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〈居住エリア〉

 と、そんな事はなく。運良く見逃されたゴミと一緒に、俺はゆうきに案内されるままにナナの部屋へとやってきた。

 自分の家にいるという保証は無いものの、いる可能性がある場所の一つと言う事であまり期待せずにノックをしたところ……寝ぼけた表情の彼女が出迎えた。

 寝ぼけ眼のナナがゆうきと目を合わせた瞬間に空気がピリついたような気がしたが、気にせず部屋へと上げてもらい今に至る。

「666番……だよね?」

 まるで敵でも見るかのような目でゆうきを見ながらナナは聞く。だが、ゆうきはそれに答えず「まさかダーリンが頼りにしてるのがミュータントだとは思わなかったよ」と笑う。

 突然変異。白髪で赤い目の人物はミュータントと呼ばれこの世界でのイジメの標的となっているらしい。ゆうきはナナの実力には目もくれず存在自体を馬鹿にしているのだ。富豪がスラム街の貧民を笑うように、いじめっ子がいじめられっ子を指さして笑うように。実力見た目中身全てを度外視して自分より下であると決めつけて笑うのだ。或いは同じ人間として認めていないのかもしれない。

「ま、まぁ取り敢えず落ち着けって」

 出来れば画面の中だけでやっていて欲しい修羅場が目の前で起こりそうな気がしたので早めに止めておく。俺を間に挟んで何か言い争いや言外でのバトルが行われては俺の胃がもたない。

「取り敢えず、リョータに何があったのか教えてくれる?」

「それは俺も聞きたいな。何せ体育館調べようって言った本人がいつまで経っても集まらねーもんだからてっきり死んだとばかり思ってたし」

 ナナやゴミからすれば、体育館を調べて何も見付からず素直に集合場所に行ったのに俺だけが来なかったと言う事になる。もしその予想が正しければ、俺を瀕死まで追い込んだあのいけ好かないイケメン――1番とは遭遇していない事になる。

 アレが敵である、と教える為にも包み隠さず明かすべきだろう。

「俺が調べた体育館には中央制御室に繋がる扉は無かった。成果無しで集合場所に行こうとしたら1番と遭遇、派手にやられたけど何とか死なずに済んで気付いたら風俗エリア。死にかけだったから取り敢えず落ち着ける場所に行こうとしたらゆうきに衝突されて成り行きで同じ部屋に。休んでたら過激派の襲撃を受けたけどゆうきがあっさり撃退。後は一緒に過激派狩りをしてた……って流れだな」

「ああ、だから序列一位と戦おうとしてたのか。どうしてそんな危ない奴に喧嘩売ろうとしてるのかって思ったわ」

「そういや説明してなかったっけ、まぁゴミにわざわざ説明してやる義理もねーし良いか」

 おま、とゴミは何かを言いかけるが口を噤む。

「てことで私のダーリンに手を出したそのクソ野郎をぶっ殺そうって流れだね!」

「だね! じゃねぇよ。1番は俺の目の前で十人くらい殺してた過激派だから、中央制御室を探すにしてもいずれはぶつかる相手だから何とかしなきゃって話だよ」

「つまりぶっ殺そうって事だよね」

 脳筋かよ、と口には出さずに代わりに溜め息を吐く。

「てかさ、生死不明だったなら過激派リスト見れば良かったじゃん」

 ダーリンもリストに載せられてるよ、とゆうきは気になる事を言う。

「ちょっとまて、なんで過激派リストに俺が載ってるんだよ……ってか過激派リストって何だよ」

「多分見せた方がはやいよねー」

 これだよ、と画面らしきものを出現させてゆうきは俺に見せる。持ち運びする必要なくて便利だなと思いつつそれを覗き込むと、ゆうきの番号である666やゴミの53などの見慣れた数字の中に一つだけ「サトウリョウタ」という文字が並んでいた。

「なんつーか……全員ボウズの野球部の試合に金髪ロン毛のサッカー部員が一人だけ紛れ込んでるような気分だな」

 誰も例えが分かりにくいとツッコミを入れてくれない。現実はかくも厳しいものだ。

 しかし、過激派と認められるのはどのような行動を取った人間なのだろうか。俺の認識では生存競争において、生存者を減らせばそれだけ早く終わると考えている過激思考の持ち主達の事だ。だが、そう考えているだけの人間を見つけ出すのは難しい……となると、誰かに手を出そうとした人間か?

 俺がそのリストに名を連ねてしまうのなら、誰とも争う事無く穏やに、平穏な生活を送りたいと心から願っている人物ですら過激派として祭り上げられる事になるのだが……。

 口に出していないのにも関わらず、俺の疑問に答えるぞとばかりにゆうきは説明をしてくれる。

「誰かを一人でも殺せば過激派認定されてこのリストに晒しあげられるんだよ」

「ふぁっ!? なんでそれで俺の名前が乗るんだよ!」

「だって私と一緒に過激派狩りしてたじゃん?」

「それは不可抗力というか、殴ったら殺しちゃっただけで……」

 おっと、自分の発言からサイコの臭いがしてくるぞ。

「首を二回転させるのは明確な殺意あるよね……」

「まぁ殺す気だったしな」

 人を殺していいのは殺される覚悟のある者だけだ、と自分が他人を殺す言い訳として自分に言い聞かせているのだが、生憎俺は殺されるつもりも殺される覚悟も無い。むしろ大体の人はそんなものだろう。

「あと、それと一緒に現在の生存者一覧表も公開されたしね」

「へー、そんなものもあるのか……今何人生きてんの?」

「五百ちょいだね」

 減ったもんだな、と思わずこぼしてしまう。俺がこの未来世界に来たのが果たして生存競争開始丁度かは不明だが、少なくとも最初は千人いた筈なのだ。それがざっくり半分程いなくなったという事になる。

 難しい顔をして俺達の会話を聞いていたナナは、そう言えばと突然口を開く。

「私達の成果教えて無かったね」

「え、何か見付けたん?」

「何も無かったよ」

 一瞬期待したが、まぁそんなものだろう。

「これで学校エリアは全滅か……」

 中央制御室へと繋がる扉は見付けられなかったが、何の成果も無かったというワケでは無い。

 1番に襲われた俺がどういうワケか風俗エリアにいた――しかもエリア移動装置を使わずに、である。

 どうしてそんな事が起こったのか、その原因や理由については全く分からないが、その謎を解明出来たら何かが分かるかもしれない。

 ならば次は……と俺が頭の中で計画のようなモノを練ろうとした時、ゴミが横から口を出してくる。

「てか普通に一緒にいるけどよぉ、まさかこれから幽鬼も一緒に行動するなんて言わねぇよな?」

「お、嫌いなん?」

「嫌いなんて話じゃねぇよ。てか俺の好き嫌いなんかどーでもいいだろ」

「嫌よ嫌よも好きのうち? 小学生みたいだなゴミ様よ、中学生なのは図体だけかえ?」

「俺より小さい奴が何言ってやがんだ」

 殺す。

 俺は足元に転がしておいた鉄パイプを即座に握り締め立ち上がりながら振り上げ、一気に振り下ろ――

「お、おま、少し会わないうちにおっかなくなりやがって……」

 ――さずに寸止めをしたのだが、ゴミがションベンチビりそうになっていた。

 俺がおっかなくなったとゴミは言ったが、そのゴミは……何と言うべきか、最初あった時と比べて小物感が増した気がする。

「で、話を戻すけどゆうきが一緒にいると困るのか?」

「だってそいつ過激派狩りをしてるんだぞ? いつ命を狙われるか分かったもんじゃねーし」

 それにお前もだぞ? とゴミは言う。

「番外、過激派リストに乗っちまったんだから当然お前も狩りの対象になるんだぞ?」

 そんなワケ無いだろ、と思いつつゆうきへ目をやると「私がダーリン狙うワケ無いじゃ……いや違う意味では狙ってるけど殺そうだなんてこれっぽっちも考えてないよ!」とオーバーな身振り手振りを添えて全力否定をしてくれた。

 あ、でも最悪の場合殺して死体と暮らすのも悪くないかも……そんな呟きが聞こえたような気がしてブルッとくる。死んだら死体が消えるのでは?

「ほ、ほらな? ゆうきが俺を殺すワケ無いじゃん。そもそも俺がそのリストに名を連ねたのもゆうきの過激派狩りを手伝っていたからであってだな」

「けど過激派だ。過激派狩りだろうと不可抗力で一人を殺しただけであっても、一人を殺せば過激派認定されるんだ」

 ならお前は一人殺したんだな、と思いはするが言いはしない。

「まぁなるほど、言いたい事は大体分かった」

 そして思い出した。俺の命を奪おうと襲いかかって来たこのゴミも、成り行きで一緒に行動してはいるが俺の命をもう狙っていないとも限らない。

 それに、言ってしまえば俺を助けてくれたナナだってそうだ。利用できる内は利用しておいて残り人数が僅かになった時、この生存競争を終わらせる為に背後から首を――なんて事も有り得なくはない。

 俺をダーリンと呼んで自分は完全に味方ですよアピールをしているゆうきだって――いや、流石にこれはゲスの勘繰りだろう。

「そうだよな、ゴミも俺の命を狙ってるかもだもんな……てかお前なんで勝手に着いてきてんの?」

「流石にミュー……712番や幽鬼の前でお前の命を狙ったりはしねぇよ」

「じゃあその二人が見てない所でなら狙うんだな?」

 否定はしない、と言いたげなゴミは自分に注がれている視線に気付いて咄嗟に口を閉じる。

「例えお前やゆうきやナナがいつかは俺を殺すつもりだとしても、今はお互いに協力すべき時だろ? それとも何か、ゴミ様は序列六位で過激派狩りの幽鬼さんよりも強くて役に立つのか?」

 ゴミが何かを言う前に俺は続ける。

「答えなくていい。お前は魔術を使えない過去の人間である俺にすら負けた、本当の実力はどうだの言いたいかもしれないがそんなのは関係ない、事実としてお前は負けている。で、俺より弱いお前が俺より遥かに強いゆうきよりも役に立つ筈が無い」

 淡々と、あくまで冷静に事実だけを含んだ正論をぶつける。ゴミが苦虫を噛み潰したような表情をしているが言い返せる筈もなく、ただ苦々しく頷くだけだった。

「もしゆうきと行動を共にするのが嫌ならどっか行けばいい。さっきも言ったけど、お前は勝手に着いてきてるだけだからな。俺……って言うよりナナやゆうきを利用したいのなら不満を飲み込んで大人しく利用されろ」

「……自分が使えない駒だって自覚あるんだな」

「っせーなボケ、人が折角カッコいいこと言ってんのに台無しにすんなよ」

 中学二年生の時にある病気を発症してしまった俺は、多少格好つけた言い方をしたくなったりしてしまうモノなのだ。

 あー恥ずい、と頭を掻き毟っていると「でも」とナナから声が上がる。

「リョータは弱くも使えなくも無いよ?」

「……お、おう」

 突然褒められたと言うか、実力を評価されて驚いてしまう。が、ハッと思い出して慌てて否定する。首も手も総動員で否定する。

「いや俺使えねーからね? ダメだよそんな、過大評価しちゃ! 一応命懸けな争い事してるんだから評価は正確で厳密に!」

 使えない俺を過大評価されて割に合わない役職を割り振られるなんてたまったものではない。それで俺のミスが原因で全滅するような事があっては来世だろうが異世界だろうが顔向け出来なくなってしまう。適切な人材を適切な箇所に、それが一番のベストでありそれをする為に正確な評価をする必要があるのだ。

 俺の実力は俺が一番分かっている。自分がどれだけ使えないかと言うのは嫌になるほど理解している。過激派を何人か殺れたのは鉄パイプと近くに幽鬼と言う接近戦最強な存在がいたからであり、俺の実力とは程遠い。

 だがそうやって身体を張ることで分かった事もある。俺は現実では平凡かそれ以外程度の身体能力を有しているが、この未来世界においては上位にくい込める程度のレベルになっている。つまり、この世界の住民は全体的に身体能力が落ちているようだ……もちろん十人程度の過激派と殺し合って分かった事なので、それが確定的な事実かは不明なのだが。

「さっきリョータが格好つけて言ってた風に言わせてもらうなら、事実として攻撃プログラム四体を相手に死なずに立ち回り、魔術を使えないのに魔術を使える三人を相手にして勝利して、私は見てないけど過激派を何人か倒した。でしょ? 使えない、なんてのは過小評価だよ」

 上手いこと言われてしまって反論の余地が無い。「実際は」や「それはたまたまで」などと言った言い訳はいらないと俺はゴミに言った。見るべきは結果であり結果に基づいた評価をすべきだと。

 何も言い返せないので、ゆうきへと助けを求めるべく視線を送る。俺の言いたい事を理解してくれたのかゆうきは笑顔で頷いて「流石ミュータント、分かってるねー。私のダーリンは超最強だよ!」と俺の求めていたモノとは程遠い事を言ってくれやがった。

「いや超最強ではないよね。実際1番には手も足も出なかったんでしょ?」

 あくまでも事実をナナは言ったが、それは俺の心にグサッと刺さってしまう。

 はぁ、と溜め息がゴミから聞こえてくる。臭いがキツいから呼吸をやめて欲しい。

 とは言え、だ。話が謎な方向へと向かってしまったが、俺がここに来た理由は生きていれば合流を果たす為ともう一つ、これからの方針――もっと言うならば、どうやって1番を倒すかである。

「……あー、うんまぁ俺の実力がどうかってのはおいおい判断してもらうとして、ついでに買い被り過ぎだったと理解してもらうとして、だ。これからどうするよ」

「中央制御室の入口を探すよ」

 と即答したのはナナだった。と言うより、彼女は生存競争などよりもそちらの方が余程重要なようだ。

「まぁ、俺も双子を引率してるから712番を手伝うかな……下手に違う行動しようとすれば幽鬼に殺されかねないしな」

 別行動してもいいんだぞ? と一応笑いながら言ってやると、ゴミは人の話聞いてたのかよとマトモな答えを返す。

「私はまぁ、引き続き過激派を狩るよ」

 過激派狩りの幽鬼と呼ばれるだけあって、やはりゆうきは過激派狩りを続けるようだ。生存競争で生き残る為に過激派を狩るのか、過激派を狩りたいからそうするのかは俺には分からないが、その行動を取られても迷惑にはならないだろう。

「なるほどね」

 大体の行動は予想通りである。と言うよりも、まだ序盤だから取れる行動がそう多くもないのだろう。

「リョータはどうするの?」

「ん、俺? 俺は――」

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