア移動して、もっかい戻ってこなきゃなんねーのかよ……」
恨むべきはエリア滞在時間の限界、芋りを許さないルールは俺的に悪くは無いがゆっくりと休めないのは大問題だ。出来ることなら半日眠りコーヒーを飲みながら残りの半日をくつろいでいたいのに、そのどちらも許してはくれない。
「666番も一応連れて行かないとだね……リョータ背負ってあげて」
「この状態で背負うのは辛いんだけど……しゃーねーか」
次投稿したら多分しばらく投稿しません。続きは気が向いたら書いていきます(多分書き方変わってると思うけど)




