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僕は方向音痴だ。
その上地図も読めない。
GPSが発達した現代に生まれていなかったら生きていけないだろう。家に帰れなくて名も知らぬところで野垂れ死にしていただろう。
困ったことに僕は知らない道を通るのが好きだ。
時間がある時は知らない道を選んで進む。そして迷う。当たり前のように迷う。
普通の人なら心寂しく思うだろうが迷子のプロの僕は大丈夫、慣れてるから。
来た道を戻るなどというつまらない事はしない。知っている道に出るまでひたすら進む。
迷うという事が楽しいのだ。
知らない道を歩くと周りがよく見える。
道端にさく小さな花や眠そうに伸びをするねこ、あたたかに色付く自分のほほ。
季節の訪れを感じる。もう春なのだ。
僕は春が好きだ。というか嫌いな季節がない。どの季節もそれぞれの良さがある。
強いて一番を決めるなら秋だと思う。
秋の夜空に気持ちが吸い取られるような感覚がとても好きだ。心が空っぽになってちがう自分になれる気がする。
「空にすわれし15の心」とかいう詩があった気がする。うろ覚えで申し訳ない。もっと長かった気がするし、15だったかどうかも怪しい。
人の記憶なんてこんなものなのだろう。
ただ僕は記憶力はいい方だと自負している。その中で一番苦手なのが人の名前だ。
モノの名前なら姿形、役割から名前を付けていることは少なくない。
一方、人の名前は見た目から名前が付けられることなどない。だから苦手なのだ。