表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/52

彼のライフは100。

 実験の第二段階。それは、寿命の設定である。


 難易度に関してはさっきのイケメンの件でわかった。……けど、偶然浮気現場が発覚した場面に、ぼくが居合わせただけかもしれない。


 だから、今度は違う要素で実験してみるべきだろう。


 ぼくは駅前のコンビニに入ると、成年誌を立ち読みしている中年男性を発見した。


 彼はグラビアアイドルの水着写真を見て、鼻の下を伸ばしている。薄くなった頭髪と汚らしいスーツを着ているが、日曜日にわざわざ仕事をしていたのだから、立派な社会人なのだろう。


 他に客はいないのかと店内をぐるっと回ってみたが、すぐ近くに別のコンビニがあるからか、この店舗はどうも繁盛していないみたいだ。


 しょうがない……さっきのあれにしよう。


 コンフィグを起動し、中年男性をカメラに収める。


 難易度ノーマル。寿命は43/60。体感時間、ふつう。才能、ロリコン+マザコン+甘えん坊。


 才能に関してはあえて突っ込まないが(ていうか、才能と呼べるのか?)。


「か、金を出せ!!」


 レジのほうから怒声が聞こえてきて、ぼくは振り返った。


 見れば、サングラスに帽子をかぶった怪しい男が、レジのバイトに包丁を突きつけて、脅している真っ最中だ。


 ぼくの頭の中に1つの単語が浮かび上がる。


 ――強盗。


「おい、てめえら動くんじゃねえぞ! 妙なマネしてみろ! ぶっ殺すからな!」


 強盗はぼくとおじさんに振り返ると、手に持った刃と同じくらい鋭い言葉を放った。


 おじさんはそれに怖気づき、成年誌を足元に落としてしまう。


「早く金を出せ! 死にてえのか!」


 再びバイトに包丁をちらつかせ、金を出すように催促する強盗。


「いやだ……俺はまだ死にたくない、死にたくないよ……」


 おじさんは大人のクセにガタガタと震えだし、涙目になってぼくにしがみ付いてきた。


 情けないヤツ。


 ぼくはというと、あまりにも突然の事過ぎて、感覚が着いていけなかったが、おじさんの情けない姿を見て、冷静になることができた。


 そうだよ、何もしなければ……殺されることは無い。強盗もそう言ってる。


 それに、いざとなれば……ぼくにはコンフィグがある。


「早くしねえか!! このノロマ!」


 強盗がバイトに一喝すると、それに連動するみたいにおじさんが飛び上がった。


 そして、次の瞬間。


「え?」


 ぼくはおじさんに突き飛ばされた。強盗に向って突っ込んでしまう。


「俺は、俺は死にたくないんだ! は、はは。じゃあな!」


 ぼくはなんとか勢いを殺して、強盗のすぐ前で立ち止まりことなきを得たが……。


 ――ふざけるな。ぼくを盾にしやがって。


「て、てめえ! 逆らうならぶっ殺すぞ!!」


 強盗にはぼくが勇気ある反逆者に見えたのか、包丁を振り上げて威嚇してくる。


 ――ふざけるな。このクソMOBが。


 コンフィグを起動し、強盗をカメラに収める。


 難易度ハード。寿命は36/57。体感時間、ふつう。才能、強盗。


 ぼくは即座に強盗の寿命のMAXを、0にしてやった。


「ふは!? が、ぐぇ……」


 強盗は包丁を床に落とし、その場にうずくまる。必死に口をパクパクと動かし、陸にあげられた魚みたいに跳ね回っている。


 せいぜい苦しめ。MOBが。


 だが、こいつはどうでもいい。それよりも、許せないのは……。


 ぼくはコンビニを出ると、のろのろと走るおっさんをカメラに収めた。


「お前は絶対に許さない。ベリーハードモードの人生を、100歳まで。人よりも何倍も時間を長く感じながら、死んだ方がマシだと思いながら……生きて行け!!」


 それは、呪いと呼んでもいい。


 ぼくは、自分さえ助かればそれでいいと思うような身勝手な大人を、罰する。


 難易度、ベリーハード。寿命、43/100。体感時間、ベリースロウ。才能、無能。


 ヤツの人生をそう再設定してやった。


 すると。おっさんは赤信号を強引に渡ろうとして……車にはねられた。


 けれどまだ、生きている。そう、彼は100歳まで生きていかなければいけない。彼の生き地獄はこれからも続くだろう。


 自ら命を絶つことも許されない。それでも生き続けなければならない。……そう考えると、とんでもない話だ。


 ぼくは実験の第二段階を終了すると、帰宅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ