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腹芸

 禿のおっさんの全身の毛がチリチリになったぐらいで、レオンはアイリスに制止をかけた。


「話してくれる気になりましたか?」

「言う……何でも言うから許してくれ……」

「では、何故ミントを襲ったんですか?」

「そいつが……うちの商品だからだ」


 人が商品になる商売は限られている。

 売春か奴隷か。

 奴隷が売春させられるということもあるので、両者はかなりの確立で重なっている。


「そうなのかミント?」

「はい……」


 出来れば嘘であって欲しかった。

 売買の契約がおこなわれた瞬間、ミントは商品となり、レオンが手元に置けば資産を盗んだのも同然となる。

 法律に照らし合わせれば、レオンが窃盗罪で訴えられてもおかしくない。


「なるほど。買い取られる前に隙を見て逃げたってことか。で、本を抱えてずっと魔王城目指して逃げ続けたと」


 ミントがこくんと頷いた。

 なら、問題は何故ミントが売られてしまったかだ。

 少なくとも魔導書が買えるのだから貧乏な家では無いし、服だってしっかりしていた。


「ご両親が商売に失敗して、借金の形に連れ去られた、とか?」

「騙されたんです……。仕入れた商品が偽物で……、納品した人はお金だけ持ってどっかに消えちゃったんです……」


 その結果、借金取りにミントが奪われたということなのだろう。

 よくある話し。と一言で片付けるには簡単だ。

 レオンが金を払ってミントを買い取れば良い。

 でも、そうはいかないことにレオンは感づいている。

 はげたおっさんは飼い主がお怒りだと言っていた。

 既に誰かに買われている。


「誰がミントを買った?」

「そ、そいつは言えねぇ……」

「アイリス」


 レオンがスッと手を上げると、アイリスが手に紫電を溜めた。


「ひぃっ!? カエルサ様です!」


 光が見えた途端におっさんは口を割った。


「へぇ? 街でも有名な金持ちのオッサンだよな。悪趣味に飾り付けた服を着て、魔王城に来たことがある」


 金色の服を着て、金で作ったネックレスや指輪を見せつけてきた狸みたいなオッサンだった。

 ライバルが病死したり、馬車にひかれて事故死したり、と曰く付きのオッサンだ。

 金持ちがわざわざ普通の町娘を買うなんて考えられない。

 けど、ミントは普通じゃない。

 明らかにアイリスと同じ神憑きの子だ。

 その手の子供を手に入れようとする人間の考える事は多く無い。


「ミントを自分の私兵に育てようとでもしたんだろうなぁ」


 レオンはポリポリと頭をかくと、長いため息を吐いた。

 カエルサの家に、彼が身を守るために私設の傭兵団がある。

 その一員としてならまだマシ、私用暗殺者だったら大変なことになっていただろう。

 どちらにせよ金でミントを奪うのは大変そうだ。


「おっさん、カエルサのところに案内してもらえるかな?」

「な、なんで俺が」

「アイリス」

「ハイ! ヨロコンデー!」


 すっかり調教されたオッサンがアイリスの名前で反射的に動き出した。

 さすがは泣く子も黙る雷帝アイリスだ。


「ねぇ、レオン。やっぱりあなたは十分に魔王の素質があると思うの」

「へ?」

「頼ってくれて嬉しいわ」


 いきなり褒められたレオンは疑問符を浮かべるだけだったが、アイリスはそれ以上何も言わなかった。

 そして、いつもならアイリスにかみつくはずのミントは、口をつぐんだままレオンの袖を掴んで歩き続けた。



 奴隷商の案内と魔王という身分のおかげで、レオン達はあっさりとカエルサの屋敷に入ることが出来た。

 応接間の壁は赤い塗料で立派な戦いの絵が描かれている。

 金があるんだぞ。という威圧感が半端ない。

 そして、戦いの絵からは逆らったらこの壁に血を吸われるぞ、という警告を感じる。

 その血は本人だけではない。アイリスとミントはレオンから離されて、別の部屋で待たされている。人質みたいなものだ。

 そういった理由でレオンはカエルサと一対一で向かい合っている。


「して、魔王様、今日は何用かな? 見たところ、ワシが買い付けた商品を携えておるようだが。素直に連れてきたという訳ではなさそうだ」

「単刀直入に言いましょう。ミントを買いに来た」

「ほぉ? 魔王様ともあろうお方が小娘にご執心とはな。未熟な果実が好みだと?」

「カエルサさんほどの富豪が小娘にご執心ですか。孫娘に嫌われないよう孫娘を可愛がる方が良いのでは?」


 お互いにフフッと笑うと、カエルサは鋭い眼光をレオンに向けてきた。


「冗談が上手いな。小僧」

「そちらも腹芸がお上手だ。首を切るのは得意でも、腹を割って話すのは苦手か?」


 隣の部屋で待機している傭兵の気配を感じながらも、レオンは微笑みを浮かべたまま挑発をし返した。


「魔王、お前は何を狙っている?」

「なるほど。腹を割れと言っている方から腹を割れと。分かりました」


 レオンは居住まいを正すと、笑顔を引っ込めた。


「彼女に惚れたからです」

「偶然だな。ワシもだよ」

「神憑きとしての能力は申し分ない。上位霊獣並の素質を持っている。用心棒や暗殺者に仕立て上げれば、敵う人間は少ないでしょうね」

「そこまで気付いておって、なおも買い取りたいと? ワシが売ることなど、万に一つも無いと分かっておってか?」

「えぇ、金では買えないでしょうね」

「なら、力で買うか?」

「ご冗談を。俺は平和主義者なんですよ。攻める戦いよりも守る戦いの方が得意なんです」


 金でも無い、力でも無い、このオッサンからミントを手に入れるには相当な何かが必要だ。


「ギルドチャットと世間では呼ばれていますけど、便利ですよね。遠隔通話魔法って」

「む?」


 話を突然変えたレオンに、さすがのカエルサも顔をしかめた。

 ハッキリと警戒の色が顔に現れている。

 その様子にレオンはニッコリと笑った。


「何せ狙った相手以外には全く声が漏れない仕組みになっていますからね」

「そうだな」

「遠く離れていてもすぐに声が届く上に、何を話したかなんて証拠は残らない。悪事をするならこれが一番だ」


 レオンの言いたいことが分かってきたのかカエルサは押し黙ったまま、レオンの目を睨み付けた。


「もし、その記録が全て残されていたとしたら?」

「なるほど。ワシが裏にいたとでも言いたいのかな?」

「さて、何のことでしょうかね。俺は作者としてやれることを言っているまでです。そう例えば、ミントのご両親を追い詰めた詐欺事件の証拠も見つけられるかもしれませんね? 借金の形に持って行かれたのなら、借金自体が間違えていれば、あなたと奴隷商人の契約は無効です」


 カマをかけたり、とぼけたり、お互いに腹芸をしあって、揺さぶりをかけあっていく。


「他にもこういう使い方をすれば便利ですよね。隣の部屋にいる傭兵にいつでも動けるように指示を出していることが分かる、とかね。危機を察知して逃げられます」

「ほぉ、確かにそれは便利だな」

「俺の出す条件は、俺がこの魔導書を世の中に出さない。あなたに使わないという物です」

「なるほど」


 カエルサは腕を組んでしばらくの間考え込む素振りを見せた。

 金を十分に持っている相手に金では勝てない。力を振るえば代償を負う。そこでレオンは第三の道である情報を武器に攻めた。

 言葉にはしていないが、断れば情報で殺しにかかると言っているようなものだ。

 大元を握っている限り、レオンの方がはるかに有利。


「悪くは無い。悪くは無いが、ワシの方がまだ足りぬな」

「まだ何かをお望みですか?」

「その魔導書を書き、ワシに渡せ」

「なるほど。さすがだ。良いですよ。それで交渉成立です」


 カエルサは金と暴力、そして情報という三つ目の力を手に入れようとしている。

 他人の会話記録を盗み見ることが出来れば、脅しや交渉がよりやりやすくなる。それに気付いたからだろう。

 魔導書を手に入れればカエルサはより力をつける。その後にレオン達を潰すことだってありえるだろう。

 それを分かっていてもレオンは笑顔で頷いた。

 そして、その契約通りレオンは魔導書とミントの契約書を交換した。

 これでまた高みを目指せるとカエルサは笑ったが、彼は知らなかった。

 悪魔の契約ですら生ぬるい。魔王との契約をしたのだ。

 力を手に入れた代償は何よりも重い。

 その次の日、カエルサは傭兵共々様々な犯罪の証拠が出てきて牢屋にぶちこまれた。


「アレク師匠、ありがとうございました」

「なに。構わんよ。可愛い孫弟子のためじゃ」


 契約通りレオンは魔導書を誰にも売っていないし、カエルサには使っていない。

 全てアレクがやったことだ。

 レオンはカエルサに手を出してなんかいない。

 こうしてミントの事情が解消されたことで、全てが上手く収まったと思っていた。


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