表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

ことのなりゆき

 ミントの編入試験直前、レオンは最後の確認をおこなっていた。


「そういえば、何でミントは俺に弟子入りしようとしたんだ? カエルサから助けて欲しいなら、最初からそう言えば良いのに」

「お願いは一度だけでした。一度助けて貰っても、二度目に自分の力で何とか出来ないのであれば、意味はありません。私には変な力があるみたいですし」

「なるほど。やっぱりミントは賢いな」


 自分一人で何とか出来る力が欲しいなんて、子供の発想じゃないだろう、とレオンは呆れて笑った。

 将来が怖い女の子だ。

 そんな可能性の塊みたいな子を会場に見送って、レオンは実技試験の見学席に向かった。

 見学席にはアイリスが待っていて、レオンは彼女と並んで座った。


「アイリスも来てくれたんだ」

「私はまだ生徒だから」


 一時間後、あっさりと筆記試験を合格したミントが試験官とともに実技試験会場に現れた。

 魔法による戦闘試験と言われているが、実態は魔法による防御試験だ。

 魔導士になるからには、いつどんな魔法が暴発しても、自分の身を自分で守る能力が必要だ。

 試験官による説明が終わると、ミントに向けて火の玉や巨大なツララが放たれた。

 そのことごとくをミントが弾き、砕いた。


「おめでとう。合格だ」


 最低限必要な防御力を見せたミントに試験官が拍手をした。

 だが、試験はこれで終わりでは無い。


「今度は君の上限を測らせて貰う」


 段階的に激しさを増していく魔法の光の中で、ミントは平然と立っている。

 不動の魔王。

 レオンの戦い方を真似ているかのように、ミントは全ての魔法を避けることなく真正面から受け止めている。

 そして、試験官の持つ最も強い魔法ですら、ミントには傷一つつけられなかった。


「参りましたね。私以上に強い人間となると、あの子くらいしかいません」

「誰が相手でも受けて立ちます。一日でも早く師匠に追いつくために、飛び級入学したいです!」


 元気いっぱいに宣言するミント。だが、すぐに顔が引き締まった。

 突然、目の前に突然アイリスが降り立ったせいだ。

 アイリスの隣にいたレオンは突然の乱入に意味が分からず、固まっていた。

 試験開始の再開の合図は紫電によって生じたピチュンという鳥のような声だった。。

 遅れてアイリスの突き出した手から生じた雷光がミントを貫く。


「アイリスのやつ本気でぶっ放した!?」


 無自覚に生じる雷よりも遙かに太くまばゆい光に、レオンは思わず立ち上がった。

 だが、雷に打たれたはずのミントは傷一つついていない。

「防御魔法マクシミリアン」

 ミントの身体を覆う鎧が雷を受け流したのだ。

 遠隔魔法を受け流す魔法の鎧でレオンが考案した魔法の一つ。それをしっかりと自分の物にしていた。

 もともとアイリスに触れるために作った魔法であるせいか、どれだけ威力をあげようが雷は受け流されている。


「あのミントって子……アイリスよりすごいんじゃ」


 誰かがポツリと漏らした言葉にレオンは首を横に振った。

 大抵の魔物はこのアイリスの雷で倒せる。だが、雷の効かない魔物だっている。

 その時に彼女が取る行動は、雷だけを見ていると簡単に見失う。


「アイリスが動いた!」


 地面がえぐれるほどの勢いのある跳躍。

 神憑きの力は単に魔力が高いだけじゃない。身体にすら影響を与えてしまう。

 アイリスの雷をまとった拳がミントに放たれ、パリンという音と共にミントが弾き飛ばされた。


「マクシミリアンが割れた!? ミント!?」


 レオンの考案した防御魔法を割る時点で、とんでもない威力だということが証明される。

 レオンの防御魔法を貫ける強さが対人攻撃魔法の最低基準値と言われるが、魔物相手にはオーバーキルするレベルの威力を誇る。

 今の拳も普通に魔物に打ち込んでいたら一撃で殺せるはずの威力だ。

 そんな本気の一撃をアイリスはミントに打ち込んだ。さすがのレオンも殺す気なのかと驚いて試験会場へと乱入する。


「アイリスやりすぎだ!」

「かはっ……」


 だが、血を吐いて膝をついたのはアイリスだった。


「あの小娘……」


 アイリスが腹を押さえながら、壁から落ちたミントを睨み付けている。

 レオンがミントの方へと視線を向けると、ぼんやりとした光が掌にまとわりついていた。


「ミントのヤツ流転掌をあの状況で使ったのか」


 相手の魔法を打ち返すカウンター技がアイリスに入った。

 そのせいでアイリスは血を吐くほどのダメージを負った。

 ミントが吹き飛ばされたのは流転掌のタイミングが遅れて、威力をいなしきれなかったせいだろう。

 それぐらいアイリスの動きは速かった。


「本気でやらなきゃ、私がやられてた。手を抜いていたら勝てなかった。まさか、新作の魔導書を使ってくるなんて」


 アイリスが全力を出してギリギリ勝利出来るほどの戦いだった。

 それだけミントは強かった。


「どうだ? 俺の弟子は?」

「強い。それに戦い方がそっくり。残念だけど」


 アイリスは呼吸を整えると、フラフラと立ち上がってミントの方へと歩き始めた。


「アイリス?」

「私がやったのだから、私が手当するわ」

「ありがとう」

「ねぇ、レオン、ミントを認めてあげるから、お願いがある」

「うん、何でも言ってくれ」

「私もミントの姉弟子として面倒見させて」

「ありがとう助かるよ。俺一人だと目を離す時間が出来ちゃうし」


 そのお願いの意味をレオンは深く考えなかった。

 喧嘩の続いた二人の少女がお互いの力を認めて、仲直りした程度だと思い込んでいた。


エピローグ


 治療は施したものの、まだ微妙に焦げ臭いギルド長に、レオンはことの成り行きを話していた。


「ミントの面倒を見てくれるっていうのが、まさか魔王城に住み着くことだとは思わなかったよ……」

「同棲生活を始めたので、仕事を減らして下さい。とギルドで申請を受けたが、まさかそういうことだったとは……」


 あの編入試験の後、アイリスはミントの面倒を見るという名目で魔王城に居候を続けている。


 アイリスがミントのことを認めて大人しくなるかと思いきや、ドタバタは余計に増えた。


「おかげで一人ゆっくり本を読んだり、書いたりする時間が減りましたよ」

「にしては、楽しそうですけどね」


 一人の時間が減った代わりに三人であれこれやる時間が増えた。

 そういう意味では刺激が増えて、以前より楽しく魔王という立場に向き合える。

「そうですね。俺らしくいられる家族みたいな人達ですから」


 気負う必要の無い女の子といられる。

 気負って潰れかけたレオンにとって、彼女達はありがたい存在だった。


「俺は俺らしい魔王になりますよ」


 そう言って笑うレオンは年相応の男の子のような柔らかい笑顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ