欲しいモノといらないモノ
「でさー。今期のアニメはどれも不作だったけど、来期は期待できるのいっぱいあるよねって話さ。特にラブラブライブの二期とか、天使のリドルは期待大だよねー」
「あ、う、うん。そうだね……」
「今度、ライブいかね? 良人はりんちゃんが好きなんだっけ?」
「ち、ちがう。僕は……ほのたん……」
「そっかー、ごめんごめん! ほのたんもいいよなー。あの純粋でまっすぐなとこが萌えるよな! 俺もあんなお母さん、欲しい!」
「お、お母さんかよ!」
青山大樹は本当に僕の家にやってきた。写真通りのビジュアルで、僕とアニメの趣味も合う。その上明るくて、面白い奴だ。
「お? 進撃の小人の最新巻じゃん。まだ読んでないんだよねー」
「読んでもいい、よ」
「さんきゅ! やっぱ持つべきものは友達だな!」
屈託なく笑う大樹に、僕は救われたような気持ちになった。
僕以外誰もいない部屋に人が……友達がいるだなんて。今でも信じられない。
正直な話、うさんくさいとは思っている。友達を買えるアプリなんて、あるはずもない。もしかしたら、青山大樹は僕を同姓同名の誰か勘違いしているだけかもしれない。
それでも……僕は嬉しかったんだ。もし下心あって僕に近づいてきたのだとしても、それでも……こうやってアニメの話ができる相手がいるのは、素直に嬉しい。
「ふあ~~あ! 良人と一緒にいると、楽しくて時間忘れちゃうな! 俺そろそろ帰るわ」
「あ、本当だ。もうこんな時間か」
ふと気が付けば、すでに夜の7時だった。
「またな、良人」
「ね、ねえ」
「ん? どったん?」
部屋から出て行く青山大樹の背中に、どうしても聞きたかった。
『君はどうして僕の友達になったの?』って。けれど、聞けない。聞いてしまったら、僕は本当に1人になってしまいそうだったから。
「いつでも呼べよな! 俺たち、友達なんだからさ」
「うん。ありがとう……青山くん」
最後に彼はニコッと気持ちのいい笑みを浮かべ、帰って行った。
本当に友達を購入できたとしたなら……マーケットはホンモノだ。でも、そんなの信じられない。だから、他の物を購入して確かめる必要がある。
彼が出て行ってすぐ、僕はマーケットを起動してみた。
「僕が欲しいもの……そうだな……」
『ただいまー!』
部屋の片隅でスマホをいじっていた僕は、玄関から聞こえてきた弟の声にびっくりして、スマホを床に落としてしまった。
「あいつ、帰って……来たのか」
僕には一つ下の弟がいる。名前は優人。僕とは違って、勉強もスポーツもできて、明るくて親に期待されている。その上……。
『お邪魔しまーす』
『あら、六花ちゃんいらっしゃい。ゆっくりして行ってね』
彼女がいやがる。
なんて、生意気な弟なんだ。あんな弟よりも、妹が欲しかった……。
ん? そうか。
「妹が欲しい。明るくて可愛いほのたんみたいな妹が……欲しい」
マーケットを起動し、あなたの欲しい物を選ぶ。すると、そこには10代の少女たちの顔写真と、簡単なプロフィールがあいうえお順に並んでいた。
「どの子も可愛い……」
特に僕が気に入った女の子は、進藤亜沙子と間島華菜の2人。どちらも僕好みの女の子で、ほのたんに似ている。
そうだな……よし。間島華菜ちゃんにしよう。進藤亜沙子は、なんとなく嫌な予感がする……気のせいかもしれないけど。
僕はさっそく、間島華菜を妹として購入することにした。
「購入ポイントが不足しています。購入に必要なポイントは1000ポイントです。ポイントをチャージしてください?」
そういえば、青山大樹を購入するときにもそんなメッセージが流れたな。でも、どうやってポイントをチャージするんだ?
「購入ポイントは、あなたさまのいらない物をマーケットへ出品することによって、得ることができます。出品したい品物をカメラで撮影すればあら簡単。この際に、いらない物を処分しちゃおう……か」
いらない物、ね。古いラノベとか、ゲーム機本体とか、かな?
さっそくいらなくなったガラクタを集め、ひとつひとつカメラで撮影してみる。けれど……。
「合計20ポイントです。本当に出品しますか? って、ぜんぜん足りないじゃないか! なんだよ、もう……」
落胆しかけたとき、隣の部屋から女の子の声が聞こえてきた。
『えー、ゆうくん。お兄さんいるんだ!? 紹介してよー。六花、ご挨拶しておきたいな』
この声は……弟の彼女か。
『やめとけって。あんなの兄貴じゃねーよ。頭悪いし、暗いし、きめーし、マジ最悪だわ、あんなのと家族なんて。あーあ、消えてくんねーかな』
……。
『存在消せるなら、消してやりたいね。兄貴より姉ちゃんのがよかったよ』
『ちょっと、ゆうくん! 聞こえちゃうよ?』
……そうか。
『いいって。どうせ聞こえたところで、部屋から出てこれない臆病者なんだから。あははははは!!』
……いらないもの、あった。
僕は、静かにドアを開けて部屋を出た。
怒りで頭がいっぱいだ。
ふざけんなよ。ふざけんなよ。ふざけんなよ!! 僕だって、お前みたいな弟はいらないんだよ!
弟の部屋の前で大きく深呼吸する。そして、ドアを少し開けて……中でいちゃいちゃしていた弟にカメラを向けると……。
「お前みたいなのは……出品してやる」
僕は、撮影ボタンをタップした。
すると、まるで最初からいなかったように、弟の姿は忽然と消えてしまったのだ。
そして僕は同時に、購入ポイントを1000ゲットした。




