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魔王のお仕事

 魔王。


 その名称は魔物の王から、最強の魔法使いが持つ称号に変わった。


「――以上がギルドからの報告です。魔王様」

「ありがとう。引き続き街道の警備をよろしくお願いします。ギルド長さん」


 魔法使いの頂点である魔王になったレオンのもとには、今日も様々な人間が集まる。ギルド長もそのうちの一人だ。


「了解いたしました。それにしても、今度の魔王様はお若いのにしっかりなされている。スランプで伸び悩んでいるなんて噂を聞きましたが、そんなことは全然感じられない。新作の魔法も使い勝手が良くて評判です。またお願いします」

「ハハ、お姫様も同じようなこと言ってましたけど、みなさんのおかげです。俺は大したことしてないですよ」

「いえいえ、お世辞抜きで、ゴブリンにも分かる魔法シリーズは初心者冒険者にも好評ですよ」


 民間組織であるギルド長だけでなく、皇族や高官もレオンに魔法を求めて会いに来る。


 普通なら周りの人間が顔を見た瞬間、頭を下げるような偉い人間ですら、レオンには頭が上がらない。

 それが魔王という立場だ。


 十六歳にしかなっていないレオンと、四十歳、五十歳を超えた国を動かしている人間が対等の立場で話をする。いや、場合によってはレオンの方が上の立場になることすらある。


 そんな魔王という肩書きは劇的にレオンの生活を変えた。


 公務という新たな仕事と、もう一つが――。


「師匠! 読み終えました!」


 大声とともに執務室の扉を蹴破る勢いで飛び込んできたのは、生まれたままの姿で本をわきに抱える少女だった。

 まだ幼さを残す丸い顔と大きな緑色の瞳。

 しっとりと濡れた真っ直ぐな赤い髪、水を弾く張りのある白い肌、膨れ始めた胸は青い果実を思わせる。

 そんなとびきりの美少女が裸でレオンに抱きついた。


「もう待ちきれません! 手取足取り教えて下さい!」

「ミントォォォ!? 何でまた裸のまま出てきたの!?」


「身体が疼いて仕方無いんです! 師匠はやく昨晩の続きをしましょう!」


 ギルド長はレオンから目を反らしながら咳払いすると、懐から手錠を取り出した。


「おほんっ。えっと……。魔王様、人の趣味をどうこう言うつもりはございませんが、日の明るいうちから、それも執務室でことをするというのはいかがなものでしょうか」

「ちょっ!? 待って!? 何か盛大な誤解をしてるよギルド長さん!?」


「私の目には魔王様がこの年端もいかぬ少女と、今から生殖行動に及ぼうとしているようにしか見えないですし、聞こえないのですが。魔王様相手と言えど、ギルド長としてあなたを逮捕する必要が……」

「違っ!? 今から魔導書の書き方を教えるんだよ!? この子は俺の弟子! 住み込みの弟子なんです!」


 危うく逮捕されかけたけど、この本を大事そうに抱えた素っ裸の少女の指導をすることがもう一つの魔王としてのお仕事だ。

 この赤毛の少女を一人前の魔導士に育て上げること。


 教える物は、魔法言語である日本語。その日本語の読み書きの仕方を、生まれた時から記憶していたレオンは様々な魔法が扱えた。記憶は全く無いのだけれど、小説を前世で書いていた名残らしい。


 そして、何かの縁あってこの赤毛の少女を育てることになった。


「師匠! はやくはやく! 新しい魔導書を考えたんですから!」

「分かったから服を着てくれないかな!?」


「大丈夫です! 師匠に見られて恥ずかしい身体じゃないです! もっと成長する自信あります! 見て下さい師匠のおかげでちょっと大きくなったんですよ!」

「そういう問題じゃない!? ギルド長さんいるから! 今魔王としてのお仕事中だから!?」


「えっ? きゃああああ!? 変質者ですうううう!」


 ミントがギルド長と目を合わせた瞬間、彼女は身体を慌てて隠して逃げていった。

 残されたレオンとギルド長は顔を見合わせて、お互いにそっぽを向く。


「あのぉ……魔王様……。これ私が訴えられて捕まる流れですか? というか大きくなったらしいですが……やっぱり手を出したんですね?」

「……出してないです。お互いに誤解ということで手打ちにしましょう。ついでに、誤解がないようあの子との関係について説明します」


 仕事相手と誤解したまま、誤解されたまま過ごしていたら、何が起きるか分かったものではない。

 ここはお互いの立場を守るためにしっかりとした話し合いを――。


「レオン! 今こっちに小娘来なかった!?」


 赤い髪の毛の子が逃げたと思いきや、今度は髪も肌も真っ白な女の子がタオル一枚の姿で部屋に飛び込んできた。


「アイリスまで!? ってか、二人とも服着てよ!?」

「あら? 小娘がいないのなら抜け駆けの好機。ねぇ、レオン、あの時の続き……しよ♡ 邪魔者はいないし、今度は最後まで――」

「アイリスウウウ!? ギルド長来てるから! 君の上司目の前にいるからあああ!?」


 最近の魔王城では裸の少女が出没して、魔王様を誘惑するようです。昼間から乱れていることがあるので、城へと参上する時には気を付けてください、というのが話し合いの結論になりそうだ。

 裸の女の子を侍らすような魔王じゃないのに、世間の目はこうやって作り替えられていくのだろう。


「アイリス君!? 君まで何を!?」

「む? のぞき魔だ。私とレオンの邪魔をするな」


「ぎゃあああああ!?」


 ギルド長が驚きの声をあげた時には遅かった。

 老人の身体を紫電が貫いて、びくんびくんと震えている。


「レオン、これで邪魔者はいなくなったわ。これで二人きりね♡」

「二人きりね。じゃねーよ!? ギルド長今すぐ手当しますからね! 死なないで下さいよ! あぁっ、もうメチャクチャだ! 俺の描いていた魔王生活はこんなはずじゃなかったのに!?」


 のんびり自分の本を書きたいだけのレオンの人生は、こうして今日も少しずつ平穏から離れていく。

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