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続き

「ダーリン、そっち行ったよ!」

「へいよー」

 息を切らしながら走ってこちらへと向かってくる男――正確にはゆうきから必死に逃げているのだが、俺はソイツが丁度引っ掛かるようにスッと片足を前に出す。すると男は綺麗に引っかかり盛大に転がっていく。

「てめぇ!」

 チンピラでも言いそうに無い声を上げながら、もう一人の男がゆうきに背を向けてこちらへと向かって来ようとするが「ぐあっ」と悲鳴を上げて地面に崩れ落ちる。

 アホだな、と感想を抱きつつ転がっていった方の男へと近付く。すると――顔面を強く打ったのか――鼻のあたりを押さえている男は後ずさりながら「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。

 コイツが俺の方へと逃げて来れたのはもう一人の奴がゆうきと対面していたからであった。背中を切られた方――確か144番と名乗っていたっけ――がゆうきに背を向けた時、その背中を守るように立っている人間がいなかった。ガラ空きな背中をゆうきが見逃す筈も無い。

 チラリと144番の方へと目をやると、笑顔を浮かべたゆうきにじわじわと首を落とされそうになっている現場を目撃してしまう。きっと彼からすれば絶望的な最期に違いない。来世でも悪夢で見そうな光景だ。

「よそ見とは余裕だなぁ!」

 鼻を押さえている男――コイツは523番だったか――はそんな事を吠えながら、ここぞとばかりにキーボードを出現させる。

「今から打ち込んでもおせぇよ」

 まるでシュートでもするように、何かを打ち込もうと躍起になっている男の腹部へと蹴りを入れる。

 そのキーボードが質量を持っているのかは知らなかったが、蹴る時に変な感触があったのでどうやら質量を持たないワケでは無いようだ。

 もにゅっとしたような、ぬわんとしたような……何とも言い難い感覚だ。

「じゃあな」

 特に感情を込めもせずにそう言って、俺は右手に握り締めた鉄パイプを男の頭へと振り下ろした。

 ミシッと骨にヒビを入れるような感触が伝わってくると、男は軟体生物のように地面に倒れ……身体を構成していたデータが霧散するように散っていった。

「やーやー、ダーリンも大分手馴れたねー」

 既に(何番だか忘れたけど)男を始末したようで、鉈を片手に笑顔で近付いてくるゆうきに俺は溜め息を吐く。

「流石に十人目だからな? 過激派を十人も相手にしたんだからな? 嫌でも慣れるっつーの」

 ラブホテルの扉を延々と開け閉めすると言ったゆうきに付き添う事数時間、出会った過激派の人数はもう数えていない。ゴミと姉妹ちゃんのように数人規模で徒党を組んで行動している過激派も当然いて、それらを相手にする際俺の方へと矛先が向けられる事もあった。

 最初の一人は手間取りながらも腹部を蹴って首を二回転くらいさせて殺したが、それでは面倒だとゆうきが魔術で出してくれたのが鉄パイプだった。加工しやすい柔らかくて曲げやすいヤツでは無く、支えなどに使ったりする固くてガッチリしてる方だ。

 現実世界でも同じように行くかは分からないが、少なくともこの未来世界ではそれで何度か殴れば人間を殺せた。

 過激派とは言えど、ナナや1番と名乗ったあのクソみたいなイケメンのような化物じみた速度で魔術を使えるモノは滅多にいないようで、相手が魔術を使おうとキーボードを出現させるのを見てから走って近付いて鉄パイプを振り下ろすだけで簡単に終わる。

 しかもそれだけではなく、何度かケルベロスとも遭遇したのだが鉄パイプを使って何とか撃退する事に成功したのだ。

 リーチとは馬鹿に出来ないモノだ。

「まさか中央制御室の入口を探すのが目的じゃなくて、過激派狩りが目的だとは思わなかったよ」

「中央制御室の入口がこんな所にあるとは思えないよねー……だって、私達が生活していたエリアの何処かに入口があるんでしょ? 普通に生活してて見付けられなかったヤツが、普通に探してるだけで見付かる筈が無いんだよね」

「まぁそうだろうけどさ」

 出会った過激派の数が両手じゃ数え切れなくなった時、流石に不審に思って俺は「何でこんなに過激派と会うんだよ」とゆうきに不満を言ったのだが、返ってきた言葉は「だってここ過激派の巣窟だし」だったのだ。

 どうやら安全地帯でひっそりと生き残ろうとしている人達は、自分の部屋やホテルの部屋等の落ち着けるような場所を十二時間前ギリギリ使って居座っては移動し、と言った行動を繰り返しているらしく、安全地帯の一つであるラブホテルは過激派の狩猟スポットの一つらしい。

 簡単に言えばトラップを仕掛けておいたり、俺やゆうきのように部屋の一つ一つを見回ったりするのだ。

 そう言えば、とゆうきが思い出したように言った。

「ダーリンをあんな瀕死の状態まで追い詰めたのは一体誰なの?」

 単純に疑問に思ったような顔――をしているが、ゆうきの瞳は明らかな殺意に満ちている。嬉しいような苦しいような、複雑な気持ちに俺はもう一度溜め息を吐く。

「確か1番って名乗ってたっけか……めちゃくちゃイケメンな男だよ」

 1番と言う番号を聞いた瞬間ゆうきの表情は曇る。どうやら何らかの形で知っているようなので、俺は「知ってるの?」と素直に聞いてみると、ゆうきは頷く。

「序列一位の奴だね」

「序列?」

「簡単に言えば、学校でのテストみたいなモノかな……年齢に関係なく住民千人で知識、体力、運動能力、魔術の四つの項目で能力を測定して、生存能力の高さをランキングしたモノだよ」

 ゲッ、と自分の口から声が漏れていた。

「じゃあ一番生き残れる可能性が高いって事かよ」

 そうだよ、と重々しげにゆうきは頷く。

「そっかー……1番かー」

 1番の番号を割り振られた人間が一番強くて一番イケメンだってか?

「なんでそんな奴が過激派やっちゃうかなぁ」

 1番が過激派をしている以上、生き残る為には何度か衝突する必要が出てくるだろう。つまり、生き残るにはアレに勝てないといけない事になる。

 ナナと同等かそれ以上に魔術の発動が速く、身体能力は俺に並ぶ程度で、序列が一位になる程の男に。

「わー、生き残れる気がしなくなってきたー」

「大丈夫だよダーリン、立ちはだかる奴は全員殺してでもダーリンを守るから」

 ありがたいのだが気持ちが重過ぎる。

 とは言え、だ。いくら接近戦に特化したゆうきであってもアレを相手取ってどこまでやれるだろうか。

「……まぁ、お行儀良く一対一で戦ってやる必要もないか」

「ま、いずれぶっ殺してやらなきゃだね」

 殺すよりは利用する方がよっぽどマシなのだろうが、利用する為にはどうすべきかを考えなければならなくなるので殺す方が遥かに楽なのだろう。

 おいおい考えなければならないな、と結論を出して別の話題をゆうきへと振る。

「で、ゆうきさんよ。かれこれ両手両足でも数え切れないくらい過激派ぶっ殺しましたが、まだやるんすかね?」

 うーんと悩む素振りを見せてからゆうきは答える。

「そろそろエリア滞在時間も限界に近いし、別エリアでも行こうかな」

「別エリアとは?」

 ってかエリア滞在時間って?

「ってか、え? 十二時間以上いるといけないのは一つの部屋に……みたいな感じじゃ無いの?」

「居住エリアに十二時間以上居座ると失格、って感じだよ。だから一つのラブホに十二時間いちゃいけないんじゃなくて、風俗エリアに十二時間以上いちゃいけないんだよ」

 わっかりにくいなこのルール。

 前にゴミが教室と廊下では空間が違うだのと言っていたのを思い出す。エリア内でも細かくエリア分けがされているらしいが、エリア滞在時間と言うのは大きく分けた「居住エリア」「学校エリア」「風俗エリア」のようなモノに適応されているらしい。

 それマジで?

 ガバガバルールである事をひたすらに願いつつ、俺はもう一度ゆうきに質問する。

「で、次はどこのエリアに?」

「どこのエリアがいい?」


〈居住エリア〉

 と言う事でやって参りました居住エリア。どこのエリアがいい? と聞かれたらナナや姉妹ちゃんと合流出来る可能性のあるこのエリアだろう。1番にやられる事なく生き残っておれば、の話ではあるが。

 学校エリアに残っている可能性も無いワケではないが、1番と遭遇した後の俺の意識が飛んでいる間にどれだけの時間が過ぎたのかも分からないので、恐らく俺達が学校エリアに入ってから十二時間はもう過ぎているだろう。

 風俗エリアで過激派狩りをしている途中からではあるが、もう朝になっている。色々動き回ってはいるけれど、時計が何処にも見当たらないので今の時間が把握出来ず、何となくと気が付けばで行動するしか無い。

「ここで過激派狩りするの? 無理だよ?」

「いや、中央制御室を一緒に探してたお仲間と合流出来たらなって……1番を相手にするには数もいるだろうし。ってか無理なの?」

 うん、と頷いてからゆうきは説明をしてくれる。

「まず過激派の連中は、ここには休憩目的でしか寄り付かない。だって獲物がいないしね」

「自室に引き篭もってるなら部屋に突撃すればいいんじゃねぇの?」

「うん、部屋の主の許可が無いと他人の部屋には勝手に入れないんだよね」

 マジで?

 つまり俺は、ゴミや姉妹ちゃんも許可をされたからナナの部屋に入れたという事になる。安全地帯とは良く言ったものだ。ケルベロスは湧かず、許可しなければ自分以外は誰も入れない。なるほど安全だ。

「でも十二時間ルールがある以上、いつかは出ていくワケだろ? そこを狙おうとはしないの?」

「見ないといけない部屋が千個あって、どのタイミングで出てくるのかも分からない所を狙うって? それなら他の安全地帯で隠れてる奴を探す方が遥かに楽じゃない?」

「そんなもんか……あ、どこでもドアの近くで張り込んだりとかは?」

「エリア移動装置の事かな? 逆にそこは……1番みたいな奴に狙われちゃうから」

 まぁ私も当然狙うけどね、とゆうきは笑う。

「はぁん……中々大変だな」

 狙われているポイントだと分かればそこには寄り付かなくなる。例えば今日はラブホが安全地帯だったとしても過激派に狙われた以上明日はただの危険地帯になっている。分かりやすい狙撃ポイント程警戒されるのと同じだろう。

 警察の点数稼ぎと似たようなモノだろう。例えばねずみ捕りなら「この道路はみんな飛ばす」と分かっている道路に張り込んだり、踏切近くに潜んで一時停止をするか見張って完全に一時停止をしていないと点数を持っていかれる。

「芋りは安全地帯を常に変えて過激派も逐一狩場を変え、過激派狩りもそれを予想して移動しなきゃならないとか……めんどくなってきた」

 はぁ、と溜め息を吐きながら住宅団地の迷路を歩いていると、俺は今更ながらに気が付いた。

「ここどこ?」

 迷子やんけ!

 一応自分の名誉の為に言い訳をしておくと、この居住エリアは似たような――むしろ同じと言っても過言ではない――景色が延々と続いており、何を見れば何処にいるのかが全く分からないのだ。一応目指そうとしていたのはナナの部屋がある建物なのだが、彼女は勝手知ったる地元だからこそ迷わずにすいすいと行けるが、赤の他人からしてみれば判断のしようが無いのだ。

 遠くから旅行に来た人が住宅街に迷い込めば二度と出られずに餓死するのと同じである……え、そんな事無い?

 やべぇやべぇと焦る俺を見て、ゆうきはあははと笑う。笑っていられるという事は、つまり自分がどこにいるのかを把握しているという事だ。

「ヘルプ」

「えっと、何処に行きたいの?」

「ナナの――712番の部屋に行きたいんだ」

 712番の家ならーと呟いているゆうきを見る限り、個人の特定までは出来ていないようだ。ミュータントと言えば誰なのかまで分かったのだろうか?

「おっけー、こっちだよ」

 そう言って歩き始めたゆうきの背中を追いかけて少しの間歩いていると、何度か聞いた声を俺の耳が拾う。

「げっ、アイツは」

 顔を見るまでも無く嫌な顔をしながら言っている姿が予想出来る。チラリと声の方向へと視線を向けてみると、少し離れた所で予想通りの表情をしながら逃げようとしているゴミ――もといゴミ様の姿がそこにはあった。

「53番様と呼べ! っつーか生きてたのか番外! まぁなんだ……良かったじゃん」

 しっかりと頭の中で整理してから話せよ、と思いつつ近付こうとすると、ゆうきからも声が上がる。

「おー、53番君じゃないかー……私にそんな表情を見せている辺り、心当たりはあるようだね?」

 青ざめた表情をしているゴミを見て、俺は思わずゆうきに「どういう事?」と聞いてしまう。

「53番は過激派なんだよ」

 言いたい事は分かるよね? と、ゆうきは笑顔のまま言う。俺は「ああ」と声を上げてその意味を理解する。

「そういやゴミは姉妹ちゃん使って俺を殺そうとしてきたな」

 俺の発言を聞くなりますます表情を青くしたゴミは「ばっかおま、幽鬼の前でそういう事言うんじゃねぇよ!」と必死に叫ぶが、手遅れだった。

「へぇ? 私のダーリンに? 手を出したと?」

「ッ! そ、それは……」

 このままではゴミが処刑されるだろう。過激派狩りのゆうきの前に過激派のゴミがいて、尚且有難い事にゆうきが好いてくれている俺へと手を出したのだ。どんな言い逃れや言い訳をしても、間違いなくその首を撥ねられるだろう。

 だが、例えゴミだとしても利用価値が無いワケでは無い……仕方が無いので助けてやろう。

「まぁ無手の俺にボロ負けしたんだけどな?」

「え、だっさ」

 俺が助けてやろうとしている事に気付いたのか、ゴミは肩をプルプルと震わせながら屈辱に耐えている。

「それで、まぁアイツに利用されてた双子ちゃんは見逃すって言うか手伝いをさせてて、なんかアイツも勝手についてきたんだけど……肉盾くらいにはなるだろ? 防御の魔術が得意とか何とか言ってたし」

「でも過激派だよ?」

 冷たい目で俺を見ながら、ゆうきは事実を言う。アイツは自分が生き残る為に他の奴を殺そうとした、もしくは殺したクズなんだよ? そう目が言っていた。

 お前も人の事言えねーけどな、とは口が裂けても言えない。

「だけど利用価値はあるぞ? 1番を相手にするなら守りが得意なヤツがいるのといないのとでは取れる選択の幅が大きく変わってくる」

「私が殺すよ」

「タイマンで勝てるって?」

「うん」

「無理だろ。不意打ちでもしない限り近付く前にやられる。アレは動けて頭もキレる……一人で挑んで確実な勝利は無いね」

 ぐぬぬ、と言い返せなくなったゆうきとは別に、今助けてあげようとしているゴミから声があがる。

「お前ら、1番倒す気かよ」

「そうだけど?」

「序列一位が相手だぞ?」

「じゃあそれを倒さずに生き残れるって考えてんの?」

 アレが過激派で、俺達が生存を目指している以上いずれはぶつかる存在だ。見ず知らずの他人が勝手に倒してくれるかもしれないだなんて甘い考えは通じない。テストのようなモノで付けられた暫定的な順位ではあるのだろうが一番なのだ。

「……例え序列六位の幽鬼がいても、アイツに勝てるとは思えねーな」

「え、ゆうき序列六位なの?」

「まぁ、一応ね」

 くそつえーじゃん。

「ちなみにミュータント……712番は序列三位だぞ」

「へー……へ?」

 マジで?

 道理で強いワケだ。

「まぁ、て事でせめて1番をどうにかするまではゴミを生かそうぜ?」

「えー、やだ」

 その後53番の姿を見た者は誰もいなかった……。

また来週

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