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魔法使いVS超能力開発実験成功体第一号

 時速何キロのスピードが出ていたのかは解らない。ただ、風を切って走るという事がこれだけ楽しいとは思わなかった。


 元々僕は体力も無くて、走るのが大の苦手だ。でも、今は違う。


 いくら走っても疲れないし、人間の速度をはるかに越えたそのスピードは、たまらなく気持ちがいい。景色が後にすっとんでいくのだ。


 自分よりも遅い車を追い抜くのは爽快で、調子に乗って高速を走っているトラックの運ちゃんにあいさつしたら、事故りかけたので焦った。


 とにかく今は、エフラムのアジトへ急がなければ。


 アジトは隣県の山奥だった。どうやら研究所も兼ねているらしく、地下数十階に及ぶ施設には、構成員の他に研究者や実験者もいるとか。


 奴らのボスも今そこにいるらしく、エフラムを壊滅させるにはいい機会だった。


「さて、どうするかな」


 到着して、地下施設の入り口を見つけると、僕は物陰から様子を探った。


 ライフルを構えた警備の兵が数人。物々しい雰囲気だ。


 ただ単に壊滅させるだけなら、爆発魔法でも使って施設を中の人間ごとふっ飛ばしてしまえば話は早いが、人殺しにはなりたくない。


 なら、どうすべきか。


 ボスを殺るのが確実だが、やっぱり殺したくない。けれども、生かしておけばまたいずれ組織を再編成して復活してくるとも限らない。


 よし。じゃあ、こうするか。


「ムーブ!」


 僕はスマホのマイクに向って叫んだ。


 一瞬で目の前の警備兵が消えて静かになる。


 移動させたのだ。ここではない、別の場所に。構成員と実験者も含め、近くのパーキングエリアに瞬間移動させた。


 ただ1人、ボスを除いて。


「な、何だ? 何が起こったのだ!?」


 ボスのみを、入り口に移動させた。


「おい、誰かおらぬのか!?」


 そのボスは、高級そうなスーツに身を包み、イスに腰掛けたままグラスを傾けている。


 ナイスミドル。ヒゲの似合う中年紳士だ。


 こいつが、エフラムのボス……。


「あんた、エフラムのボスだな?」


「何だ、貴様?」


 僕は物陰から出ると、ボスに近付いた。


「あんたには消えてもらう」


「貴様、どこぞの組織の殺し屋か? ふ。やめておいたほうがいいぞ。わしを殺せば、この心臓に埋め込まれた爆弾が爆発する。お前も一緒にあの世に行きたいのか?」


「まさか」


「ならば、ここで死ねい!」


 ボスが拳銃を向けたので、僕はすかさずマイクに向けて叫んだ。


「チェンジ!」


「ぬ? ぬおおお? な、なんだこれは」


 ボスは、渋いオヤジからみるみる可憐な幼女へと姿を変えていく。


「な、何だこれは? わ、わしの体が……」


 幼女になったボスは、自分の体をあちこちを触っている。ジジイ言葉の幼女というのもまた、ある層にはウケそうだが。


「な、無い。わしの……わしのあれがないぞ!」


 股間をまさぐり、驚愕の表情で前かがみになる幼女ボス。


「その姿で、秋葉原を永遠にさまよえ! ムーブ!」


 幼女ボスは、一瞬で視界から消えた。


 これでいい。組織の象徴たる指導者が消えれば、奴らも大人しくなるだろう。


 なんなら、組織の幹部全員を幼女に変えてしまってもいい。


「バーストロード!」


 スマホに向って叫ぶ。


 爆発の嵐が、破壊の道しるべとなって、地下を駆けていく。施設は跡形も無く爆発して、ガラクタになった。


 これで、エフラムは壊滅だ。


 ふ。ふふふ。


 さて、僕も家に帰るか。


「ムーブ!」


 自宅の部屋をイメージし、マイクに叫ぶ。


 一瞬で僕は自分の部屋に移動する。


「セレナ! 僕、エフラムを潰したよ。これでもう怖いものは――あれ?」


 一瞬で異常を悟った。


 部屋が荒らされている。カーテンがちぎれ、ゴミ箱がひっくり返され、お気に入りのフィギュアが壊れていた。


「なんだ、これ」


 荒れ果てた室内に残されていたのは、一枚のメモ用紙。そこには……。


「娘は預かった。返して欲しければ、お前の通う高校のグラウンドまで一人で来い。こなければ、娘は殺す……だって?」


 セレナが、さらわれた?


 助けないと。セレナは……僕の妹なのだ。


「待っていろ、セレナ。お兄ちゃんが助けてやる」


 メモ用紙を握りつぶすと、再びムーブを使って学校の裏庭に出た。


 バカ正直にグラウンドに出れば、どんなワナが待っているかわからない。


 裏庭から僕は音をたてずにグラウンドに近付いた。


 すると、そこには路地裏でコテンパンにのしてやったグラサンの男がいた。セレナも一緒だ。


 たった一人で? バカじゃないか?


 この、閃光の貴公子服部浩太にかなうわけが無いのに。


「待たせたな、三下。セレナを返してもらうぞ」


「きやがったか、閃光の貴公子……!」


「浩太さん!」


 グラサンはニヤリと笑うと、一歩前に出た。


「さきほど、オレの部下から連絡があった。謎の攻撃を受けてアジトが壊滅したと。さらに、ボスの消息も不明だと、な。これでエフラムはもう終わりだ。まったく、笑うしかないぜ」


「そうか、ちなみにそれやったの僕だよ」


「……だろうな。なあ、お前。オレと組まねえか?」


「は?」


 グラサンはにやけると、両手を広げて一歩出た。


「お前の力があれば、世界を手に入れることも不可能じゃないぜー? オレと二人で組めば、世界を半分お前にやるよ。どうだ? 悪くねーだろ?」


「だが断る」


「そうか。残念だぜ。閃光の貴公子!!」


 グラサンが手を僕に向けてかざした。


 何だ? 拳銃、じゃないのか?


「死ね!」


 燃えていた。僕の体が、蒼く、熱く。


「わ、わああああああ!? キュ、キュア!!」


 混乱しつつも、キュアで炎を消す。一体、何なんだ、今の。


「超能力開発実験成功体第一号。それが、オレの肩書きでもある」


「超能力……」


「パイロキネシスってヤツだ。オレの蒼い炎に抱かれて、燃え死にな!」

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