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欲しい物が何でもそろってる夢のような店

「これも欲しい。ああ、これもいいなー」


 ゲーム、ラノベ、フィギュア、お菓子、家電、エロ本……。欲しい物はすべてここで手に入る。


「とりあえず、買い物カゴに入れておこうっと」


 世界最大のネットショッピングサイト、尼天。ここで買えない物はない。なによりいいところは、外出せずに買い物ができるってところだ。


 特に、僕のような引きこもりにとっては必須のツールだと思う。ネットショッピングって。


 店員や他の客と目を合わせずに済むし、重たい物を持ち運ぶ面倒がないのが実にいい。エロ本とかも、店員の視線を気にせず買えるのだから。


 ……そうだ。誰の視線も気にする必要がない。誰かに見られてバカにされて笑われることも、ない。


 僕がこんな風に……他人の視線が怖くなったのは……学校の……クラスメイトのイジメのせいだ。そして、そんな僕を助けようともしなかった担任と、無理解な親と世間のせいだ。


 僕はイジメられていた。暴力とか嫌がらせとか、物理的なイジメではなく、間接的なイジメだった。


 まるで、僕が初めから存在していなかったように無視をする男子達。遠くからひそひそと僕をあざ笑う女子達。汚い物でも見るような担任。


 向かっていく勇気がなかったわけじゃない。へたに手を出せば分が悪いのは明白だ。やけになって事件を起こしても仕方がない。


 周りが子供だらけなんだから、僕がオトナの対応を取るしかないじゃないか。


 だから、僕は僕の城で日々を過ごすことにした。ネットショッピングで買ったゲームやラノベで毎日を過ごしている。


 僕は僕の世界で生きればいい。あいつらとは、違う次元の存在なんだ……。


 けれども……。


『良人ちゃんー。また尼天.comから荷物きてるわよー』


「うるせえな! 部屋の前に置いとけよ!! クソババア!!」


 母親が空気を読めずに、僕の部屋を大きな音でノックしてきた。


 こっちはネトゲ中なのに。それも、ボス戦で手が離せないときに、余計なことをしてくれる。


「あ……死んだ」


 一瞬の油断が、ゲームオーバーにつながる。パーティ―メンバーもドミノ倒しのように共倒れだ。空気が悪くなってきて、僕は回線不良をいいわけに落ちた。


「ち。どいつもこいつも使えない……」


 僕はいらだちをベッドの上の枕にぶつけると、外のお宝を回収するため、城門(ドア)を開ける。尼天で先日購入したゲームが届いたのだ。


「尼天.comから、宛先は宮本良人さま……か」


 宮本良人。これが僕の名前。この城の主の名前。


「お前を待ってたよ」


 梱包を乱暴に引きちぎり中身を取り出すと、さっそくゲームをプレイしてみる。


「便利な世の中だよな」


 ネットショッピングサイトで買えない物はない。欲しい物はすべて手に入る。


 けれども……。


 僕が本当に欲しい物はここにはおいていない。いや、そもそもお金で買えるものじゃない。


「このゲーム、面白いってレビューがいっぱいあったな。面白いの……かな?」


 せっかく買ったゲームも、ラノベも、アニメも誰とも気持ちを共有できない。掲示板とか、ネトゲのギルドメンバーとチャットで話すこともできるけど、伝わりきれない生の部分がある。


「なんだよ、これ。クソゲーじゃないか。ああ、くっそー」


 購入したゲームがクソだったことも、誰にも話せない。他人が怖いクセに。それでも他人との繋がりを求めてる。


「欲しいな……友達……なんでも話せる友達……僕の味方してくれる友達……」


 ゲームパッドを床に放り投げ、ベッドにダイブする。


 時間を確認しようとして、スマホのロックを解除すると、見慣れないアプリがインストールされていた。


「マーケット? 何だ、これ」


 欲しい物がいつでもどこでも何でも手に入る! あなたの欲望赴くままに、素敵なショッピングライフをエンジョイしちゃおう♪


 試しに立ち上げてみると、そんな文章が現れた。


 何だ? 新しいネットショッピングのアプリか? 品揃えと信頼で尼天以上のサイトがあるとは思えないけど……。


「試してみよう、かな?」


 そう思って、品揃えを見ると……。


「うわ。何だこりゃ」


 バーに表示されたカテゴリーがたった一つしかない。


「あなたの欲しい物……」


 あなたの欲しい物。たったそれだけ。


 試しにそれをタップして選ぶと、何とも奇妙な品揃えだった。


「これって……人間、だよな?」


 リストには、ずらりと顔写真に名前、簡単なプロフィールがあって……趣味もみんなゲームで、僕と同い年の少年ばかりだ。


「何なんだ、このアプリ。……イタズラか? でも……なんか面白い」


 試しに一番先頭の写真をタップしてみた。


 あいうえお順でソートされているのか、そいつの名前は青山大樹という名前で、隣の市に住んでいる高2らしい。


 第一印象は明るくて優しそうな奴。そんな感じのビジュアルだった。


 人懐っこそうな笑みを浮かべる大樹は、僕とは正反対だ。友達も多そうで、彼女の一人や二人くらいいるかもしれない。


 けれど、趣味はゲームで深夜アニメもライブで視ている隠れオタクのようだ。好きなアニメもキャラも僕と丸被り……こいつが、僕の友達になってくれたら……。


「楽しいだろうな」


 思わず、口から心の声が漏れ出てしまった。


 アニメの話をしてみたい。好きな声優は誰? ロボットアニメは好き? 来期のアニメはどれがおすすめ?


 こいつに、会ってみたい。友達に、なりたい。


 画面をよく見ると、購入ボタンがある。


 購入? 購入って……できるのか? だったら――。


 気が付けば僕の指は、購入ボタンをタップしていた。


「今回は初回の為、購入ポイント消費無しでご購入いただけます。次回以降のショッピングには購入ポイントが必要となりますので、ご注意ください?」


 購入ボタンをタップして、すぐにそんな文章が流れた。購入ポイント? 電子マネーかクレジットカードでポイントを買うのか? ていうか、これよくよく考えたらイタズラだよな? ていうか、フィッシングサイトとかのやばいやつ?


 疑問が頭の中で増殖し始めていた僕は、見知らぬ番号からの着信で我に返った。


 おそるおそる電話に出てみると……。


『おー、ようやく出たよー。良人、ちょい心配したぜー?』


「だ、誰だ? 何で僕の番号……知ってるんだ?」


『へ? そりゃ友達なんだもん番号くらい知ってるに決まってるじゃん!』


「とも……だ……ち?」


『そうだよー。俺だよー青山大樹だよー。今近くまで来てるからさ、良人のうち寄って行っていい?』


 青山大樹……って、さっきの!? まさか……本当に?


『おーい? 良人ー?』


「あ、ああ。うん。青山くん? だっけ? 家の住所わかるの?」


『おう! 何度も遊びに行ってるじゃーん。そんじゃま、コンビニでジュースと菓子でも買ってくから、首を長ーくして待ってろよ』


「う、うん」


『またあとでな!』


 今の電話……まさか本当に? 僕は、友達をアプリ『マーケット』で購入したっていうのか?

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