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〈学校エリア〉

 俺はゆうきの過激派狩りを手伝う事にした。

 別に「人殺しを楽しみたい」や「他者を蹂躙する快楽に溺れたい」と言った危険な思想に浸っているワケではなくて、一応しっかりとした理由がある。

 主な理由は二つ。一つは「中央制御室なんてモノは生存競争にやる気を出させるための嘘っぱちで、実はありませんでした」と言った展開になった時、少しでも生き残れる確率を上げる為。

 もう一つは「ゆうきが無茶をする可能性がある」からである。

 俺を瀕死まで追い込んだ過激派の男――その面を見るだけで内からイライラが無限に湧き出してくる程のイケメンである1番、序列一位であるソイツに単騎突撃をしかねないからである。こう言っては悪いが、ゆうきに勝ち目は微塵も無いだろう。

 その展開になりそうになった時に、俺がゆうきを引きずってでも1番から離す為に付いてきたと言っても過言では無い。

 それに、一つ目の理由のオマケ扱いになるが、俺達が1番を倒したとして、もしそれを誰かに見られていたとしたら「序列一位の過激派を倒すヤバイ奴らがいる」と噂になる可能性がある。つまり1番よりも強い集団として恐れられる事になり、バラバラに生き残りを減らしている過激派達が徒党を組んで襲いかかってくる事も十分に考えられる。そうなれば俺達が生き残れる確率は相当低くなってしまうだろう。

 戦争は数なのだ、タイマンで負け無しの二丁拳銃使いが十人いた所で、千人の軍人を相手にしては勝てる筈もなく、せいぜい遠距離からの砲弾で挽き肉になるだろう。どこぞの超絶スナイパーのような破格の実力を持った十人であればどうなるかは流石に分からないが、例え序列一位の1番であってもあくまでも集団の頂点でしかなく、集団から飛び抜けているワケではない。

 それで大きな変化は無くとも、いずれ敵になるモノは今のうちに排除してしまった方が後が楽になるだろう、と言う事だ。

 と、色々考えた結果あるかどうかも分からないかゴールを探すより、チマチマと敵を削る事を選んだのだ――が、最悪な事に俺の二つ目の理由の方が起こってしまった。

「やあ1番、悪いけど殺させてもらうよ。理由は言わなくても分かるよね?」

 と、笑顔でゆうきが聞き、顔面をメタメタにしてやりたくなるようなイケメンは爽やかな笑顔で答える。

「やあ、666番。理由って言うと、俺が過激派だからかな? 幽鬼ちゃん」

 足取りも軽やかに、意気揚々と学校エリアへ向かうゆうきを見て嫌な予感はしていた。どうして学校エリアなんかに行くのだろうか、と答えは分かっているのに分からないフリをしながら考えていた。いや、流石にそこまで考え無しでは無いだろうとたかを括っていたのだ。それとも、俺の忠告ならば聞くだろうと言う油断かもしれない。

 どっちにしろ、想定していた最悪は起きてしまった。

「私のダーリンに手を出したからだよ」

 その表情から笑みを消し、背筋が凍ってしまいそうな程冷徹な顔になる。だが1番は、そんなゆうきを見もせずにチラリと物陰に隠れている俺の方へと視線を向ける。

「へー、どうやって生き延びたのか分からないけど……なるほどね」

 と、まるで全てを理解したかのように頷いた。

 ゆうきは鉈を握り締め、いつでも飛び出せるようにと臨戦態勢に入るが、1番はあくまでも余裕を見せていた。構えもせず、警戒をしている素振りも見せず、自然体で周りを眺めている――

 ――と、思ったのはどうやら俺の油断だったようだ。

 爽やかな笑顔から一転し、子供が楽しみながら遊んでいるような無邪気な表情で1番は俺の方へと駆け出した。ゆうきに背を向けて、俺の方を真っ直ぐに見据え……どうやら俺は、未だにあいつの玩具として認識されているようだ。

 背中を向けて今から逃げ出しても無理だと即座に判断し、俺は右手に持っている鉄パイプを握り締める。射程圏内に1番が入ったら、容赦なくこれ叩き付けてやる……そう意気込んで構えようとするが――

「そんな玩具でどうにか出来るのでも?」

 ――俺の右手から重さが消えた。

 何が起こったのかと握り締めている鉄パイプに目を遣ると、それの長さは三分の一程度になっていた。

 まさか切られたのか!? あの一瞬で!?

 そんな驚きを隠せずに数歩後ろへと下がった俺は気付く、自分の首もある程度切られている事に。

頚動脈を切られた首から鮮血が噴き出すように、俺の首からも大量のデータが勢いよく飛び出していた。

「なん……」

 で、を言おうとした時には既に、1番は俺の懐へと潜り込んでいた。喧嘩慣れでもしていたのなら1番を蹴り飛ばす事も出来ただろう。だが、ただの平凡な一学生に過ぎない俺には咄嗟にそのような行動を取ることは出来ず、うわっ、と情けない声を出しながら後ろに仰け反り足ももつれて無様に倒れてしまう。

 終わった……そう諦めかけた時、1番の背後に揺らめく影を捉える。

「ぶっ殺す!」

 殺意に満ち溢れたゆうきが1番の背後から鉈を振り下ろそうとし、それに気付いた1番は横へと回避する。そして俺は強打したケツが凄く痛い。切られた首よりも。

「怖いなぁ……そんな怖い顔しなくても、彼を殺した後で相手してあげるよ」

「はは、私は眼中に無いって?」

 無いね、と1番はキッパリ答えた。

「私の序列知らないワケじゃ無いよね?」

「六位だよな、知ってるよ」

 でも、と1番は続ける。

「所詮は六位だ」

 今のうちに立ち上がる。首からのデータの流出が酷いので一応手で傷口を押さえては見るが、あまり効果は無さそうだ。

「それだけの差しか無いなら勝てるとでも? 幽鬼とかって恐れられてるくせに大した頭も無いんだな。それだけの差があるんだよ」

 六位じゃ一位には勝てないよ、と1番は笑う。お前に勝ち目は無いんだよとゆうきを笑っているのだろうが、はっと馬鹿にするように笑い返すゆうきを見てイケメンの表情は曇る。

「何かおかしな事言ったっけ?」

「はははっ、言い出したのは確かに私だけど、ちょっと序列にとらわれ過ぎなんじゃない? 序列はあくまでも生存能力の高さを競うモノであって、個々の強さを比べたモノじゃ無いんだよ?」

「だから? 戦闘能力なら自分の方が上だとでも?」

 まだ笑うゆうきに対して、イケメンは明らかな不快感を表情に出す。

「違うよ違う……生き残ろうとせずに、死ぬ気でやればどうなるかは分からないよ? って話だよ!」

 一瞬だった。話しながら意表を突くように動き出したゆうきは持ち前の瞬発力と素早さで1番へと肉薄し、持っていた鉈を力任せに振り下ろした。そして、1番はそれを自分の左腕を犠牲に受け止めた――のだが。

「カハッ……」

 攻撃を仕掛けた側であるゆうきの身体が宙を舞った。

 何が起きたのか理解出来ない、そう言った表情のゆうきはそのまま俺の方へと落下し、俺は下敷きになり身動きを封じられる。

 敗北が確定した、そう諦めた。この状況から巻き返せるようなとっておきの策も無ければ、圧倒的不利な現状を打開するような能力も俺には無い。ナナより魔術の発動が早く、身体能力も俺と同程度の1番を相手にして、苦しそうに呻いているゆうきはダメージを負っているからか身動きが取れず、俺は動く為にゆうきをどかす必要がある。

 どんな状況でも冷静に、そう常々心掛けていた俺は当然今も大して良くもない頭をフル稼働させて様々な策を考えるが、その尽くが無駄に終わるだろう。

 将棋の詰みで、チェスのチェックメイトだ。

 1番は相変わらずの爽やかな笑みを浮かべたままこちらへと近付き、吹き飛ばされた際にゆうきが手放した鉈を手に取りそれを振り上げ――

「やめた」

 と言って落とした。

「……は?」

 1番は笑う。

「玩具を簡単に壊しちゃつまらないだろ?」

 そう、前回目を合わせた時から俺は1番に玩具として認識されていた。そして、アキレス腱を確かに切断したはずなのに歩くどころか走って見せた俺は、非常に壊れにくい玩具かもしくは珍しい玩具として見られている。

 だから見逃すって?

 そんな俺の疑問を汲み取ったのか、1番は続ける。

「過激派狩りしてる幽鬼ちゃんを味方につけてるあたり、俺をどうにか倒そうと仲間集めでもしてるんだろ?」

 どうして分かったんだと素直に驚きたくなるが、どうせカマをかけているに違いない。そう自分に言い聞かせて表情をなんとか保つ。

 ふと視線を下にやってみると、ゆうきは意識を失っていた。何か――恐らく魔術だろうが――で吹っ飛ばされ俺をクッションにし、つい先程まで苦しそうに呻いていたはずなのに。

「だったらそいつ等まとめて一網打尽にする方が掃除も早く終わる」

「大した自信だな」

「一位だからな」

 自分が死んでも良い、その覚悟で挑んだゆうきが与えられたのは左腕の傷のみ。それだけやってそれしか傷を与えられないのなら、生存を目的として戦った場合ゆうきに勝ち目は無いだろう。

 それが六位と一位の差である。

 では三位と一位の差は?

「どんな隠し玉を用意してるのか、或いはこれからするのかは知らないけど……俺は君に期待するよ、玩具君」

「ははっ、どうして俺に期待するんだよ……期待するなら俺がお礼参りの時に連れてくる仲間の方だろ」

 そもそも、1番の性格からして見逃してあげる流れから突然「やっぱやめた」と言って殺しにくる可能性は高い。

 であればこそ、俺は変わらず右手に握り締めている軽くなってしまった鉄パイプを離さない。

「まぁ、それは頼れる仲間と合流した時のお楽しみってヤツかな? どうやら君は魔術ほとんど使えないみたいだしね」

 魔術を使える人なら気付ける何かがある……? 知らぬ間に何かトラップを仕掛けられたか?

「これは返してあげるよ」

 そう言って1番は足元に落とした鉈をこちらへと蹴り飛ばす。そのまま自分の足元に置いておけば少しでもこちらの戦力を削れると言うのにそんな行動を取れるのは、鉈があろうが無かろうが大して変わらないという1番の絶対的な自信からだろう。

「次会う時を楽しみにしてるよ、玩具君」

 警戒を緩めない俺を見もせずに、1番は悠々と背中を向けて違うエリアへと移動していった。


「助かった……」

 ドッと疲れがやってくる。今の今まで保っていた緊張の糸が切れてしまったように、俺は少しだけ持ち上げていた上体を支えきれなくなって地面に崩れてしまう。

 相変わらず俺の上に覆いかぶさっているゆうきは意識を取り戻さないが、それも今だけだろう。一先ずは居住エリアの……何処でも良い、安全な部屋へと移動しなければ。

 ぐったりとしながら全体重を俺にかけているゆうきを、落とさないようにと気を付けながら立ち上がる。その際右手に持っていた鉄パイプの残骸は――人から受け取った物だからか捨てる事も出来ず――自分のポケットへと突っ込む。1番の動向をしっかりと監視していたがあいつは間違いなく別のエリアへと移動した。性根が腐っていれば居住エリアで待ち伏せをしているだろうが――学校エリアにしばらく残っていようが、全く違うエリアに行こうが、危険性は平等にある。

 何より1番の言い残した事が気がかりだ。恐らくゆうきの意識が戻らない理由と関係があるのだろう。例え罠が仕掛けられているとしても、魔術を使える誰かに早く見せなければいけないだろう。

 こんな事を意識がある時にしたらはしゃいで暴れるんだろうなと想像しながら、ゆうきをお姫様抱っこして立ち上がり、自分の置かれた最悪な状況にようやく気が付く。

「……このタイミングで?」

 笑うしかなかった。

 狙ったように現れたのは三匹のケルベロスだ。しかもエリア移動装置への道を塞ぐように立っていて、それぞれがある程度の距離を保っている。

 素直に考えて学校まで走ってやり過ごし、いなくなってからエリアを移動するのが妥当だろう。

 チラリと視線を下に落とす。苦痛に表情を歪めているゆうきの意識は戻る気配すら無い。

 彼女を抱いたまま逃げる?

 無理だ、移動速度の低下が激しく学校に行く前には追いつかれてしまうだろう。

 ソッとゆうきを地面に横たえ、視線をケルベロスへと向けたまま手を動かしてそれを探す。ゆうきの服や腹やと触ってしまい妙な気分になりつつ、コツンと指先に触れたそれを強く握り締める。

 ここを抜けられなければどの道終わる。ならば、立ち塞がる障害は排除しなければならない。

 乱れた呼吸を整えつつ「大丈夫だ、俺ならやれる」と必死に言い聞かせる。そして俺は叫ぶ、化物じみた奴を相手にした時に、確実に勝てるようになる魔法の言葉を。ハジキなんか必要ねぇ、ゆうきの鉈だけで十分だ。

「野郎ぶっ殺してやる!」

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