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素晴らしきグルメライフ

 イーターを手に入れて、一月が経った。僕のグルメライフは、今までになく充実している。


 起床と同時にイーターでコーラを飲み、目覚まし代わりにたまごサンドとツナサンドを食べる。


 イーターの便利なところは、カメラで撮影した写真以外も使用できる点だ。ネットで画像検索して、それをスマホに保存しておけば、イーターアプリ内で読み込むことができる。


 これの利点は、どんなメニューでも。というだけに止まらない。写真さえあればタダで飲み食いできるというのもかなり大きい。


 いつでもどこでも、見るだけで無料で食べることができる。授業中でも、教科書の隙間に忍び込ませて早弁が可能なのだ。


 世界史の授業中に、フランス料理のフルコースだって食べれてしまう。昨日の日本史では、牛鍋と和菓子を平らげた。


 ただ、注意しなければいけないのは、あくまで食べた気になるだけであって、本当に食べたわけでは無いこと。


 だから、必要最低限の栄養は摂っておかなければならない。その点は普段、母親が作る食事でまかなえるから問題は無い。


「忠道、どうしたの? 最近ごはんお代わりしてないじゃない?」


 朝食に出されたごはんを食べ終わると、母親が奇妙な物を見る目で僕を見た。


 うちの母親というのもまた、食べることが最大の幸せというタイプで、最大の敵は体重計という典型的な人だ。むろん、横に大きく縦に小さい。


「痩せようと思ってね。母さん、サラダ作ってよ」


「え!? サラダって、あのサラダ!? 肉しか食べなかったあんたが……サラダだなんて……いよいよ世界は最後の日を迎えるのかしら……」


 ひどい言われようだ。まあ、母親の言葉はともかく、実際の僕のカロリー摂取量は著しく落ちていた。


 おかげで体重も絶賛急降下中。


「あんた、最近痩せたんじゃない? ズボンがぶかぶかになってるじゃない」


「あ、ほんとだ」


 体重は10キロ以上減っている。間食をやめるだけで、ここまで落ちるとは思わなかった。


 おかげで、ベルトの穴がどんどん引き締まって、突き出ていたお腹もへこんでいって体重計に乗るのが楽しみでしょうがない。痩せるって素晴らしいな。


「じゃ、そろそろ学校行って来るよ」


「行ってらっしゃい。ああ、そうだ。今日、給料日だからすき焼きよ。いっぱいお腹減らして帰ってきなさい」


「え、すき焼き!? わかった。じゃあ、いってきまーす」


 今日の晩ご飯を想像しただけで、元気が出る。


 僕は家を出ると、嬉しくなって駅まで全力疾走した。


 体が羽根のように軽い。どすどすと地面をならすように走っていたころが懐かしい。もう誰にもブルドーザーだなんて、言わせないぞ。


「おはよう、桜本くん」


 痩せ始めてから、学校で見知らぬ女子に声をかけられるようになった。今も廊下で隣のクラスの子にあいさつされて、少し戸惑ってしまう。


「あ、おはよう」


「桜本くーん、おはよー!」


「おはよう」


 クラスの子にもあいさつを返すと、自分の席に着きスマホを見る。


 当然、イーターだ。腹が減っては授業は受けれぬ。とりあえずピザを食べると、僕は幸せになった。


「ねえねえ、最近桜本くん、なんかかっこよくない?」


 そのとき、廊下のほうで声がした。


「だよねー。私、けっこう好みかも。告ちゃおうかなー」


「えー! マジ?」


 どうやら、女子の会話で僕の話題が出ているらしい。今の僕、女の子にもてるみたいだ。


 嬉しいな。それもこれも、全てこのアプリのおかげだ。


 そして、授業が終わって放課後。


 僕は屋上にいた。


「あの、桜本くん。前から、気になってたの、君のこと」


「え?」


 目の前には、今朝僕にあいさつしてきた隣のクラスの女子がいる。確か名前は、春川奏。


 こういっては失礼だけど、飛びぬけて可愛い子というわけじゃないけど、控えめで家庭的な暖かさを感じる今時にしては珍しい子だ。


「付き合って……欲しいな」


「付き、合う……?」


「桜本くんの、彼女になりたいの……ダメ?」


 人生で初めてだった。初めて、異性に好意を持たれた。


 信じられない。僕なんかの何がいいんだ? そうか。きっと、ドッキリだ。だまされないぞ。


「冗談、だよね? 僕なんかと付き合うなんて……」


「冗談なんかじゃないよ!」


「僕なんか君には相応しくないよ。もっとかっこよくて、やせてる人がいるじゃないか」


 そう言ったとき、彼女は不意に近付いて、僕の手を柔らかく、暖かい手で握った。そして上目遣いで見てくる。


「桜本くんがいいの。私、桜本くん以外なんて、考えられないよ……私なんかじゃ、ダメかな?」


 僕に彼女を拒む理由は無い。一生彼女なんてできないと思っていた僕が、初めて女の子に告白された。


「僕からも、お願いするよ。僕の、彼女になってください」


 僕は、彼女を……奏を受け入れた。

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