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ペットが欲しい!

 私は犬より猫派。あの可愛らしい肉球と、ちょこんと突き出た耳、それに白いひげがたまらなく大好き。


 寝ている姿もとにかく愛らしい。前足を畳み込んで寝ている姿……えーと、いわゆる箱座り? あれを見たら、思わず抱きしめそうになる。


 友達の家で飼っている猫を触らせてもらうたびに、いいなあ。家も飼いたいなあ。なんて考えるのだけど、お母さんが猫アレルギーなため、飼うことができない。


 それにお母さん曰く、「うちはお父さんの食費で手一杯なの。そんなにぺットがほしいなら、花音がお父さんに鎖付けて、ペット代わりに散歩行きなさい」とか、ひどいことを言われた。


 お父さんかわいそう。でも確かにうちのお父さん、体型がブルドッグっぽいんだよね……寝てる姿はカバそっくりだし。


 ま、そんな理由があって我が家にペットはいないし、飼えないのだ。


 あ、ちなみに花音は私の名前。相田花音がフルネームの高2女子。猫も欲しいが彼氏も欲しい悩み多き17歳である。


 やっぱり欲しいなあ、猫ちゃん。


 私は1人っ子で、両親が共働きなため毎日1人で寂しかった。高校生になって少し大人になった今でも、やっぱり寂しいものは寂しい。


 猫飼いたい……もふもふしたい。肉球ぷにぷにしたい。一緒に寝たい。


 あー、もうっ。


 毎日毎日、猫をどうすれば飼えるのか考えていた。


 そんな時、私のスマホにインストールされたのはケージというアプリ。勝手にインストールされてちょっとびっくり。ウィルスとか入ってたり、しないよね?


 おっかなびっくりだったけれど、アプリの説明書を読んで、一気に興味を引かれた。


「どんな動物でも飼育できるアプリです。あなたの愛で、可愛いペットを育ててみよう? んー。確かに昔、ペットを育てるゲームとかあったけど……でも、結局ゲームだしなあ」


 どんなに高度なAIが搭載されても、どんなにゲームのグラフィックが向上しても、しょせんはゲーム。


 命の暖かさはそこにないし、猫の匂いも、毛並みの感触も、生物としての存在感がない。でもまあ、イタズラとかされないし、エサ代もかからないってメリットはあるんだけどね。


 でも欲しいなー、猫! この際何でもいいや。タダなんだし、このアプリ使っちゃえ!


「カメラで動物を撮影すれば、その動物をペットとして飼える……ほうほう」


 撮影するのは、何も生きた犬や猫でなければいけない、というわけでもないようで、ネットの写真を取り込んでもいいみたいだ。


 じゃあ、今までスマホに取り込んできた可愛い猫ちゃんの写真コレクションが使えるんだ。


 やったー、と1人ガッツポーズを取り、ケージアプリ内から写真を読み込む。


 友達が飼っているアメリカンショートヘアの猫ちゃんが、箱座りをしているやつ。こんな猫ちゃん、抱きしめてみたい。


「えーと、名前を入力するのか……んー。どうしよ。この子、男の子だから……そうだなー。にゃん太にしようっと」


 写真を読み込むと、次に名前の入力画面に来たので、私はにゃん太と入力する。


 ちょっと安易な気もするけど、猫っぽくて可愛いし、誰にも文句は言わせないもんね。


 次に現れたのは、性格設定の画面だった。べったり甘えん坊。クールで小生意気。オレ様気質。頼れるアニキ。おやぢ。の5つから選択するみたい。


 どれも個性的だなあ。ていうか、最後のおやぢがめっさ気になる! でもでもここはやっぱり、べったり甘えん坊でしょ。


 性格を設定し終わると、『しばらくお待ちください、もうすぐあなたの所に可愛いペットが参ります』という文字が表示され、スマホの画面は私の部屋を写していた。


 スマホのカメラと連動してるのかな。動かせばそれにあわせて画面の景色も変わるみたいだし。


「カモン猫ちゃん。いっぱいいっぱい、可愛がってあげるからねー」


 そんな独り言を口にしていると、足元に何か暖かい物が触れた。


「え、な、何?」


 慌てて足元にカメラを向けると、さっき写真で取り込んだのと瓜二つの猫ちゃんが、私の足に顔を擦り付けていた。


「にゃん太、なの?」


 すると、足元の猫ちゃんはまるで私の言葉に反応したみたいに顔を上げ、にゃーんと鳴いた。


 やば。マジ可愛い。


 鼻をひくつかせて、瞳が潤んでる。白いヒゲとちょこんとくっ付いた猫の耳は柔らかそう。


 愛嬌たっぷりのビジュアルに、私のハートは撃ち貫かれてしまった。


「にゃん太! おいで!」


 またまたにゃーんと鳴いて、にゃん太は私の胸元までジャンプしてきた。


「わ!? と、とと」


 にゃん太を受け止めた拍子にスマホを落としてしまう私。


「え? にゃん太?」


 けれど、そんなことよりも驚くべくは……どこにもにゃん太の姿がない、っていうこと。


 どーなってるの、これ?


 ずっしりと猫の重みと命の暖かさを感じることができるのに……まるで、透明な猫を抱いているみたいに、姿が見えない。


 にゃーん。と、胸元から声がする。それと同時に、にゃん太がさらに昇ってくる感触があって、私のほっぺたに何かが擦り付けられた。たぶんこれ、にゃん太の顔だ。


「にゃん太……ここにいるの?」


 奇妙だ。でも、確かににゃん太はここにいて、私にじゃれている。……確かめなきゃ。


 私はスマホを拾って、胸元をカメラで写してみた。すると、そこにはしっかりとにゃん太が映っている。


 どういうこと?


 もしかして、にゃん太はカメラにしか映らないホラーな存在ってこと?


 私の頭が混乱し始めたとき、スマホの着メロがワンワン鳴いた。画面を見ればクラスメイトの佐藤まりんだ。


『まいどー』


「はいはい、まいどー」


 まいどーはまりんの口ぐせみたいなものだ。ちなみに、にゃん太のオリジナルともいうべき猫ちゃんを飼っている子。にゃん太の写真は、まりんの家で撮ったものである。


『宿題おしえろー』


「私もわかりませんー」


『知ってたよー。のんのんの学力で今日の宿題が解けるとは思ってませんからー。ま、それは置いといてさ』


 のんのんは私のあだ名。さらっと失礼なことを口走りやがった我が最愛の友人は、あーだこーだと、どうでもいいおしゃべりに私を誘おうとする。


「あ、ごめん。今大事な用があって」


 にゃん太のことを調べないといけない。まりんとおしゃべりは、明日教室でいくらでもできるんだから、今はいいや。


『最近、奏が付き合い悪いんだけどさ、知ってる? 奏に彼氏がいるって話。しかも相手の男がさあ、うちのクラスの桜本忠道! デブ専だっけ、あいつ?』


 去年同じクラスだった奏と、うちのクラスの男子が付き合っている……実に興味深い!


 むー、奏めー。羨ましい。彼氏ゲットしちゃうなんてなー。私も欲しいなあ、彼氏。


「詳しく聞かせてください、まりんさん」


 それから3時間くらいして、まだまだ話足りないけどお腹空いたからってことで、お開きになった。


『じゃねー、のんのん』


「またね、まりん」


 通話を終了して、今まで自分が何をやっていたのかをふと思い出す。


 あ。そうだにゃん太! にゃん太、どこ?


「おーい、にゃん太ー。出ておいでー」


 すっかり電話に夢中で、にゃん太のことを忘れていた。まりんの話術は恐ろしい。


 そういえば……途中からにゃん太の感触が無くなっていたけど……私から飛び下りて離れたのかな?


 スマホを手に取り、ケージを起動する。どうやら、通話中にケージはオフになっていたみたいだ。


「ひゃ!?」


 びっくりした。だって、いきなり胸がずっしりした重さと、心地よい暖かさに包まれたから。


 にゃーん。と、甘えた鳴き声がして、クンクンと私のほっぺたに鼻を擦り付けてくる。にゃん太は、再びそこに現れたのだ。


 まりんの電話に出た直後と同じ場所に再び現れた……そのときケージはオフになっていた。ケージがオフのときはにゃん太の姿がなかった。


「もしかして?」


 ケージをオフにすると同時、重さと暖かさが消えた。そしてすぐに起動してオンにすると、再びにゃん太の甘えた鳴き声が聞こえてくる。


「何なのこれ……」


 やっぱりそうだ。ケージ起動中でないと、にゃん太はこの世に存在できない。ていうかこんなアプリ、本当に存在するの?


 1つ疑問が浮かび上がると、私の中でそれは大きくなっていった。


 可愛い猫が私の目の前に現れた。ただそれだけで舞い上がっていたけど……こんなアプリ、誰が作ったっていうの?


 視界に映らずカメラにのみ姿を現す猫。実体を伴いながらも無色透明の体。


 今の今まで気にしなかったことが、ふとしたことがきっかけで180度認識を改めさせられる。


 怖い。気持ち悪い。やだ。なんか、やだ。


 そもそもなんでこのアプリ、勝手にインストールされてんの?


 さっきまで宝物のように思っていたアプリは、ただ不気味なモノへと一変する。


 そんな時再びにゃーん、と甘えた鳴き声がした。


「来ないで、気持ち悪い!」


 私は急に恐ろしくなって、にゃん太の首をつかむと、拒絶するように振り払った。


 そしてすぐにケージをオフにして、スマホをベッドの上に放り投げる。


『花音。ごはんできたわよ。早くいらっしゃい』


「はーい」


 ドアの向こうからお母さんの声がしたので、返事をしておく。そっか、もう晩ご飯の時間か……。


 とりあえずご飯でも食べて気分をまぎらわせようと思い、リビングへ向う。


「あ、お父さん帰ってたの? お帰りなさい」


「ああ、ただいま」


 リビングにはすでにお父さんがいて、テレビを見ながらごはんをかきこんでいた。


「おかわり」


「はいはい」


 食欲旺盛なお父さんは、すぐにそのおかわりも平らげてしまう。


 本当に食費がかかってるんだなあ。確かに、家がペットなんか飼ってる余裕はなさそうね。


 お父さんに鎖つないでペットにしろっていうお母さんの言葉も少しは解る気が――。


「あ」


 その時、私の中で素晴らしいアイデアが閃いた。


「どうしたの? 花音」


「私、宿題まだ終わってなかった。集中力切らしちゃいけないから、ごはんあとでいいよ!」


 急いで部屋へ戻ると、さっそくケージを起動する。


 色んな動物を飼育することができるアプリ、ケージ。犬でも猫でも何でも飼えるなら……。


 私は保存した写真を見つけると、興奮を隠し切れずにハアハアと、荒い息を吐いた。


 そこには、3年生の先輩で生徒会長。学校一のイケメン、真田翔太先輩が映っている。


 そうだ、どんな動物でも飼育できるなら……人間だって、動物だもんね。

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