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舞い散る蜜柑の花と土
舞い散る蜜柑の花と土。ここはレニングラード。蛇行する川のほとりを行く。
かつて氷の彫像は、その橋の脆さに酔い潰れたという。
『今だけなんだ。今だけ彼奴らの瞳は泥になるんだ』
どの血もみんな甘い香りがした。芳ばしい阿片の匂いがした。
日に日に大きくなる鉄塔はやがて襤褸を纏った人々を画鋲で留めていく。
消えない傷跡が剥き出しの電極。臍から臍へ駆け抜けた。
漆喰に頭を打ち付ける。海を渉ってみたかった。
きらびやかな絨毯を土足で踏み荒らす。
林檎は鉄で簡単に砕ける。舗道の修復が間に合わなくて不均等な色が並ぶ。
そんなに強く押し付けてもかえって薬液が浸透しない。
にわか雨は鹿を殺す。だから左を見なければならない。
洋琴の黒鍵と木星は刻々と形を変える。
自衛のために千の子蟹を放つ。
仕立屋の暖簾を潜ると、そこは鴎の呼ぶ波止場。
潮騒は狂い咲くならば一度きりの真円を描く。
雨の日に音が消える町。ここはレニングラード。黒の海は今も広がり続ける。




