表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/52

友と妹

「お兄ちゃん、起きて。もう朝だよ!」


「う、うう……ん?」


 お腹の当たりが暖かくて、少し重い。何かが乗っている? 何だろう。それに、いい匂いがする。


「お兄ちゃんてば!!」


「う、うわ!? き、君は……」


 目を開けて前を見ると、中学生くらいの見知らぬ少女がいた。それも、寝ている僕のお腹にまたがっている。


「えへへ。大好きだよ、お兄ちゃん!」


「へ?」


 誰だ、この子。こんな子、僕は知らない。


「もー。お兄ちゃんが起きてくれないと、華菜がお母さんに怒られちゃうんだからー。こうなったら、最終手段だー!」


 戸惑っていると、女の子は僕のお腹の上から降りて……え? ふ、布団の中に潜り込んできた!?


「え? ちょ、ちょっと!?」


「ほら~、起きるの!」


 もぞもぞと布団の中から華菜が顔を出してきた。


「お兄ちゃん、おはよう!」


「あ、ああ。おはよう……」


 そうだ。寝ぼけていたけど、思い出した。この子は僕の妹だ。


 間島華菜。僕がマーケットで購入した妹。弟を出品したポイントで購入した妹。


 華菜は僕が完全に目を覚ましたことを確認すると、ぴょこんとベッドから抜け出た。


「ご飯、そこに置いておくね」


「あ、ああ。ありがとうね、華菜ちゃん」


 華菜は元気いっぱいな中学2年生で、サイドテールの可愛い女の子だった。弟とは天と地の差もある。素直で、従順で、可憐で、可愛くて、僕が思い描く理想の妹像そのものだ。


「お兄ちゃん。ずっと言おうと思っていたんだけど……」


「ん?」


 ドアを背にして華菜は僕を見る。


「もしお兄ちゃんが、このままずっと引きこもりでいるなら……」


「え?」


 華菜の目が鋭くなって真剣になる。もしかして、僕。妹に説教される?


「華菜がお嫁さんになって、養ってあげるね!」


「あ、ああ。ありが……とう?」


 さらに華菜は顔を真っ赤にしてうつむくと、可愛らしくもじもじして言った。


「それでね。赤ちゃん、いっぱいいっぱい作ろうね!」


 ……いや、これはさすがに狙いすぎだろ。と、思ったが……アリだな。ていうか、血の繋がりはないんだし。いや、この子の中では血の繋がった兄妹っていう設定なのか。


「じゃあね! 愛してるよ、お兄ちゃん!」


 ドアを元気よく締め、華菜は去って行った。


「……妹っていいな」


 床に置いてあったトレイに手を伸ばし、コーヒーに口を付ける。


 弟が消えて3日経ち、妹ができて3日が経つ。


 父も母も、まるで最初から弟なんていなかったようにふるまい、突然現れた妹を我が子のように可愛がっている。


 僕も最初こそ戸惑ったが、こんな可愛い妹がじゃれついてきて、嫌がる男なんかいない。


「このオムレツ、おいしいな。華菜が作ってくれたのか……」


 華菜は、料理のスキルも高く家事も率先してこなしている。


 弟ならこうはいかない。あいつはひたすら僕をバカにして、蔑んだ目で僕を見下すんだ。だから、出品して正解だった。


 こんな素晴らしいアプリがあるなら、もっと早く使えばよかったよ。まったく。


「ふう。おいしかった。こんなにおいしい朝ご飯は初めてだ」


 朝食を片付けると、僕はスマホでメールをチェックした。青山くんからのメールが、楽しみでしょうがない。


「あれ、まだ返信、ないのか」


 メールが来ないだけで、気分が落ち込んでしまう。僕は、青山くんに嫌われてしまったのだろうか……。


 気落ちしてると、突然スマホが震えた。


「あ、青山くんから、で、で電話だ」


『おはよー、良人ー!』


「お、おはははは、よう!」


『かみすぎかみすぎ! まったく、朝から面白いなー良人はー』


「ご、ごめん」


 やっぱり、電話で人と話すのって緊張するな。チャットならスラスラ話せるのに。


『今これから暇?』


「う、うん」


『じゃあさー。カラオケ行かね?』


「え? 僕……外は……それに、この前ゲーム買って今お金ないし……」


『大丈夫大丈夫ーおごるよ。アニソンメドレーしようぜ! ジェムプロとか歌って、熱くなろうぜ!』


 カラオケで、アニソン……いいな。お金も青山くんが出してくれるなんて……でも……。


「で、でも……僕、やっぱり、外は……」


『怖いの?』


「うん……」


『心配するなって。俺がついてるよ。良人は俺が守ってやる』


「へ?」


 ちょっとそのセリフは、BL臭がするんだけど……なんて、言えないな。


『うわー! 野郎相手に言うセリフじゃなかった!! 今の忘れて! 俺、ガチホモじゃねーから!』


 冗談とはいえ、なんか頼もしい奴だ……それに、友達とカラオケでアニソン……歌ってみたい。


「は、はは。わかってるよ。う、うん。行くよ。僕……」


『お、マジ!? じゃあ、10時に駅前な!!』


「う、うん。それじゃ」


 そして僕は、外に出ることを決心した。


 深夜にコンビニへ行く程度なら外には出ているけど……日中に出歩くのはかなり久しぶりだ。


 準備を整えて、いざ外へ出ると一歩一歩が怖かった。


 すれ違う人々が、僕をバカにしたような目で見ている……気がする。実際はそうじゃないかもしれないけど。


 それでも僕は頑張って、友達のところへ行こうと歩みを進めた。


「少し……早かったかな」


 時刻はまだ9時48分。約束の時間まで10分以上だ。さて、どう時間をつぶそうかな。


 そう考えた矢先のことだ。


「ちょ、マジうける! 何あのきもい奴!」


 ――え?


「うわー。マジオタクって感じ。くらそー。てか、きもっ!」


 声のしたほうを見ると……二人の高校生くらいの女がいた。見るからにDQNだ。髪も金髪でケバい。


 そいつらは、僕を見ている。僕を……バカにしている。


「……!!」


「うわー、こっち見た! きも!」


 だから、嫌なんだ。外に出るのは……こんなことなら、やっぱりやめておけばよかった。


 ふつふつと怒りがこみ上げてくる。でも、僕にはどうすることもできない。初めから負けているような気がして、足が動かなかった。


「鏡見てみろよ、お前ら」


「え?」


 ふと気が付けば、青山くんが僕の隣にいて……DQN女に一人で向かっていった。


「見知らぬ人間に、きもいって言うんじゃねえよ! お前らに良人の何が解るんだ!!」


「あ、青山くん……」


 僕の怒りを代弁するように、青山くんは肩を怒らせ、DQNどもを睨み付けている。


 DQNどもは完全にすくみあがり、どうやってこの場を逃げ出そうかきょろきょろと周りをみていた。


「きもいなんて、ひどいことを平気で言える心の持ち主のお前らのほうが、きもいよ」


 それだけ言って、青山くんは僕の隣に戻ってくると、DQNどもは小さな声で「ごめんなさい」と言って、去って行った。


「あ、青山くん。ありが、とう……」


「何言ってんだよ、良人。友達を守るのは当然だろ。それに俺、ああいうの許せないんだ。自分より弱い立場の人間を平気で傷付けることができる奴……」


 青山くんは、険しい表情を崩し爽やかな笑みを浮かべると僕の背中を押した。


「おら、行くぜ! 嫌なことは歌って忘れるぞ! 一発目はラブラブライブの第1期OP曲な! センターはもちろんお前な?」


「え、ええ?」


 僕は、いい友達を持った。本当に心の底からそう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ