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これなんて乙女ゲー?

 学校が終わって時刻は午後3時半。帰宅部のあたしは、ホームルームが終わるとそっこーで家に帰る。


 クラスメイトの子達は、カラオケとか遊びに行ったりするみたいだけど、あたしにはとんと縁が無い。


 帰ってやることといえば、ゲームだけ。その日も電車の扉近くでソシャゲをしようと電源を入れたあたしに、そいつはやってきた。


「ゲーム? って何なんだろこれ……こんなんインストールした覚えないんだけど」


 ホーム画面に追加されていたアプリ、ゲーム。なんとなくそれを起動してみると、説明文がいきなり流れてきた。


 あなたの人生がゲームになる!? 恋愛、格闘、RPG、アクション……色んなジャンルで刺激的な人生を送ろう!


「はあ? 人生がゲームになるって……意味わからないんですけど」


 バカバカし過ぎて笑いそうになる。でも……面白い。いわゆるジョークアプリの類だろうと思って、楽しんでみますか。


「ジャンルの選択……ね。やっぱ……恋愛かな」


 説明文が終わって真っ暗になった画面に、様々なアイコンが表示される。


 あたしはハートマークの真ん中に、恋愛と書かれたアイコンをタップしてみた。


「……これであたしも、乙女ゲーの主人公って? だったらいいよね~」


 まあ、予想通り何にも起こらない。後で削除しとくか。数分間夢見れたし。


 電車を降りて、駅から自宅まで歩く。


「はーあ。かっこいい執事が迎えに来てくれないかなあ」


 あたしの地元はけっこう田舎だ。都心部から離れたベッドタウンで、山みたいに盛り上がった土地の上に、何軒もの家が建っている。


 我が家にたどり着くまでにけっこう急な坂があるから、玄関を開けると息も絶え絶え。HPバーが赤く点灯して瀕死状態。


「今日も頑張りますか」


 坂を目の前に、気合を入れようとした時だった。


「え? 何、車?」


 車の種類とか詳しくないあたしでも、一目でそれが高級車であることがわかる。お嬢様とか高貴な人が執事に運転してもらってそうな……。


「げげ。リムジンじゃん! なんでこんなベッドタウンのど真ん中で……」


 黒いリムジンは、そのまま坂を上るのかと思ったら、あたしの目の前で停車した。


「え? ちょ、何これ!」


 そして、運転席から黒い燕尾服を着た若く美しい男が出てきて、あたしの前で頭を下げてきたのだ!


「お迎えに上がりました、夢お嬢様」


 なんじゃこりゃあ!


「は? あたし? お嬢様って、あたし?」


 頭を上下左右動かしてお嬢様を探してみるけど、どこにもそんなのいやしない。


「おじい様がお待ちです、さあどうぞ車へ」


 上品な笑みを浮かべ、男はリムジンのドアを開けてあたしに入るよう促してくる。


「え? え? おじいちゃん!? あたしのおじいちゃんは、小学校の頃亡くなったけど!」


「美代子お嬢様……あなたのお母様のお父上であります」


「美代子お嬢様って……お母さん!?」


「はい。北条寺美代子。あなたのお母様は、北条寺グループ総帥の1人娘なのです。詳しい話は、お車の中で」


「は、はい!」


 これって一歩間違えれば誘拐じゃん。けど……こんなかっこいい執事さんになら、連れ去られてもいいや。


 それからあたしは、執事さん……片山さんから話を聞いた。


 要約すると、あたしのお父さんとお母さんは駆け落ちしたらしい。ちょっと信じられないよね。お父さんただのゲーム好きなおっちゃんなのに、そんな恋愛してたなんて。


 それで、長い間二人の行方を追っていて、ついに探し当てたとか。二人の間にあたしが生まれていたことを知って、おじい様は孫のあたしに会いたいとか。


 正直、信じられない。あたしが日本でも有数の金持ち北条寺家の血を引いてるなんて。


 けれど信じられない気持ちは現実を見せつけられて、あたしは嫌でも受け入れざるを得なかった。


 巨大な豪邸に到着すると、何人もの使用人が出てきてあたしに頭を下げる。


 何これ、すっげー気持ちいい。


「さあ、参りましょうお嬢様」


「あ、はい!」


 豪邸の扉が威厳のある音を立てて開いていく。


 屋敷の中に入ったあたしは、ずっと圧倒されっぱなしだった。庶民のあたしの貧弱な語彙で形容するなら、それはやっぱり豪華とかでかいとか、超すげーってくらいなもん。


 実際、デカくて豪華で超すげーし。


「お嬢様、足元にお気を付けください」


「あ、うん。ありがとうございます」


 やがて屋敷の奥のほうに進むと、片山さんが立ち止まった。


「旦那様。夢お嬢様をお連れしました」


 目の前のドアを恭しくノックし、片山さんが静かに声をかける。


『入れ』


 そして、扉の向こうに通されたあたしは、北条寺グループ現総帥、北条寺長政の前に立った。


 そこであたしは、さらにとんでもないことを言われたのだ。


 北条寺グループを継いで欲しい。これだけでもビックリなのに。


「北条寺に相応しい男を伴侶として選びなさい。すでに3人屋敷に招いている。それぞれが各分野で活躍する天才たちだ」


「はい?」


 ハンリョ?


 あたしは流れのままに、別の部屋に通された。


 そこには、映画やドラマで活躍中の天才俳優、小野寺瑛太がいて……あたしを見るなり抱き付いてきた。


 え、抱き付いてきた!?


「お前は今日からオレの物だ」


 爽やかな吐息があたしの頬にかかる。目の前には、天使みたいな美少年がいて、あたしに「お前は今日からオレの物だ」とか言われた。


 ちょっと、意味わからないんですけど!?


 たくましくも細い体に抱き付かれて、ステータスはパニックだ。誰かこの状態異常回復してって感じ。


 困惑しているあたしに構わず、別の部屋に連れていかれると、そこにもまた美少年がいて……急に唇を奪われた。


 ふええ!?


 その美少年もまた、天才小説家の天田勇樹で……。


「僕は今まで色んな恋愛小説を書いてきたけれど、どんなミリオンヒットした小説の主人公よりも、僕は幸せかもしれない。君という、最高のヒロインに出会えたのだから」


 とか、キラキラしながらイケメンビームを放ってきた! 歯が陶器ですか? ってくらいありえなく白い!


 わああああ! 「どんなミリオンヒットした小説の主人公よりも、僕は幸せかもしれない。君という、最高のヒロインに出会えたのだから」、とかリアルで言われたらドン引きだけど……美少年がキラキラしながら言ったら……アリだ。


 そしてまたまた別の部屋に通されるけど、部屋の中には誰もいない。


 誰もいないのかと思って、周囲を警戒していたあたしは、急に太ももに風を感じて驚いた。


「チ。ババくせえのはいてんなあ」


「え?」


 どこから湧いて出たのか、これまた美少年があたしの、あたしのスカートをめくりあげて……。


「俺の趣味じゃねーや。けど……いい足の筋肉だな。気に入ったぜ。お前の(ゴール)に最高のストライクを決めてやるよ」


 こいつは確か、天才サッカー少年の渡瀬奏汰!


 ていうか、いきなり女の子のスカートめくるとかありえないんだけど! 


 ――ババくさいのは認めるけどさ。これ五枚セットで500円の安物だし。


「お嬢様。彼らのうち1人と結ばれ、北条寺家の後継者として恥じぬレディになっていただきますよう、この片山。精一杯サポートさせていただきます」


「あ、は、はい。よろしくお願い……します?」


 一体、さっきから何なのこれ。まるで、乙女ゲーみたい……。


 あ。もしかして……これがアプリ『ゲーム』の力、なの?

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