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 全身が凍り付いてしまいそうな程に寒かった。

「何、これ……」

 ここは居住エリアにある8番の部屋である。基本的にボク達に割り振られている部屋というのは間取りも壁の色も窓の位置も基本的に変わらない。誰がどこの部屋であろうと全く同じ見た目の部屋を用意されており、そこをどのように飾るかは人によって違う。

 例えばミュータントである712番の部屋なら用意された状態そのままであり、何一つとして自分が用意した物は無い。逆にボク達姉妹の部屋は(番号の数だけ部屋が用意されているので、当然ボク達二人には二つの部屋があるのだが同じ部屋で暮らしていた)小物やら可愛い物や、可愛いカーテンに可愛い壁紙と相当飾り付けてある。

 部屋には個性が出る、それは分かっていても――この光景は余りにも想定外だった。

「凍ってる……ね」

 姉である265番が呟く。耳を疑うような事を言っており、普段なら笑い飛ばすような冗談にしか聞こえないのだが……それを見ているボクには、ただの事実としてしか認識出来ない。

 部屋が凍っている、と言うよりは部屋を氷が覆っている、と表現すべきなのかもしれない。ベットを始めとして机やテレビ、お風呂もクローゼットも、床や壁や天井すら、全てが氷に覆われて凍り付いている。

 そんな異様な部屋の中で、もっと目を引く物があった。

「氷の彫像、かなー?」

 十数体あるそれは、等身大の氷を削って作ったような人形だ。髪の毛や服のシワなどをかなり細かく表現しているソレを見ると、何処かの芸術家が作ったのだろうかと思えるような出来栄えだ。恐ろしさを感じると同時に素直に上手いと思った。

「……けど、ここの部屋の持ち主って」

 姉も理解しているが、ここの部屋の持ち主である8番は小学生高学年である。その年齢でこれ程の作品を作れるとは、余程才能があるらしい。

 長い時間滞在していたワケでは無いが、部屋の気温のせいか髪の毛の先がカチカチに凍っている。作品を溶かさない為にこんな気温にしているのだろうか?

「なんでボク達がこんな事しなきゃいけないんだろうねー」

 我慢せずに不満を呟くと、姉は仕方ないと答える。

 仕方が無い事は十分に理解しているのだが、やはりめんどうな事はやりたくないのが人間だ。

 リョータの生存を確認し、これからの方針を話し合ってきたゴミ様はボク達に「8番の部屋を調べてきてくれ」と頼んできた。

 本来居住エリアの個室と言うのは、許可を与えない限り他人は入ってこれない仕様になっている。だから生存競争が始まっても自室に篭る人は多い。わざわざその部屋を調べるにしても許可を貰わなくてはいけなくなってしまう。

 それでゴミ様は鍵を渡してくれた。ゴミ様が言うには「一度だけどんな鍵でも開けられるキー」らしく、実際に許可を貰っていない私達も8番の部屋へと入る事が出来た。

 そんなボク達が知りもしないような道具を渡してまで調べさせようとゴミ様はしてきたが、当然ボクは面倒だからと断ったのだが……「番外を助ける為だ」とゴミ様は言った。まるで人の気持ちを知っていると言わんばかりに。

 確かにリョータの事は尊敬している。ボク達姉妹が揃っても、攻撃プログラムの相手は一体が限度である。それなのに彼は、魔術も使えないのに四匹を相手取って生き延びたと言うではないか。

 オマケにボク達が束になっても勝てないゴミ様を相手にして、やはり魔術も使えないのに簡単に倒してしまった。

 ゴミ、と簡単に言うが53番の防御魔術は相当なモノで、発動までの時間が私達姉妹での攻撃よりも速くそのプロテクトは私達なんかの攻撃では通りもしない。並の過激派では恐らく勝てないだろう。彼にはそれだけの実力が確かにあるのだ。

 そもそも私達が戦闘すると言えば魔術の競い合い、と言った固定観念のようなモノがあるのでリョータの戦い方は眼前に想定外ではあったのだが……それでも、素直に凄いと感心しており、彼と行動していればボク達姉妹も揃って生き残れるのでは? とすら思える。

 そんな彼の為に、と言われれば動くしかない。ひいてはボク達姉妹の為になるのだから。

 そしてゴミ様は、理由の続きを話した。

「まず事実として、番外はミュータントに絶対の信頼を置いている。ミュータントは中央制御室への入口を探しているらしく番外はそれを手伝い俺達もその手伝いをしている。でも考えてもみてくれ、どうしてミュータントが中央制御室を見つけようとしてるんだ? あいつはどんな心持ちでこの生存競争に挑んでるんだ?」

「俺は712番の実力を素直に評価している。序列三位なんて位置にはいるが、恐らく一位と大差ないだろう。だけど、あいつがそこまでのし上がれた原動力はなんだ? ――確実な情報じゃ無いからそれは言わないが、裏切らない保証は無い。そして、あいつが裏切り行為を働いた時……一番危険なのは傍にいる番外だ」

「番外の言葉を借りて言うなら最悪の想定だ。俺はミュータントの取る行動の最悪を想定してお前達に頼む。序列四位の8番を仲間に引き込むために、あの小学生の部屋を調べて情報を集めてくれ」

 きっとリョータが聞けば「お前意外と頭回るんだな」と言って笑っただろう。実際にボク達も、ゴミ様の想像以上の頭の良さに驚いた。

「でも、情報って言ってもなぁー」

 部屋をグルリと見渡してみるが、基本全てが氷に覆われている。勉強机の引き出しも開けられなければクローゼットも開けられず、ベットの下も覗けやしない。

 そうなると、氷の彫像しか無いのだが――

「264番、これ……」

 姉が何かを見つけた様で、彫像の一つを指さしている。

「どれどれー」

 何処か見た事があるようなその彫像を眺める。私達と大して身長が変わらないソレは、どうやら女性のようだが……。

「あー、あーそう言うやつかー」

 氷で作られている土台に、どうやら作品名を刻んでいるようだ。そして、この作品に彫られている番号は――

「これで十分だよね……?」

 自信が無さそうな姉の問い掛けに、そろそろこの寒さが限界に感じてきた私は頷いた。

「これは確実に他人に知られたくないやつだろうね」




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