僕はそれでも戦うと決めた。妹の、セレナの為に!
本当に、存在したのか超能力……。けれど、超能力だろうと念だろうと、忍術だろうと、僕の魔法には通用しない!
「リフレクション!」
蒼い炎が男の手から放たれ、僕を包み込もうとするが、反射してやった。
「自分の炎に焼かれて、燃えろ! 僕なら、妹で萌えるけどね! 萌え死ねるけどね!」
だが、グラサンはニヤリと笑うと、その姿を蜃気楼のように消した。
「え?」
消えた? 一体、どこへ?
「テレポート、だよ」
「しま――」
気付いたときにはすでに遅い。背後から強烈な衝撃を受け、僕の体はグラウンドをラグビーボールのように転がった。
パイロキネシスに、テレポート。今までの奴らとは段違いの戦闘力だ。
「オレの能力は、まだまだ実験段階でな。能力発動には限界がある。せいぜい、五分間ってとこか。カップラーメン作ってもまだお釣りがくる時間だぜ?」
「ふざ……けるな!!」
僕は、勢いよく立ち上がった。
「ほう? まだ動くか。タフだな」
「お前は……間違ってる!」
「あん? 説教か?」
「ノンフライ麺なら、5分かかるのだってある! カップラーメンと萌えをナメるな!!」
僕の怒りは頂点に来ていた。
五分も待たされるあの苦痛! 思い出しただけで腹が立つ!
「エアライド!」
一気にカタを付けてやる!
僕の体が、軽くなり、音速の域に達する――あれ?
「エアライド! エアライド!」
何度やっても、エアライドが発動しない。どうしたんだ?
「あ。スマホの電池……切れてる!?」
しまった。なんてことだ。僕の人生終了のお知らせかつ、死亡フラグ!?
「なにやってんだ。こねーなら、とりあえず燃えろや」
蒼い炎が竜のように僕を食らおうと迫る。
かわそうとしたのだが、足をもつれさせてしまい、その場で盛大な尻餅を付き、頭上を炎が駆けて行った。
ふう。なんとか、焼き豚にならずにすんだ。って、自虐的だな、僕。
「おいおい。つまらねーな、ああ? 楽しいパーティーは、これからだろうが!」
「うあ!?」
目の前にグラサンが現れると、僕の腹を思い切り蹴り上げた。
痛い。いたいたいいたいたいたいたいたい。イタイ!
「げぶっ!?」
胃が熱い。何かが逆流してきそうだ。
「おら! おら!」
今度は左腕を踏みつけられた。……二度も。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
断言できる。折れた。
骨折なんて初めてだけど、左手が熱く感覚が無い。
もう、もう嫌だ。謝ろう。僕なんて、スマホがないと何にもできないダメ人間じゃないか!
謝れば、きっと……許してくれる。
「ゆ、ゆるじてくだしゃい」
涙声になった僕の情けない声が、グラウンドに響く。
「あん?」
「ゆるし――て!?」
顔が爆発したかと思った。
けれどそれは男の靴底で、僕は次の瞬間鼻血を噴出しながら、仰向けに倒れたのだ。
死ぬ。しぬしぬしぬしぬしぬ。シヌ!
「助けて。セレナ、セレナ、セレナああああああ! 僕を助けてよ。ねえ! ねえ! 僕が死んでもいいの!?」
しかし、セレナは何の反応もしない。
「がっかりだよ、お前。お前となら、化け物同士仲良くやれると思ったのによ……もういい、死ねや」
顔に風圧を感じた。何かが振り下ろされる、そんな感じ。
ああ、僕は死ぬんだ。なんてかっこ悪いヤツなんだ、僕は。
結局、僕は借り物の力を手に入れて粋がってただけの、ダサいヤツだったんだ……。
これが、当然の結果か。
「頑張れ、お兄ちゃーーーーん!」
「!?」
気が付くと、僕はグラサンの蹴りを受け止めていた。
「なに?」
「頑張れ、お兄ちゃん!」
それは、セレナの応援だった。
その言葉を聞いたとき、僕の中で何かが弾けた。
「うああああああ!!」
受け止めた蹴り。すなわちグラサンの足をつかむと、渾身の力で投げ飛ばす。
骨折した左手が悲鳴のように激痛を訴えるけど、ガマンできる。しなきゃ。
だって、僕は……今この瞬間、金髪碧眼美少女のお兄ちゃんになったのだから。
「な、何だと!?」
相変らず吐き気がするけど、それでも僕は引かない、こびない、省みない!
「ふん。くたばりぞこないが。これで、燃え死ね!」
パイロキネシスがくる。けれど、それが、それがどうしたぁ!!
「オタクを、ナメるなーーーー!!」
全力で駆けた。大地を踏み潰すように、全力で。
「うおおおおおおおお!!」
人間は、ちょっとしたきっかけで変わることができる。
確かに僕は弱い人間だった。
強い力を手に入れて、浮かれてた。
けど、僕はやっぱり弱いままだった!
それでも、弱い僕でも、セレナを守りたいと思った。
セレナを妹にして、お風呂をのぞいたり、毎朝起こしてもらったり、弁当作ってもらいたいから!
僕は、変わる!
「受けろおオオオオ!!」
殺すのは、グラサンじゃない。弱かった……過去の僕だ。
右手を思い切り振りかざした。
そして、振りぬこうとして。
「わあ!?」
……ずっこけた。
「な、何だと!?」
ずっこけた勢いで僕はヘッドスライングして、グラサンの股間に右手が直撃する。
「うぎゃああああ!!」
この世の物とは思えない断末魔が、僕の耳を貫く。
正直、かなり同情する。
「あ、その。ごめん……」
なんてかっこ悪い勝利だ。
グラサンは泣いてわめくと、気絶した。
「お兄ちゃん!! 大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ、セレナ……ああ、無事で……よかった」
「お兄ちゃん……私、髪型、ツインテールにするね。それで、いっぱいいっぱいイイコトしてあげる」
「え!? 本当に?」
「これからいっぱいいっぱい、甘えて、あ・げ・る」
ここが天国か。
あなたが女神か。
セレナは僕に抱きつくと、頬を擦り付けてきてべったりと甘えてきた。
もう、死にそう。
「は、はは……オレに勝ったところで、貴様らに未来は……無いぞ」
気が付くと、グラサンが股間を押さえながら立ち上がっていた。
うわ、ラスボスかっこ悪すぎ!
「エフラムには上位組織のセネルが存在する……! 今頃セネルの連中が動き出していることだろう。セネルの連中にかかれば、お前らなど……お前らなど……ふははは!」
「何がこようと、セレナは僕が守る。たとえ、魔法が使えなくても、僕は……戦う!」
「そうか。まあ、せいぜい頑張るんだな。オレは一足先に地獄へ行かせてもらうぜ。……あばよ」
それが、グラサンの最後の言葉になった。
ヤツは自分の額に手を当てると、蒼い炎に抱かれて一瞬で灰と化し、消えて行った。
こうして、一連の事件は終息したのだが、新たな敵、セネルがその魔の手を僕達に向けるのは時間の問題だろう。
けれど。
僕は戦い続ける。魔法の力が無くても。
「あ、そういえばさ」
「何、お兄ちゃん?」
学校から家までの帰宅途中、僕はずっと気になっていたことを、セレナに聞いてみた。
「セレナって年いくつ? 見たところ、14,5歳?」
「あとちょっとで30歳になるよ、お兄ちゃん」
――BBAじゃん。
~『マジック』 終~




