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〈居住エリア〉

 意識を失ったままのゆうきを背中に担ぎ、居住エリアまでやってきたは良いがまたもや道に迷っていた俺は、運良く双子ちゃんと合流する事が出来た。

 やば気な雰囲気を察した双子ちゃんは流れるようにナナの部屋へと案内してくれたのだが、ナナもゴミも戻ってきてはいなかった。

 一先ずいつものように包帯を出してもらい、それを自分の首に巻きながら双子ちゃんへと「ゆうきの状態って調べられたりしない?」と聞いてみたが首が縦に振られる事は無く、ゴミかナナの帰りを待つ事にした。


 そして二時間が経って、部屋の主であるナナが戻ってきた。


「何があったのか説明してくれる?」

 と、口を開いたのはナナだった。俺が包帯を首に巻いているのとゆうきが床で横になっている状況を見て、何かがあったのだと察したのだろう。

「手短に説明すると、ゆうきが1番に喧嘩をふっかけた」

 すぐにゆうきの傍に腰を下ろし、キーボードを出現させて何かを打ち込み始める。

「なるほど、リョータはそうなるのを危惧してついてったんだね?」

 言外に無能と言われている気がして心が痛むが、悔しい事にその通りで認めるしか出来ず、俺は首肯する。

「ああ、真っ直ぐ学校エリアに向かうゆうきを止めるべきだった」

「それはいいよ、どっちにせよリョータには666番を止められなかっただろうし」

 何かを打ち込み続けていたナナは急に手を止める。

「666番が目を覚まさない理由は分かったよ」

「聞かせてくれ」

 双子ちゃん達に聞いても分からなかった事だ。ゆうきが復活出来るか出来ないかでは戦力も大きく変わる。回復すると良いのだが……。

「体内にウイルスが入れられてる。リョータに分かりやすく説明すると……毒、かな? じわじわと体内を侵食するタイプのやつで、意識が戻らないのはこれが原因だね」

 あの時、ゆうきを吹き飛ばしたのは魔術だったのだろうが……まさか体内に毒を入れていたとは。双子ちゃんと見た時には傷など無かったのだが、傷を与えずに直接打ち込んだのだろうか。

 どちらにせよ、そんな事も出来るだなんて厄介極まりない。

「治るのか?」

 俺の問いに、ナナは首を振る。

「治せなくは無いけど、プロテクトが滅茶苦茶に書き換えられてるから私がやるとしたら相当時間がかかるかな」

 書き換えた1番でも無い限り、とナナは言う。

 つまり1番の首根っこを掴んで連れてきて、治させれば早いのだろうが……それでは本末転倒だ。

「ナナでも治せない事は無いんだな?」

「うん、時間はかかるけどね……少なく見積もっても十八時間はかかるかな」

 滅茶苦茶かかるじゃねぇか、と心の中で思ったのだが表情にも出ていたらしく、ナナは頬を膨らませて仕方ないじゃんと言ってくる。

「滅茶苦茶に書き換えられてるだけならまだいいんだけど、一定時間毎に更に書き換えられるんだよ……こんなの普通の人じゃまず無理だよ」

 普通の人では無理らしいので双子ちゃんへと視線を送って見ると、二人共全力で首を横に振っていた。私達には絶対無理だとオーバーなリアクションで教えてくれる。

「じゃあナナに頼るしかねーか……ゴミとかにも出来るかな」

 無理だね、とナナに即答される。

「じゃあ悪いけど頼むわ……ていうか、毒なんてどうやって治すんだ?」

 物理的な怪我ならば包帯を巻いて治せるのだろう。俺の首の傷もゆうきの目の怪我も包帯を巻いて治癒を待っている。だが毒に侵された人間を治すとすれば、投薬治療くらいしか思い付かない。

「基本的には怪我と同じだよ」

 包帯巻くの?

「包帯巻いて治るワケねーじゃんバカなんじゃねーの? って言いたそうな顔してるけど、そもそもわざわざ包帯を巻いて怪我を治そうとするのはリョータだけだからね」

 そんなにわかりやすい表情していただろうか?

「じゃあ他の人らはどうやって治してんの?」

「自分の身体にアクセスして、怪我している部分を修復するんだよ。周辺細胞があるべき姿を記憶しているから、それを再現するようにね」

 ちょっと何言ってるのか分かりませんね。

「へー、毒もそれと同じように治せるって?」

「うん、体内に紛れ込んでいる異物を排除して、汚染されたりダメージ受けた所を修復する……んだけど、666番の身体へのアクセスをプロテクトに阻まれてるから、まずはそのプロテクトを突破しなきゃいけないんだ」

 人間の話をしているのかパソコンの話をしているのか分からなくなってくる。

「あーあと、666番の包帯は怪我の治療の為じゃ無いよ」

 自分で治せるしね、と言われてそう言えばそうかと納得する。

「え、じゃあなんで包帯なんか巻いてんだ。ファッション?」

「多分傷付きなんだろうね」

 まーた新用語だ、いい加減過去の人間である俺にも分かりやすい言葉で話して欲しいものだ。今なら若者言葉が分からない高齢者の気持ちが良く分かるぜ。

「あはは……簡単に説明すると、元から傷とか怪我がある状態で、いくら治そうとしても治せないんだよ。包帯で隠してるくらいだから、見せられないような怪我なんじゃない?」

 元からあって、治す事が出来ない。

 なるほど、と口で言いながら俺は理解するのを諦める。全容が微塵も見えてこないこの世界の謎のうちの一つだろう。

「私に666番を任せるのは分かったけど、リョータはこれからどうするの?」

 これからどうすべき、か。

「1番を倒さなきゃならない、って目標っていうか目的は決まってるんだけどな……具体的に倒す為に何すべきかが思い付かないってのが現状だわ」

 お手上げだよ、と両手を挙げて巫山戯たように言ってみせるが実際のところ打つ手なしである。俺の頭の中ではゆうきとナナとゴミと双子ちゃんを連れて、今ある最大戦力でぶつかりこちらへと下らせるか過激派狩りの継続をやめさせるか、最悪殺すと言うシナリオを思い浮かべていた。

 だが、戦力の一つであるゆうきは一足先に1番にぶつかり意識不明となっている。

 ではゆうきを欠いた人員で1番とぶつかるか? ゆうきの治療の為にナナを残せば俺とゴミと双子ちゃんしかいなくなる。それで勝ち目があるか?

 例えゆうきを切り捨ててナナを連れて行ったところで、楽観的に見ても味方の誰かが死ぬだろう。

 今ぶつかるのは得策では無い……が、ゆうきが回復するまで1番が待ってくれるだろうか?

 待ちそうではあるが、待つ保証はない。十二時間ルールがある限り安全地帯に引き篭もっているワケにはいかず、のこのこ部屋から出ていった所を狙われるのがオチだろう。

「せめて、1番の使える魔術とか得意魔術とかが分かればなぁ」

 対策の一つでも立てられそうなモノなのに、と思っているとナナが思い出したように「あっ」と口を開く。

「知ってるの?」

「私は知らないけど、序列を決める時の能力測定の結果なら残ってるんじゃないかな」

「詳しく」

「序列を決めるのに能力を測定して生存能力の高さを見るんだけど、それは住民全員が参加するヤツで、私だったら中学校で、1番だったら高校で測定してる筈なんだよ」

 全員参加と言う事は、全国学力テストを全年齢版にして全員強制参加にしたようなモノだろう。学生ならば学校で、社会人なら会社か何処かの建物でと集めて実施する事になる。

「つまり……」

「うん、高校か……もしくは図書館にその時のデータが残ってると思うよ」

 高校なら職員室か資料室だろう。図書館にある……と言うのは、データを集計して纏めて保存するのに利用しているのだろうか。

「なるほどなぁ……いや、確かゆうきが知識体力運動能力魔術の四つの項目でって言ってたな。知識と体力は良いとして、他の二つはどうやって測定したんだ?」

 どうせ知識の項目はペーパーテストだろう。体力もシャトルランや持久走などで見ているに違いない。

「運動能力は反復横飛び、腹筋、腕立て、短距離走で基本能力を見て、攻撃プログラム十体を相手にどこまで動けるかで結果を出すよ……まぁ、666番とか肉体改造するような人以外は一体目で大抵やられるんだけど」

「え、殺されるの?」

 そこで死んだら生存競争に参加すら出来ないではないか。

「いや、説明するのは難しいんだけど……実際に怪我をするワケじゃ無いよ」

「それもそうだな」

 死んだら元も子も無い。それなのに死の危険があるようなテストをする筈が無いではないか。

「それで魔術なんだけど……攻撃魔術、防御魔術、物質創造魔術の三つの項目でそれぞれ規模が大きいモノと小さいモノで基本能力を見て、実際に攻撃プログラム十体を相手にどこまでやれるかで結果を出すよ」

 うわぁ、こう改めて聞くと中二病末期症状みたいな恥ずかしさを感じる。物質創造魔術とか痛さの塊じゃねーか。

「じゃあ発動の速さを見るってワケじゃ無いんだな」

「発動が速ければそれだけ攻撃プログラムを圧倒出来るから、見られはしないけど重要ではあるよ」

「あーそっか」

 だが、これなら苦手を見つける事は可能だろう。もちろん全部得意! みたいな人間もいるのだろうが、その中でも比較的遅い項目がある――といいなぁ。

「なるほどなぁ……まぁ、見れば分かる事もあるだろうし、俺は1番のデータでも見て対策立てるとするわ」

 そんなに悠長にしている時間を与えて貰えるかは分からないが、対策もせずに真正面からぶつかれば敗北するだろう。ならば、少しでも勝率を上げるために危険を冒すべきだ。

 ……人によっては、勝手に危険な行動を取って死ぬよりは、みんなでぶつかる方が良いと思うのだろう。

 そう考えてしまうと、果たして自分の判断は間違っていないのかと不安になってしまう。その不安を解消したくて、俺はナナに聞いてしまう。

「……大丈夫だと思う?」

 中学生に安心を求めるのかよ、と笑われてしまいそうだ。

 そして案の定ナナは笑った。ただその笑みは決して馬鹿にするようなモノでは無く、安心を与える為の笑みだった。

「リョータなら大丈夫だよ」


 その言葉に、俺は安心するどころか逆に不安になってしまう――また、自分をしっかりと見てもらえていないような気がして。

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