表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

一人に一人。あなたにもついている守護神様

 あまりにも自信たっぷりの口調に、笑われるのを覚悟で訊いてみた。

「お前に超能力があったなんて知らなかったよ。山奥に籠もって、滝修行でもしたのか?」

「まさかだろう」Pは楽しそうに笑った。「超能力なんていらないさ。誰にでも簡単に分かることだよ」

 安心した。昔のパターンのままだ。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花。

 Pはそのことわざを良く使っていた。今回も、最初にそのセリフがくる。そして、明快な種明かし。そのあと僕が、なんだ、そんなことだったのかと、彼の観察力と洞察力に感心して一件落着。

 早く続きを聞きたかった僕は、催促した。

「守護神は、どの時点で奇跡を起こしたんだ。なぜ魔法の言葉が不動産屋なんだ」

 しかし、Pはその問いには答えなかった。

「お前と運転手さんの会話を聞けば、たいていの人は、一発で当てるぞ」

 たいていの人が、一発で?

 と言うことは、世の中の殆どの人が守護神の存在を認めているということになる。でも僕はそれを、特殊な世界の人が密かに口にする言葉だと思い込んでいた。

 つまりPは、僕のことを時代遅れの男だと、暗に言いたいのだろうか。

 しかし、これまで彼がそんな遠回しな言い方をしたことはない。指摘するときは、単刀直入に言うのがPだ。

 たぶん、種明かしはまだ早い。もう少し考えてみろ、と言うことなのだろう。

「じゃあ、ちょっと時間をくれ」

 僕は、運転手が首を傾げて「不動産屋?」と言うまでの会話を、頭の中に並べてみた。


 

(太平洋上空32000フィートでの出来事。14話『情報屋】より抜萃)


 最初に運転手が言った。

「お客さんは、地べた里庵の身内の方ですか?」

「いえ、違います。どうして、あの店をご存じなんですか?」

「お客さんは、こちらの方ですよね」

「はい、そうです」

「一般市民が撮ったビデオを、ニュースとして使っている番組を見たことがありますか?」

「ニューズナウなら、殆ど見ています。あのコーナーは結構クオリティーが高くて……。もしかすると、運転手さんは、MBCふるさと特派員のメンバーなんですか?」

「いえ、私も、似たようなことをしていますが、マスコミには、一切、出ないんです」

「と言われますと?」

「四十年以上タクシーに乗っていますと、色んなことに詳しくなるんです。警察よりも裏社会に精通している運転手もいます。私の場合、店舗情報専門なんです」

「やっぱり、あれですよね。店舗情報を欲しがるのは、県外の不動産屋に決まっていますよね。東京とか大阪とかの……」

 その直後に、運転手は怪訝そうな声で「不動産屋?」と言った。


 どこで、守護神が現れたのか、どこで奇跡が起きたのか、見当もつかなかった。

 分かったのは、僕と運転手の会話が、噛み合っていなかったということだけ。

「ギブアップ。分からない。教えてくれ」

 これまで通りだったら、ちょっともったいぶった口調で「実を言うとな」と、僕にでも分かるように、その理由を並べはじめるPが、突き放すように言った。

「自分で考えろ」

 予想外の言葉に、戸惑いよりも怒りに近いものを感じた僕は、つい、子供じみたセリフを吐いた。

「何言っているんだ。考えたけど分からなかったから、ギブアップと言ったんだぞ」

 しかし、彼は大人だった。冷静な声で「それは分かっているさ」と言った。「でも、俺の守護神が、そう言えと言うんだ」

 耳を疑った。しかし、聞き間違いでないことは確かだ。

「お前にもいるのか? 守護神が」

 冗談だったのだろうと思っていたが、Pは、さらりとした口調で返してきた。

「何を驚いているんだ。誰にだっているさ。お前にもいるだろう、守護神は」

 愕然とした。やっぱり、昔のPじゃない。

 自己主張が強く、信念を曲げなかった。口が悪かったが、純粋無垢。

 あの頃のPを変えられるような人間は、ざらにはいない。

 僕は気持ちを落ち着かせるために、携帯を耳から離して、息を整えた。

「お前に守護神の存在を吹き込んだのは、あの会長なんだよな」

「お、さすがだな。どうして分かったんだ」

 Pはあっさりと認めた。しかも嬉しそうな声で。

 憶測が当たったのに、嬉しくもなかった。僕の記憶の中のPに、洗脳の文字が重なって見えたからだ。

 洗脳によって、性格を変えられたP。しかし、彼はそれに気づいていない。どうすれば、それに気づいてくれるだろうか。

 そんなことを考えている最中に、ふと思った。

 それより、こっちの方を先に片付けるべき。僕は言葉を一つ一つ区切りながら質問した。「今、俺にも、守護神が、いると、言ったよな」

 その言い方に、Pは何かを感じ取ったらしい。

「ああ、確かに言ったよ」と答えたところで黙り込んだ。そしてしばらくすると、、前言を取り消すようなことを言い始めた。

「その前に言っておきたいことがある。実を言うと、うちの会長は、俺を含めた社員に対して、守護神なんていう言葉は、絶対に使わない」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ