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願ったり叶ったり

 あたしはゲームが大好きだ。レトロなアクションゲームから、最新のネトゲまで一通りプレイしている。


 ジャンルだって言わずもがな。RPG、シミュレーション、格ゲー、スポーツ、レース、乙女ゲーを踏破した。


 一昔前では「女の子がゲームなんて」、と母親に言われる家庭もあったようだけど、今や親子でゲーム攻略の話をする時代。


 家もそう。お父さんもお母さんもゲームが大好きで、あたしは色んなゲーム機に囲まれて育った。


 特にお気に入りのゲーム機は、セガワサターンとバーチャルガールかな。弟と妹みたいな感じ。


「芹山! 芹山夢!」


 ゲームは1日12時間がデフォの私は、学校でも電車でもどこでもゲームをプレイしてしまう。


「聞いているのか、芹山!?」


「へ? あたし?」


 ふと気が付けば、クラス中の視線があたしに集まっていた。スマホでソシャゲをしていた手を止めて前を見ると、担任の先生がこわ~い目であたしを見ている。


「ホームルーム中だぞ。次、点呼答えなかったら、欠席扱いにするからな」


「あ、すみません……」


「園田真由里」


「はい」


 スカートの上でスマホを操作しつつ頭を下げると、担任はすぐに興味を失って、次の子の名前を呼んだ。


 はあ、危ない危ない。バレてスマホ取り上げられでもしたら、ヘコむどころの話じゃないよ。自殺ものだよね。


 とにもかくにもあたし、芹山夢は無類のゲーム好きなのだ。今はまってるのはスマホでできる乙女ゲー。


 二次元の美少年たちの笑顔が4.7インチの液晶いっぱいに広がる広がる。


 ああ……ゲームっていいなー。選択肢選んだり、パラメーター上げたり、フラグ立てるだけで、美少年と恋愛できるんだもん。


 リアルじゃそうはいかんよね。てゆか、リアルの三次元男子とか色々ありえないし。


「芹山さん」


 乙女ゲーみたいな学園生活してみたいなー。RPGも好きだから、異世界ファンタジーでもいいんだけどね。イライラしたときなんか、格ゲーみたいに相手をフルボッコできれば気持ちいいだろなー。


「芹山さん」


「へ? あたし?」


「もう、さっきから何度も呼んでるのに」


 再び前から声がしたので顔を上げると、一つ前の席に座る進藤さんが、あたしの席にプリントを置いて困ったような笑顔を浮かべていた。


「プリント、受け取ってね」


「ああ! うんうん、ごめんごめん!」


 急いで進藤さんからプリントを受け取り後ろの席の子へ回すと、進藤さんがあたしのスマホをじーっと眺めていた。


「芹山さんもスマホなんだ?」


 まるで、迷子になった我が子を探し当てた母親のように、進藤さんの顔は喜びと驚きでいっぱいだった。


「うん。そだよ」


 何だろう? これ、そんな珍しい機種じゃないのに。


「そっか、芹山さんもスマホなんだ」


 妙に納得した様子で可愛らしく笑う進藤さんに、あたしは何か得体の知れない恐怖を感じた。


「う、うん」


 何で二度も言うんだろ。これそんなに大事なところ?


 そもそもあたし、この子のことあんま好きじゃないんだよね。たまに見え隠れする薄暗い感じが、普段の可愛い笑顔と対照的で、嫌悪さえ抱く。


 まあ、ゲームオタで女子力低いあたしが言えることではないんだけど。


「近いうちに……ううん、きっとすぐに。芹沢さんにいいことあると思うよ、ふふ」


「ん、そっかな? あ、次の授業の準備しなきゃ」


 だから、適当なところで話を切って顔を背けた。この子と会話続けるの苦痛だから。授業の準備どころかノートすら普段取ってないってのに。


 勉強なんか、嫌いだし。


「よーし、一時間目。始めるぞー」


 現国の先生が入ってきて、授業が始まった。今日もつまらない一日が始まる。


 授業って何で受けるんだろ。そりゃま、学歴は社会に出れば必要なんだろうだけどさ。


「芹山」


 でも、勉強なんて大人になったらどう役に立つっつーの? 将来のためとか、母親になって子供ができたときに必要とかオトナは言うけど、あたしは特に将来のこととか考えてない。痛い思いしてまで子供欲しいとは思わないし。


 それなら延々とゲームやってたいよ。努力だの夢だの希望だの、暑苦しいこと言ってる昭和のおじさんたちには理解できないかもしんないけど。そんなあやふやなモン信じて生きてけるような時代と違うっつーの。


「芹山、おい芹山」


「へ? あたし?」


 ふと気が付けば、クラス中の視線があたしに集まっていた。


 うわ、やば。話ぜんぜん聞いてなかった。


「進藤の続き、読んでみろ」


「え? え? え?」


 続きってどこなの? やばいやばいやばい!


 こんなとき……ゲームだったら選択肢が三つくらい出てくるのかな。ゲームだったら、隣の席のちょっと気になる男の子が助けてくれるかな。ゲームだったら、学校にゾンビとか出て授業とか無くなるかな。


 そう、ゲームだったら。


「……もういい。次、園田。進藤の続きから読みなさい。芹山は座っていいぞ」


「……はい」


 どうやら、タイムオーバーらしい。制限時間内に答えることができなかったから、強制的にイベントが進行するみたいだ。


 あたしは恥ずかしさを隠すようにうつむき、席に着いた。


 それから授業が終わって昼休み。1人屋上でおにぎりを頬張る。


 ……友達はいない。人付き合い、苦手だし。


 ていっても、中学まではちゃんといた。人間関係のもつれ……簡単にいえば軽いイジメかな。そんなわけで、高校じゃクラスメイトと距離取ってる。


 でもま、友達に費やす時間をそのままゲームに充てられるので、これはこれでいいと思ってるよ。1人は気楽でいいし。


 それでもやっぱ……1人は寂しい……かな。


 ゲームだったら……友達どころか彼氏だって作り放題なのに。ゲームだったら、心から信頼しあえる仲間に出会えるのに。


 そう、ゲームだったら。


「どうして、ゲームみたいにうまくいかないんだろ、あたしの人生……」


 立ち上がって、屋上からグラウンドを見下ろす。


 高い。もしこのままここから落ちたら……死ねば、ゲームオーバーになって……人生をリセットとか、できないかな?


 ネット小説とかでよくある異世界転生ってやつ?


 あたしは前世と違って美少女に生まれ変わって、チートな能力神様にもらってさ。


 試しに少しフェンスを飛び越えてみようとするけど、そこから先へ一歩も踏み出せない。


「バカだ、あたし。……死んだら何もかも終わりじゃない。現実はゲームでも小説でも、ないんだから」


 そうやって、何もかもにあきらめをつけて、ゲームに逃げていたあたしにそれは届いた。


 『ゲーム』。スマートフォンアプリ。


 それは、自分の人生をゲームのようにプレイすることができるとか、あたしにとって願ったり叶ったりのアプリだった。

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