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私が見つけた星屑のかけら。  作者: たけさん
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怜子先輩の友達って賑やかですね

 ただいま、私、中崎文香は猛獣たちの檻の中にいます。

 三つ横並びになった将棋盤を挟み、乙女6人はその目に闘志を宿しています。怜子先輩に、ひかりさん、留美さん、あゆむさん、あーちゃんさん、真澄さん。誰もが本当の勝負のように真剣です。

 少しばかり時間が経ったら、チェスクロックが電子音を響かせはじめて、戦う乙女たちの顔は片方は焦りを見せて、片方は余裕を示しています。

 市先輩はノートに詰将棋を書き終えると、私を呼んでこう言いました。

 「お茶を淹れましょう。対局が終わったら、まず落ち着かせないといけないから。」

 すこし気だるそうに、しかし楽しそうに準備をする市先輩に、私もすこし嬉しくなりました。

 お茶を淹れ終わって、私は市先輩に聞いてみたいことを聞きました。

 「あの、先輩たちっていうのは皆さん東京の代表を争っているんですか?」

 「ああ、そういえば教えていなかったわね。ううん、あゆむちゃん以外はみんな違う県よ。だけど、6人とも、自分たちが全国で会うことを疑わないのよ。でも、実際、小学生の時から私たちは全国大会で顔を合わせているから、もう日常ね。この研究会だって中学生からずっと、地方大会が近くなると集まって、全国大会での再会を誓って。そして再び盤を挟んだとき、私たちは一番になるために、すべてをぶつけてねじ伏せる。」

 しとやかな市先輩の声がいつもより熱を帯びていて、私はふとその感覚に興奮してしまいました。

 「先輩、私も頑張ります!まだ、強くないですけど、戦ってみたいです。」

 市先輩はすこし驚いた感じで笑って、こう言いました。

 「でも、怜子はいつも言っているわ。加熱しすぎた闘志は、3手詰めだって見逃す、だから常に思考だけに集中して、闘志は閉まっておく、てね。」

 市先輩はすこし可笑しくなって、またこう言いました。

 「でも怜子は負けそうになった時、誰よりも気持ちが前に出るのよ。だから私たちは優勢だって思って進めるんだけど、気持ちなのかな、びっくりする手で逆転されちゃうのよ。」

 一通り語り終わった先輩は少し椅子に腰を掛けると、ため息をつきました。すると突然……。

 「うきゃああああああ!!!!」

 と叫び声がキッチンまで響きました。これを聞いた市先輩は微笑んで、

 「あらら、そろそろ行かないとね。文香ちゃんお菓子のお盆を持ってきてもらえる。」

 「あ、はい!」

 すこし小走りで和室に向かうと留美さんが今発生したストレスを瞬間に発散するためのように縦横無尽に転げ回っていました。相手の愛生さんはその姿をコメディ映画でも見ているかのように笑って、止めようとしません。市先輩はその光景に見かねて、留美さんを抱きしめると、

 「はい、留美ちゃん、お茶。」

 と言って、お茶を飲ませると留美さんは落ち着いて、盤に戻りました。それを見た怜子先輩は少し咳払いをして二人に言いました。

 「それじゃあ、愛生さんと留美さんの対局の感想戦を。」

 愛生さんと留美さんは最初の一手から順番に並べ始めました。私はその時の愛生さんの戦法をみて驚きました。

 ……私とおなじ「四間飛車」だ……。

 市先輩曰く、「四間飛車」は3つ覚えれば指せる戦法で、先輩が初心者の私に教えてくれている戦法でした。

 私の驚きは市先輩にも伝わったようで、私の横に来てこう囁きました。

 「愛生ちゃんの四間飛車、よく見ておくといいわ。彼女はね、四間飛車の形を完成させるまでに自分の優位をとってくる、珍しい子だから。」

 私は部室で教えられていたことを思い出しました。そうして湧いた質問をぶつけようとした矢先でした、

 盤面は愛生さん有利で、留美さんは防戦を強いられていました。

 「先輩、これは……、どういうことですか!?」

 「愛生ちゃんの十八番ね、『藤井システム』よ。概略だけ言えば、王様を美濃囲いに組む手数を、王様を動かさないことで、出来た手の余裕を攻めに使おうっていう考え方よ。これが難しくてね。出来た余裕を間違って使ったりすると、王様が相手の攻めから近くてすぐに危なくなっちゃうし、だからと言ってむやみに守っても、その間に穴熊に囲われたら、それこそ苦しいわ。だから相手の出方をきっちりと予測して、攻めるか、守るか、この切り替えるタイミングを計ることに自信が無いと、とても使うには勇気がいるわ。」

 「それじゃあ、この局面は?」

 「うん、さすが愛生ちゃんよね。留美ちゃんが急戦に出るとわかって、すぐに王様を囲って、攻めるか守るか、どちらかを正確に選択して。最後には攻めきって勝つなんて。本当にお手本になるわね。」

 私はまた盤上を見ました。進んだ手の優位はそのまま勝ちにつながっている。私は愛生さんという方がこんなにも最初から自分を有利にしようと考えているのかと思うと、すごい人に見えました。

 「もうっ!なんであの角で攻めに来られたのよ!」

 「留美ちゃん、私の戦法にハマってたね~、3五歩って指してくれるとおもってたよ。」

 そうニヤニヤする愛生さんに怜子先輩は気付いてすぐだったのか、詰まりながら言いました。

 「でも、ここで1六角なら?」

その瞬間、私たちの周りは愛生さんを中心に透き通るように静かになりました。私にもわかります。ここで1六角と打たれたら?

1四角は打てません、盤面の半分は先手のものになってしまいます。そうして盤面が制圧されれば、負けてしまいますを

愛生さんはその予想外の手に、顔を覆いました、そして1つため息をつくと、

「そこに角を打たれちゃったら、私の角が打てないや。さすがりょーちゃん。なんでそんな手が見えるのかなぁ。」

「3五歩は、最初に見たときから作為が読み取れた、だから私はどこかスペースが無いかと……。」

「そうか、スペースかぁ。角は広く使いたいもんねぇ。2五歩とは守りたくないし、りょーちゃんなら、その角打ちで守りきっちゃうんだろうな~。」

 角一枚です。両者が持った角をどちらが最初に有効に打つかが、勝負の別れ道だったのでした。

 私たちはその対局の感想戦が終わると、駒と盤を片付けて夜ごはんとなりました。

 ご飯での話題は将棋ではありません。みんな将棋になると目の色が変わってしまってご飯なんか冷めてしまうから、と市先輩がいっていました。

 私は怜子先輩を見ました。

 あの感想戦のとき、怜子先輩のまわりだけが涼しくなっていました。まさに、初めて出会ったあのとき。

 私はそれが今の怜子先輩とはかけ離れた存在であることが明白で、私は、やはりこの先輩は違うんだ、と思ったのでした。

 私のゴールデンウイークはこのいつもの怜子先輩と涼やかなる先輩の二面を私は見つめていました。

どうも、たけさんです。

お待たせしました。六話です。

今回から対局だとか、感想戦とかのために棋譜を調べていました。

棋譜の一つ一つに多くの意味があって、「意味」があるということは

「ストーリー」があるというものです。

実際の将棋界にあったエピソードも参考にこれから文香たちの物語も

進んで行きます。

よろしくお願いします。

では今回も読んでくれた皆さんに感謝をこめて、

ありがとうございました。

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