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リンクする命

 猫も欲しいけど、彼氏も欲しい。


 真田先輩には付き合ってる人がいるらしいけれど……このケージなら……先輩を、私だけのモノにできる。


 確かにこのアプリに対する不信感はまだまだあるけれど……それと同じくらい、好奇心と欲望が私の中にあった。


 いつでも先輩に会えて、私だけを見てくれる。そう、私だけのペットに……なってくれる。


「ふ……ふふ」


 私は先輩の写真を読み込んだ。けど、なんだかエラーが出てしまい戸惑った。


「ペットは一匹までって? ケチだなあ……」


 ケージ内で飼えるペットは一匹までです。新しいペットを飼うためには現在のペットを処分しなければいけません。処分しますか? だってさ。


 処分って……要するに、データの削除でしょ? いいよ、また読み込めばいいんだし。


「はいはい、処分しますよっとー」


 私はためらいなくにゃん太を処分した。


 画面の中に愛らしいにゃん太の姿が現れると、まるで水風船みたいに体が膨れ上がって……真っ赤に弾けた。


「やだ。なにこれ、悪趣味すぎ……」


 ただのデータ削除のクセに、やけに凝っている。まるで本当ににゃん太を殺したみたいに思えてきて、気分が悪くなった。マジ最悪。


 でも、これで……先輩を私のペットにできる。


 先輩の写真を読み込むと名前をしょうちゃんと入力し、性格はべったり甘えん坊にした。


 『しばらくお待ちください、もうすぐあなたの所に可愛いペットが参ります』という文字が表示され、目の前に憧れの存在が現れた。


「先輩?」


 本物同然の先輩が、カメラの中にいる。


 けどそこはにゃん太と同じで、現実には見えていない。でも、先輩がいるであろう場所にそっと手をやると、柔らかいほっぺたに触れることができた。


「花音……」


 カメラの中で先輩は私を求めるように、近付いてきた。


「大好きだよ、花音。どこにもいかないで、オレのご主人様」


 性格がべったり甘えん坊だからか、先輩は私にぎゅっと抱き付いてきて、離れようとしない。


 夢でも見てるのかな、私。先輩が私に抱き付いてくるなんて、ありえないんだけど! しかもしかも、オレのご主人様って!


「ウソでも幻でも夢でもアプリでもなんでもいいや……これ、最高!!」


 我ながら現金なモノだ。さっきまで気味悪がっていたのに……今ではすっかりケージさまさま。ま、人間なんてそんなもんか。


「先輩、私も大好きです……ずっとずっと、いつまでも一緒にいてくださいね?」


 先輩の見えない体を抱き返す。たくましくって、大きな体だ。


「ちょっとー花音! いい加減ごはん食べちゃってよ! 片付かないんだから!」


「ちょ、お母さん。勝手に入ってこないでよ!」


 空気読めよ、バカ。と、心の中で毒づきながら部屋に無断侵入してくるお母さんに振り向く。


「あんた、1人で何やってんの?」


「え?」


 私は先輩の体を抱きしめていたのだけど、お母さんにもやっぱり先輩が見えていなかったみたいで……ようするに私は、自分で自分を抱きしめているようなポーズを取っていたのだった。


 これじゃ私、ただのナルシストだよ!


「遊んでないで、さっさと食べちゃってよ」


「ん、うん……」


 しょうがなく、開け放たれたドアからリビングへ行く事になった。ケージをオフにしなかったせいか、先輩が私の体に引っ付いたままだ。


 それからごはんを食べて、いったんケージをオフにしてお風呂に入って……寝る前にケージをオンにして先輩に見つめられながら、寝ようと思った。……けど。


 やっぱ無理! ドキドキしてそれどころじゃない。これじゃ寝れないよ~。


「先輩、また明日ね!」


 結局ケージをオフにして寝たのだった。そして起きてすぐ、ケージを起動して先輩を呼び出す。


「おはよう、先輩」


「おはよう、ご主人様」


 まだ私、寝てるんじゃないかなって本気で思う。先輩が私に甘えるように抱きついてくる。


 朝から先輩分を補給すると、私はケージをオフにして学校に向った。


 教室に到着すると、まりんが机に突っ伏して寝ていた。


 私はいつも通り元気にあいさつしてやろうと、肩を叩いた。


「おはよう、まりん!」


 そしてすぐに、自分の行動にシマッタと後悔する。


 顔を上げたまりんは……泣いていた。


「ちょ、どうしたの、まりん!?」


「こたろうが……こたろうが……死んじゃったの……」


「え?」


 こたろうは、まりんの飼っている猫の名前で……にゃん太のオリジナルだ。


「急に動かなくなって……こたろう、あんなに元気だったのに……どうしてだろう……」


 まりんは涙を拭こうともせず、そのまま机の上で泣き続けた。


 こたろう、死んじゃったんだ。


 まりん、かわいそう。


 そうだ。まりんに、にゃん太を貸してあげよう。これで慰めになるかどうか解らないけど……。


 私はスマホを取り出すと、ケージをオンにした。


 そして、先輩を処分する。


 またまた趣味の悪い演出で、先輩の体が真っ赤に弾けてなんともグロイ。


 けれどそれは一瞬で終り、私はこたろうの写真を読み込んだ。


「あれ?」


 エラー。読み込めません?


 何で? ……まあ、いいか。とにかく、まりんを慰めてあげないと。


「まりん、元気出しなよ。学校終わったら、カラオケでもいこ? 私、おごるからさ」


「うん。ありがとう……のんのん」


 まりんにハンカチを差し出すと、少し笑ってくれた。辛いだろうなあ、まりん。


 そして、私は自分の席に着きぼーっとしていると、急に廊下が慌しくなった。


 何だろう? そう思って廊下に飛び出すと、みんな階段に集まっている。


「ねえ? 何があったの」


 人垣を掻き分けてみると、そこには……倒れている男子生徒がいた。


 その人は、生徒会長で、先輩で、かっこよくて……。


「真田、先輩……?」


 先輩は、死んでいた。

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