少女は走った
少女は走った。いくらでも走った。誰よりも速く走った。
走る限り疲れなかった。走り続けていればよかった。他のものは何も要らなかった。
友達を置き去りにした。両親を置き去りにした。妹と妹を置き去りにした。嫌いなヤツを置き去りにした。途中で出会って仲良くなった人を置き去りにした。
時には付き纏われた。その度にヤツらには越えられないフェンスを越えて置き去りにした。
それでもヤツらはしつこかった。
捕まったらひどい目に遭うとわかっていた。捕まったら二度と走れないとわかっていた。
だから置き去りにした。それでもヤツらは追ってきた。何度だって置き去りにした。
少女は走った。疲れないはずが疲れていた。それでも少女は走り続けた。
もうヤツらの気配はなかった。
だけども少女は止まれなかった。走れば走るほど疲れた。息が切れそうだった。胸が苦しかった。何も考えられなかった。いつしか普通の速さで走っていた。だんだん遅くなっていた。それでも少女は走り続けた。
少女は走った。ぼろぼろの身体で走った。
止まっている人しか置き去りにできなかったけど走った。
少女は走った。走った。走った。走った。走った。走って、
気付けば走り出したところに戻っていた。
学校からの帰り道。車の入って来れない歩道。白とピンクのタイルの舗道。
少女は走った。学校の人たちの間を走った。みんなみんな置き去りにした。
少女は走った。走った。走った。走った。走った。走って、
目の前には背中。ゆっくり歩く背中。見覚えのある背中。
少女は走った。追い抜いた。置き去りにした。
友達を置き去りにしたように、両親を置き去りにしたように、妹と妹を置き去りにしたように、嫌いなヤツを置き去りにしたように、途中で出会って仲良くなった人を置き去りにしたように、
最初に置き去りにしたあの人を置き去りにした。
「見つけた!」
少女は走った。いくらでも走った。もう誰よりも速くは走れなかった。走れば走るほど疲れた。でも走り続けてなきゃいけなかった。
少女は逃げた。逃げた。逃げた。逃げた。逃げた。逃げた。いくらでも逃げた。
逃げ続けてなきゃ壊れそうだった。何も要らないと決めた。だから全部を置き去りにした。
「捕まえた!」
後ろから抱きつかれた。振りほどけなかった。追いかけっこは終わった。
「やっと捕まえた……」
車の入って来れない歩道。白とピンクのタイルの舗道。二人は膝をついていた。
「なんで——」
少女は涙を流しながら、最初と同じことを言った。
「なんで私に優しくするの?」
あの人は答えない。
「なんで他の人とも仲良くするの?」
あの人は答えない。
「なんで私以外の人と楽しくなれるの?」
あの人は答えない。
「なんで私を好きになってくれないの?」
あの人は答えない。
「なんで……」
あの人は答えない。ただずっと少女を離さなかった。




