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悪を裁く正義の法

 ツインテール記念日、その翌朝。自室のベッドの上で腕組みをしながら、俺は考え事をしていた。


「まさか、マジもんとはな……にしても……ハハ。俺が自由に法律を作っていいだなんて。マジかよ?」


 県の最低時給を1万にしちまう法律でも作るか? いや。20歳以下の子供には毎日国からお小遣い1万円が支給される、スーパー子供手当ってのはどうだろう。他には……1日一発他人を殴ってもいい、パンチ一発権とか。


「いいねいいね。俺がこの国を自由で住みやすい国に作り変えてやる。それじゃあ手始めに……お。そうだ。ちょっとエロい法律でも作ってやるか」


 スマホを掌の上でもてあそんでいると、まるで天啓のようにグッドなアイデアが閃いた。


 昨日はツインテール記念日だった。正直な話、ツインテールは俺の趣味じゃない。どっちかっていうと、ポニーテール派だ。よし、じゃあ今日はポニーテール記念日にでもしよう。


 ――かと思ったけど、それじゃインパクト的にイマイチだ。エロといえば、あれだろ。となれば、答えは1つ。


「女の子はみんなスク水着用を義務付ける……そう! 勤労感謝の日ならぬ、スク水感謝の日だ! 俺って天才だぜ!」


 よし、今日はスク水感謝の日! 罰則は……そうだな。死刑はさすがにありえねーし……まあ、罰金100万円にでもしとくか。1万くらいなら罰金払って回避するヤツいそうだしな。


 俺はさっそく2つ目のテキストボックスに、1月19日はスク水感謝の日。女の子はスク水着用を義務化。これを破った場合は罰金100万円。と、書き込んだ。


「さて、学校いく準備するか。ハハ……楽しみだ!」


 いや、まてよ。一応確認しとくか。


 自室のテレビを付けて、ニュース番組にチャンネルを変える。


『おはようございます。今日は1月19日。スク水感謝の日です』


 ニュース番組の女子アナが、スク水姿でにっこり笑顔であいさつしてくる。


「おお! マジでスク水だ!!」


『ご覧ください。通学途中の高校生も、通勤途中のOLも、みんなこの真冬にスク水です!』


 どこかの駅前の中継なんだろう。駅の入り口から出てくる女性はみな、一様にスク水姿だった。女性たちが心底寒そうにしている中、男どもの視線はスク水一直線だ。


 ま、そうなるわな。


『昨日はツインテール記念日で多くの違反者が射殺されましたが、今日はスク水感謝の日。みなさん、気を引き締めていきましょう!』


 俺は満足してテレビを消すと、朝飯を食うためにリビングへ向かった。だが、ここで大きな間違いを思い知る。


「か、母さん……あんた、いい年こいてなんてカッコしてんだよ」


「何って、今日はスク水感謝の日じゃない。女にとっては悪夢の一日よ。なんだってこんな真冬にこんなカッコしなきゃならないのかしらね。お上は何を考えてこんな法律を許可したのかしら」


 うちの母親(46)がスク水姿で目玉焼きを焼いていた。


 誰得だよ、この光景!? せめて家に姉ちゃんか妹でもいてくれればまだよかったんだが、あいにくと俺は一人っ子だ。ちくしょう、もっとがんばれよオヤジ!


「靖之。おばあちゃんのお着替え手伝ってあげてよ! お母さん今、手が離せないんだから!」


「は? ばあちゃんがどうしたんだよ」


 うちは三世帯同居の拡大家族というやつだ。じいちゃんはいないが、ばあちゃんがいる。


「そこに新品のスク水あるでしょ。それ、おばあちゃんのだから。あんた手伝ってきなさい」


「げ!? 嫌だよ! これ以上男子の夢壊すのやめてくれよ!!」


 しまった。年齢をちゃんと設定しておくべきだった!! この場合、20代前半までにしておくべきだったか……。


「俺、朝飯いいから! 行って来ます!!」


 急いで上着とかばんをひっつかみ、俺は家を出た。


「うわ、寒!?」


 空を見上げると、ちらほらと雪が降り始めている。こんな寒い日にスク水って……俺、けっこうとんでもな法律作っちまったかな?


 内心悪いことをしたという思いはあったが、通学途中の女子中学生に遭遇して、すぐにそれは弾け飛んで行った。そしてすぐにその後、巨乳女子高生のスク水姿を目撃し今日という日は特別なんだと実感した。


 まあ、生ゴミを出しに外に出てきてたおばちゃんのスク水姿は、脳内からキレイさっぱり消去しておくが。


 そんなこんなで高校に到着すると、1年生も2年生も3年生も、先生までも。スク水なのである。うーん。一生分のスク水を拝ませてもらった気分だな、こりゃ。


「昨日はツインテール記念日で、今日はスク水感謝の日。明日は、ブルマの日にでもしてやろうかな、ハハ」


 俺は自分の教室で自席に着くと、スマホを取り出して3つ目のテキストボックスを見てそう言った。


「広岡。お前、バイト代はいったのかよ?」


 いい気分だった俺を一気に不快にさせたのは、クラスの不良……田村だった。机をバンと叩き、その上に汚い尻を乗せてくる。


「いや、まだ……」


 田村はヤニ臭い息を吐くと、すごむように顔を近づけてきた。


 どこにでもあるくだらない話だが、俺はこいつにカツアゲされているのだ。けれど、それはもう今日までの話だ。


「おいおいおい!? 支払期限は昨日までだろうが。これじゃ俺、昼飯食えなくて餓死しちまうよ!」


「……死ねよ」


「あ? てめえ、今何て言った?」


「死ねって言ったんだよ!! このクズが!!」


 今の俺は無敵だ。もう理不尽な暴力に怯える必要はない。正義の法で、悪は成敗してやる!


「て、めえ!! そんな口きいてどうなるかわかってるのか!?」


 田村は怒りに震えながら、俺の胸倉をつかんできた。


「聞こえなかったか? 頭だけじゃなくて、耳も悪いんだな」


 胸元をつかまれながらも、俺は3つ目のテキストボックスに新たな法律を書き込んだ。


「こ、この!!」


「田村。今日から新しい法律が施行されるんだ。どんなのか知ってるか?」


「あ、ああ!? 俺が知るわけねーだろ!!」


「不良は死刑」


 俺がそういうのと同時、急に教室の扉が開いて警官が5人入ってきた。手には昨日と同様、機関銃が握られている。


「不良確認! 発砲を許可する。撃てー!!」


「な!? ま、待てよ! 俺、何も殺されるようなこと――ぎぃああああああああああああああ!?」


 まるでアクション映画のワンシーンのように銃口が火を吹き、マズルフラッシュが教室を照らした。


 死刑執行は一瞬だった。


「射殺、完了。国民の皆様のご協力に感謝します!!」


 田村は。いや、田村だったものは教室に散り散りになって、赤い絵の具をばらまいたように床が濡れていた。


 クラスメイト達は何が起こったのか理解できずにいる。だが、友達と仲良くおしゃべりしていた女子が、肩に誰かの手が乗っているのを確認しようとして振り返ったとき、悲鳴の輪唱が始まる。


 それは、ちぎれた田村の腕だった。


 教室がパニックになって、女子はスク水姿のままだというのに、窓から外へ飛び出していった。


 男子の何名かは、教室の床に黄色い池を作って放心してやがる。


 これで終わりかと思っていた矢先、上の階からも銃声が聞こえてきた。3年生の教室からだ。


「これで少しは住みやすい世界になるんじゃね?」


 さて、と。次はどんな法律を作ってやろうか?


 どんな理不尽も、どんな不条理も、全て俺が覆してやる。

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