夕立はしばしば
夕立はしばしば過去の香りを運んでくる。
夏の日の記憶は油絵のように、空の色と雲の形が確かな重みを持つ。
がごがごごが。ごががごがご。
耳障りな音を立てて、坂道の上から何かが転がり落ちてくる。
ペットボトル。
スチール缶。
時々、アルミ缶。
ビー玉を奪われたラムネ瓶。
ひどい処刑され方をした大罪人のようなカセットテープ(つまり内側の黒いのを全部引き抜かれたってこと)。
使用済みの単一電池。
パンクした自転車の車輪。
どんなときでも笑みを絶やさないテーマーパークのキャラクターの生首。
がごがごごが。ごががごがご。
みんな中身がない。
だからか、やけに音が耳に残るのは。
私は手で庇を作って坂の上に誰何。
もし? そこにいるのは何方?
つば広の帽子を被っているそれは、男にも女にも大きめの鹿にも見える。
逆光で長く延びた黒いのが、ふっ、と影下にいる私を呑む。
驚くことはない。無くなるのは一瞬。
どんどんバラバラにして新しくしないと、どんどん切り離して軽くしないと、私たちはあの鳥のようになれない。
寂しいとか、愛してるとか、切望とか、そういう黒いのはぜんぶ重力が搦め捕っていく。
空っぽになってさえ。
私。
あれは私。
少しだけ未来の。
ちょうどあんなつば広の帽子がほしいと思っていた。
がごがごごが。ごががごがご。
気付けば会社の事務所には私と私の上司だけ。
隣のビルの解体工事はもう少しだけ続くようだ。
「君のプライベートナンバーを教えてくれないか?」
上司が耳元で囁く。私は溜息。
「イチが二つに、ゼロ一つ」
「ひどい冗談だ」
「お先に失礼します」
「もう少し残っていくといい。外は雨が降っている」
「お構いなく。私の外はよく晴れていますので」
私は事務所を出る。
思い出も空想も現実も上司も黒いのも置き去りにして。
きょうは金曜日。
からっぽの逃飛行。




