人生というゲームの難易度
名前、鈴木大治郎。身長、167センチ。体重、60キログラム。年齢、17歳。性別、男。偏差値、51。小遣い、月2千円。
これがぼく、鈴木大治郎のプロフィールである。名前とスズメの涙程度の小遣いを除けば、ごくごく平凡な数値ではないだろうか。
顔も特別かっこいいわけでも、ぶさいくなわけでもない。やせてもいないし、太ってもいない。頭が悪いわけじゃないし、良いわけでもない。中流家庭で兄が1人いる。
――非常にツマラナイ人間だ。17歳日本人男性のサンプルとしては、この上ない逸材かもしれないが。
個性が欲しい。そう、特別な個性が。
無個性なぼくは、ゲームのMOBと同じだ。そんなの、嫌過ぎる。
ぼくの人生は、ベリーハードモードでなければ、ベリーイージーモードでもない。ただのノーマル。
だから、欲しい。
他の誰にも無いような、オンリーワンでナンバーワンな才能であったり、絶世の美男子だったりとか、あるいは異常なヤツでもいいんだ。
平凡なんて、ツマラナイじゃないか。
MOBなんて、主人公にぶっ殺されるか、有益な情報を与えてやるだけのどうでもいい存在だ。
だからぼくは、いつも願っている。こんなクソみたいなプロフィール、ネトゲのキャラクターメイキングみたいに、いじれればいいのになって。
名前も、身長も、学力も、親兄弟も、性別も、すべては生まれた時に決まっている。
不平等は、すでに生まれた瞬間始まっているんだ。
ぼくはそう――主人公になりたい。
努力で変えれるのは一部の人間だけ。平凡なノーマル人間は、そのまま受け入れて身の丈にあった生き方をしていくしかない。
でもそれじゃツマラナイ。
現状をブチ壊したい。
自分を変えてみたい。
そんなぼくの願いが天に届いたのか、ある日。奇跡が起こった。
モテキが来たとか、リア充になったとか、そういう解りやすいモノじゃない。
そいつはたった一つのスマートフォン用アプリ。名前をコンフィグと言う。
今一番売れているだとかいうキャッチコピーにつられて機種変したスマホ。手当たりしだいインストールしたアプリに混じって、コンフィグはインストールされていた。
一体、いつの間に?
けれど、そんな疑問なんてアプリを使った瞬間に吹き飛んでしまった。
コンフィグは、カメラで写した人間の人生を、ゲームみたいに設定できるバカバカしいくらいにファンタジーなアプリだ。
難易度、寿命、体感時間、才能。その4つだ。
試しにぼくは自分の人生の設定を確認してみた。
ぼくの人生は、デフォルトで難易度ノーマル。寿命は70/17。体感時間、ふつう。才能、無し。
……なるほど。そのまんまって感じだな。
さて。いきなり自分の設定を変えてしまうのには少し抵抗がある。このアプリが単なるイタズラとも限らないし、ここは1つ他人で実験してみるか。
ぼくは家を出ると、駅前の交差点に向った。
日曜の昼間だけあって、人間が波のように行ったり来たりしている。そいつらを見てぼくは思った。
ぼくにとってはどうでもいい人間達。ようするに、ただのMOB。自分でどうにかできないならNPCと一緒だ。いてもいなくてもいい。
ぼくは奴らとは違うんだ。そう、ぼくはこれから……主人公になる。ベリーイージーモードの人生を歩み、特別な才能をもって華やかな一生を終えてやる。
そのための実験体をどいつにするか。栄誉あるその役目は、駅前のベンチで美女といちゃつくリア充全開のイケメンだ。
ぼくはコンフィグアプリを起動するとイケメンに向け、スマホのカメラをかざした。
イケメンが画面に映ると、彼の人生の設定が表示される。
デフォルトは難易度、イージー。寿命、72/24。体感時間、ふつう。才能、女たらし。
この野郎、なかなか快適な人生歩んでるじゃないか。しかも女たらしかよ。まあいい、その設定少しいじらせてもらおう。
イケメンは美女とイチャコラしており、当分動く気配は無い。今の内だ。
とりあえず難易度をいじってやるか。よし、お前の人生はこれからベリーハードだ。せいぜい苦労しろ。
コンフィグアプリ内に表示された難易度を、ベリーハードにする。
「いた!?」
「ちょっと、どいてくれる!?」
急に女に押しのけられた。しかもそいつは、すごいスピードでイケメンに迫り、気持ちのいい音を立ててイケメンフェイスをグーで殴った。
殴られたイケメンはせっかくのかっこいい顔を台無しにして、鼻血ブーになっている。いいザマだ。
「美優!? どうして、ここに……」
「最低! 他に女がいたなんて……私だけを愛してるって言ってくれたのに!」
3人の男女の間に険悪な空気が立ち込めた。浮気発覚ってところか。修羅場だな。
「ちょっと、なによあんた。浩太さんとどういう関係? 私ね、この人の赤ちゃん妊娠してるの」
イチャコラしていた美女が女とイケメンの間に割って入り、おなかを愛しそうになでる。
その瞬間、女は鬼か悪魔かと見間違える程の形相で、バッグから包丁を取り出した。
「お、おい! やめろ。何考えてるんだ!」
「殺してやる! 浩太の子供を授かるのは、私だけなのよ。お前みたいなクズ女、殺してやる!」
「よせ!!」
イケメンは美女をかばって女に刺された。
おお、まさにベリーハード。でも寿命は72まであるし、たぶんあのイケメンは助かるんだろう。
ぼくは実験の第一段階を終了すると、その場を後にした。