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掌サイズの運命操作

「……こいつは本物だ」


 帰宅して自分の部屋に到着すると、ドアを背にしてそう呟く。


「これで……ぼくは主人公になれる……」


 とりあえず実験してみたけれど、難易度の設定はもちろん、寿命の増減もこの目で確認できた。


「ぼくの人生を、ベリーイージーに……」


 コンフィグを起動して、自分の人生をノーマルからベリーイージーにする。


 その瞬間、世界が輝いた。まるでぼくを祝福するように眩しく、神々しく、包み込んでくる。


「早く、明日にならないかなあ」


 学校に行けば、どう変化したのかがわかる。明日が待ち遠しい。


 あ、そうか。体感時間をクイックにすればいいんだ。

 

 体感時間をふつうからクイックに変更すると、ビデオのコマ送りのように時間が過ぎていく。まるで1時間が1分足らずで過ぎ去っていく感じだ。


 これはいい。ツマラナイ授業はクイックにして、休日はベリースロウにすれば退屈せずに済む。


 ぼくはあっという間に晩ご飯を食べて、お風呂に入って寝てしまった。


 そして、次の日。


 体感時間を元に戻すと、軽い足取りで学校に行ってみる。


 何気ない日常の登校風景でも、何だか違って見える。体も軽い。心が跳ねるようにワクワクしている。


 何も感じなかった、風景の一部でしかなかった、昨日までの自分がウソのようだ。


「おはよう、鈴木くん」


「え? あ、ああ。おはよう」


 同じクラスの女子に声をかけられた。けど、一度も話をしたことなんてない。


「うーす、鈴木」


「え?」


 今度は男子だ。こいつも顔は知ってるけど、話しかけたことなんかない。


「鈴木先輩、おはようございますー」


 今度は後輩の女子。


「鈴木くん」


「鈴木」


「すずやん」


「大治郎ー!」


 何だ、ぼくってこんなに有名人だったのか?


 男子女子、後輩先輩関係なく、みんなが笑顔でぼくに接してくる。今まで見向きもされなかったのに……。


 いつの間にかぼくの周りには、自然と人が集まるようになっていた。


 しかも変化があったのは、交友関係だけじゃない。


 今まで解らなかった数学の問題が、小学生の算数かと思えるほど簡単に解けてしまう。英語もまるでネイティブのように、すらすらと話せる。


 勉強なんかしなくても、ぼくは学年一番の成績だ。


 スポーツだって、体育の時間でサッカーをやれば現役サッカー部員をフルボッコ状態で1人無双。他のメンバーは立っているだけで勝利が確定する。


 野球も、バスケも、テニスも……ありとあらゆる球技で、ぼくが入ればそれだけで勝敗は決まったようなものだ。


 彼女だって作り放題。こちらから声を掛けずとも、向こうから声を掛けてくる。先輩後輩同級生……まるでラノベみたいなハーレム展開じゃないか。


 これが……ベリーイージーモードの人生!


 ぼくは、夢のような毎日に満足していた。


 そう、ぼくは主人公。ぼくは常に人の輪の中心で、世界はぼくを中心に回っている。


 だから、主人公にたてつく愚かなMOBは許さない。


 コンフィグアプリが、単に自分の人生を変えるだけのモノなら、ぼくはこの時点で飽きていたかもしれない。


 けれど、こいつは他人の人生すらも操作できる。


 人の中心にいることが当たり前になって、主人公にも飽きてきたぼくが次に起こした行動は……他人の人生を操作すること。


 それも、イージーやベリーイージーのヤツをベリーハードにしたり、逆にハードやベリーハードの人間を、ぼくと同じような主人公(ベリーイージー)の人生にしてやったり。


 掌に他人の運命を携帯している快感。タップ1つで天国から地獄へ。地獄から天国へ。


 笑いが止まらない。これ以上のゲームがあるだろうか。


 なんて特別な個性なんだろう。ぼくは異常かもしれないが、それでもいい。


 だってぼくは全ての中心。主人公なのだから。

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