「生け贄に?」
「生け贄に? 私が?」
何を見ているのだろう、と思う。静かになると、祀り草の香りがした。
あなたはさっきから何度も首を回す。ぐるぐるルぐる。やめて。捩じ切れそう。腸詰めみたいに。
こんなときでも汗一滴流れないのは、蝋人形だからだ。
「そうやって何回も言ってきたんだな、君は」
蛇たちが落ちてくる。鱗を奪われた蛇たち。奪ったのは雨雲。不吉の兆候。
聞かないふりをする。できるわけがないのに。
どうしたって彼女はもう降りられないところにいるのに。
こんなことならちゃんと伝えておけばよかった。クローバーは三つ葉でもいい。扉は開かれなくてもいい。砂は真っ白でなくてもいい。
けれど、もう、届かない。
なら、せめて比喩を探そう。この上なく適切な比喩を。それは明日のように遠くて、すぐ傍にある。
「火打ち場に続く階段の三段目の、石の補修はもう終わったのかしら。いざというとき、あんなところで躓いていられない。もちろんあなたはどんなときでも躓いていられないのでしょうけれど。つまり、一般的な話よ」
振り返ると、何もない。空白。
あなたたちは硝石を重ね過ぎた。あなたたちは有限なんて目には見えないと思っている。とても澄んでいるのだ。
でも、それは、灯火。
降りられない。降りられない。どうしてそれがわからないのだ。
「涙が出ない。違うな。あった〝こと〟もない。わかるかね、梨を選ぶお嬢さん?」
「吐き気がするわ。鉄屑に頬擦りしてなさい」
「もっと上品な言葉遣いをしたほうがいい、遺女」
「灰の次に甘い蜜はいかが?」
「よろしい」
輪が回る。塔が傾いて、大地が沼と化す。
「時間だ」
瞬きをする。どうしてか。長く見つめることは侵されることだから。鎖のように断ち切らねばならない。
「希望はある」
「こんなときに暗唱……?」
「まだ証明はされていないけれど」
世界の口癖。
そうやって全てを未知のせいにして、あなたたちは目を背けてきた。
私はただそれが嫌いだった。
無いのだ。海の藻屑のように。立ち上る煙のように。沸いた血のように。
「ああ、鈴の音」
少しずつ、
「汝はなぜ待たないのか?」
しかし着実に、
「汝はなぜ知らないのか?」
歯車は回っていく。
「罪なら我が背中に」
さよなら。
でも、またすぐに会うことになるわ。




