彼のライフは100。
実験の第二段階。それは、寿命の設定である。
難易度に関してはさっきのイケメンの件でわかった。……けど、偶然浮気現場が発覚した場面に、ぼくが居合わせただけかもしれない。
だから、今度は違う要素で実験してみるべきだろう。
ぼくは駅前のコンビニに入ると、成年誌を立ち読みしている中年男性を発見した。
彼はグラビアアイドルの水着写真を見て、鼻の下を伸ばしている。薄くなった頭髪と汚らしいスーツを着ているが、日曜日にわざわざ仕事をしていたのだから、立派な社会人なのだろう。
他に客はいないのかと店内をぐるっと回ってみたが、すぐ近くに別のコンビニがあるからか、この店舗はどうも繁盛していないみたいだ。
しょうがない……さっきのあれにしよう。
コンフィグを起動し、中年男性をカメラに収める。
難易度ノーマル。寿命は43/60。体感時間、ふつう。才能、ロリコン+マザコン+甘えん坊。
才能に関してはあえて突っ込まないが(ていうか、才能と呼べるのか?)。
「か、金を出せ!!」
レジのほうから怒声が聞こえてきて、ぼくは振り返った。
見れば、サングラスに帽子をかぶった怪しい男が、レジのバイトに包丁を突きつけて、脅している真っ最中だ。
ぼくの頭の中に1つの単語が浮かび上がる。
――強盗。
「おい、てめえら動くんじゃねえぞ! 妙なマネしてみろ! ぶっ殺すからな!」
強盗はぼくとおじさんに振り返ると、手に持った刃と同じくらい鋭い言葉を放った。
おじさんはそれに怖気づき、成年誌を足元に落としてしまう。
「早く金を出せ! 死にてえのか!」
再びバイトに包丁をちらつかせ、金を出すように催促する強盗。
「いやだ……俺はまだ死にたくない、死にたくないよ……」
おじさんは大人のクセにガタガタと震えだし、涙目になってぼくにしがみ付いてきた。
情けないヤツ。
ぼくはというと、あまりにも突然の事過ぎて、感覚が着いていけなかったが、おじさんの情けない姿を見て、冷静になることができた。
そうだよ、何もしなければ……殺されることは無い。強盗もそう言ってる。
それに、いざとなれば……ぼくにはコンフィグがある。
「早くしねえか!! このノロマ!」
強盗がバイトに一喝すると、それに連動するみたいにおじさんが飛び上がった。
そして、次の瞬間。
「え?」
ぼくはおじさんに突き飛ばされた。強盗に向って突っ込んでしまう。
「俺は、俺は死にたくないんだ! は、はは。じゃあな!」
ぼくはなんとか勢いを殺して、強盗のすぐ前で立ち止まりことなきを得たが……。
――ふざけるな。ぼくを盾にしやがって。
「て、てめえ! 逆らうならぶっ殺すぞ!!」
強盗にはぼくが勇気ある反逆者に見えたのか、包丁を振り上げて威嚇してくる。
――ふざけるな。このクソMOBが。
コンフィグを起動し、強盗をカメラに収める。
難易度ハード。寿命は36/57。体感時間、ふつう。才能、強盗。
ぼくは即座に強盗の寿命のMAXを、0にしてやった。
「ふは!? が、ぐぇ……」
強盗は包丁を床に落とし、その場にうずくまる。必死に口をパクパクと動かし、陸にあげられた魚みたいに跳ね回っている。
せいぜい苦しめ。MOBが。
だが、こいつはどうでもいい。それよりも、許せないのは……。
ぼくはコンビニを出ると、のろのろと走るおっさんをカメラに収めた。
「お前は絶対に許さない。ベリーハードモードの人生を、100歳まで。人よりも何倍も時間を長く感じながら、死んだ方がマシだと思いながら……生きて行け!!」
それは、呪いと呼んでもいい。
ぼくは、自分さえ助かればそれでいいと思うような身勝手な大人を、罰する。
難易度、ベリーハード。寿命、43/100。体感時間、ベリースロウ。才能、無能。
ヤツの人生をそう再設定してやった。
すると。おっさんは赤信号を強引に渡ろうとして……車にはねられた。
けれどまだ、生きている。そう、彼は100歳まで生きていかなければいけない。彼の生き地獄はこれからも続くだろう。
自ら命を絶つことも許されない。それでも生き続けなければならない。……そう考えると、とんでもない話だ。
ぼくは実験の第二段階を終了すると、帰宅した。




