『レンタル』
欲しい物がいっぱいある。
服、バッグ、アクセ、香水、ケーキ、家電、本、ゲーム、自分だけの部屋、何をしても怒らない親、従順な下僕、かっこいい彼氏。
母親曰く、私という人間を一言で表せば『強欲』らしい。それがどうしたのか。
欲しいと思って何が悪いの。それを手に入れようとして何が悪いの。手段を選ばないのは……まあ、これが悪いのかもね。
欲しい物は必ず手に入れる。それが私の信条。どんな手を使ってでも、必ず手に入れる。
頑張ってお金を貯めて買うのもまあアリだけど、一番爽快なのは奪うこと。
だってさ、他人がおいしそうに食べてるケーキを見て、それを横から奪い取ってやったら面白いじゃない?
そいつが悔しそうな顔してるのを見たら、ケーキの味も倍増確実。
イイ感じのカップル見たら、仲を引き裂いてやろうとか考えちゃう。しかもカップルの男が私好みだったりするんだ、これが。
欲しい物は日々増えていく。あれも欲しい。これも欲しい。もっと欲しい。
そんなある日、私が欲しいと思ったものは、服でもバッグでも男でもない……不思議な力だった。
欲望アプリ。不思議な力を持つスマホ用のアプリケーション。
誰がいつどうやって作ったのかは解らない。1つだけ解っているのは、10代の少年少女の願いを叶えてくれるということ。
私も欲しい……私だけのアプリ。でも、どうやって手に入れるんだろう?
私の純粋な願い……いや、欲望が天に届いたのか、ある日ホーム画面にそれがインストールされていた。
それが、アプリ『レンタル』。他人の持ち物を何でも借りることができるらしい。
何でも。そう、何でも。お金も服も、彼氏も家も、命も……他人の欲望アプリすらも。
私はさっそく、そのアプリを使って色々なアプリをレンタルしてきた。
『ストップウォッチ』、『コントローラー』、『セーブポイント』、『リメンバー』、『ジャック』、『マジック』、『イーター』、『ケージ』……。
もっと色んなアプリを使いたい。その為には、アプリを使える人間を見つけないとダメだ。
ところがこれが簡単に見つかる見つかる。皆、色んな欲望を抱えて生きているから。特に17歳という年頃は、大人と子供の狭間。
欲望アプリは夢を描いていられる子供の、最後の願いなのかもしれない。
「芹山さんもスマホなんだ?」
「うん。そだよ」
「そっか、芹山さんもスマホなんだ」
だから、私の後ろの席のクラスメイト、芹山夢が欲望アプリを所持していても、驚くことはなかった。
その後。桜本忠道、相田花音の2人もアプリを所持しているのを発見したし、何より鈴木大治郎の『コンフィグ』……。
一目で欲しいと思った。まだ使ったことのないアプリだ。
だから、私は彼を屋上に呼び出して……ストップウォッチで時間を止めて……屋上から突き落とした。
「ばいばい、鈴木くん」
鈴木くんがグラウンドに落ちた。結果は見るまでもない。
だって、頭から落ちたのだから。
「これで……コンフィグは私の物……ふふ」
屋上のフェンスを背に、私は笑った。
アプリをレンタルするには条件があるのだ。それは、アプリ所持者を殺すこと。殺した人間のアプリは永久に借りパク状態。
ちなみに私が警察に捕まることはない。
だって、私は時間を止めることもできるし、他人に乗り移ることもできるし、他人を操作したり、過去の自分に意識を転送することができるからだ。
「私の人生を、ベリーイージーに」
コンフィグで自分の人生の設定を変更すると、私は歩き出した。
さて。この街に長く留まる必要はない。このアプリがある以上、私は進藤亜沙子でいる必要もない。
さあ、行こう。もっともっと欲しい物がこの世界にあるのだから。
欲しい。あれも、これも、それも。
そうだ……もしあなたがスマホを持っていて……特別な欲望を抱いているのなら気を付けて。
あなたの欲望アプリを必ず私が奪いに行くと思うから。
~『レンタル』 終~