ベリーイージーモードの人生へ
RPGやギャルゲーに必ず付いている機能。全滅してしまった時や、選択肢を間違えた時、そいつが役に立つ。
セーブポイント。この機能を使うたび、オレはいつも思う。
「ああ、オレの人生……セーブしてえ」
オレはゲームをやりながら、ふとそんなことを考えていた。
「明日の期末、マジやべえ……」
そうそう、軽く自己紹介でもしておこう。
オレの名前は花岡充。高校二年生の17歳。彼女はいない。友達はまあいるけど、あまり多いほうじゃない。
成績は下の上。中途半端に頭が悪く、常に40点台をキープしている。
趣味はゲーム。夜が明けるまでやりこむこともしばしばで、授業と書いて睡眠と読むような人間だ。
明日から始まる期末はすでに諦めモード全開。だからこうして、深夜二時を過ぎた今でもゲームをしている。
腹はくくった。あとは、親にしかられるだけ。テスト中は全科目寝て過ごすと決めている。
全科目0点なんて、なかなか勇者じゃないか。まあ、褒められたもんじゃないが。
「せめて……昨日に戻れればなあ」
まあ、無理な話だ。それでも……そんなバカげた願望を持たずにはいられない。
ふと、スマホが視界に入る。
「なんか面白いアプリ、ねえかな?」
適当に検索をかけてみる。エロ動画見放題、ネットショッピング……ん?
「セーブ、ポイント?」
信じられないモノを見つけた。セーブポイントというアプリ。
説明を読むと、自分の人生をゲームみたいに記録したり、読み込むことができる……らしい。
「バカか、そんな機能があるわけ……あったらいいよなあ」
まあ、何か話のネタくらいにはなるだろう。そう思って、セーブポイントをインストールしてみた。
さっそくアプリを起動してみる。すると、真っ暗な画面に、セーブとロードの白い文字が浮んでくる。
「シンプルだな。えっと? とりあえず、セーブしとくか」
画面をタップして、セーブを選ぶ。すると、現在時刻が表示されセーブが完了する。
「ふーん? 今度はロード画面にいけば、今セーブした時間に戻れるのか? ……は! バカバカしい。もう寝るか」
オレはスマホを床に放り捨てると、布団に潜り込んだ。
そして、翌朝から試験期間が始まる。高2の夏。進学を来年に控えた身としては、ここでしくじるのはまずい。
まずいのだが……オレは結局、勇者になった。
当然、全科目0点。教師に呼び出され、親にしかられ、妹にバカにされ、立ち寄ったコンビニでいらついて少年誌を破いて、逃走。
覚悟してたけど……ダメージでかいわ、こりゃ。
気が付くとオレは、公園のブランコに座ってスマホでゲームしていた。
「あー。どうすっかなあ」
別に大学なんて行きたいワケじゃない。人生それなりに楽しくすごせればそれでいい。だから、勉強なんて適当にやってりゃいいや。というのが、今までのオレのスタンスだった。
だが、今日のはこたえた。今の時代、大学出てるのはデフォだから、就職もできるかどうか……このままじゃオレ、人生詰んじまう。
「マジでどうするよ、オレ?」
ゲームを終了してホーム画面へ戻ると、セーブポイントのアプリが目に付く。
「マジで……頼むよ。オレを、あの日に戻してくれよ……」
祈るように、すがる思いでアプリを起動。そして、ロード画面であの日を選択する。
途端に目の前が真っ暗になり、気が付くとオレは自分の部屋にいた。
「え?」
いつの間にか服装も変わっている。時刻を確認すると、深夜二時を過ぎたところだった。
「まさか?」
あわててカレンダーを確認すると、あの日……セーブした日時になっていた。
「戻って来たんだ! やった! 本当にこいつは、セーブポイントだったんだ!」
すごい。すごいぞ! こいつは……すごい!!
「オレはなんてものを手に入れちまったんだ……さあ、勉強だ!」
感激している場合じゃない。今からでも勉強すれば赤点くらい回避できるはず……やってやる、やってやるぜ!
そうしてオレは猛勉強し……結果……。
「全科目平均28点……」
結果はあまり変わらなかった。一夜漬けじゃ、こんなもんか……ちくしょう。ちくしょう……結局、無駄な努力だったのか?
いや? 待てよ。努力する必要なんて、あったのか?
セーブポイントがあるじゃないか。二回も問題を見て、だいたいは覚えた。
あらかじめ答えさえ覚えて、もう一度ロードすれば……いや、オレが回答したところで、それが正しいとは限らない。
自信を持って言えるが、オレはそこそこバカだ。バカほど信用できないものはない。
なら、今回クラスでトップになったヤツから回答を聞きだして、それをそっくりそのまま使わせてもらおう。
よし。これだ!
そうしてオレは、クラス一の秀才、葉山美月から答えを聞きだし、もう一度あの日に戻ってきた。
結果。
「よくやったな! 花岡。先生、今でも信じられないぞ。いきなり学年27位なんて」
先生に褒められ。
「充。すごいじゃないか、よしよし、これは特別ボーナスだ。新しい参考書でも買いなさい」
オヤジに小遣いをもらって。
「兄貴、やるじゃん。ちょっと見直したよ。あ、そういえばさー。あたしの友達が兄貴のメルアド教えて欲しいって言うんだけど……」
妹の尊敬を受け。
「先輩……私、先輩のことずっと、ずっと好きでした!」
彼女ができた。
まさにオレの人生、ベリーイージーモード突入。笑いが止まらない。
さらにこのセーブポイントを使えば、何をしてもロードさえすれば、オレがやったことはなかったことにできる。
犯罪すらも、だ。