中二病な僕が、謎の機関と戦いを繰り広げる展開に
……とはいっても、謎の機関なんて組織は実在しないし、僕は一人っ子で妹もいない上に、幼馴染もいなくて、結局やることといったら、街に巣くうDQNを退治することくらいだった。
空から女の子が降ってくる気配も無い。
第三次世界大戦が起こる気配も無い。
聖杯がこの街に現れた気配も無い。
――ヒマだ。
自分の力を持て余しているころ、路地裏に入って何か事件に巻き込まれないかと考えていたら、それは起こった。
「助けてください!」
「え?」
金髪碧眼の美少女が、僕にしがみついて助けを求めてきた。
「あ、あの?」
「私、怖い人に追われてるんです! お願い、助けて! 助けてくれたら……あなたが望むこと、なんでもしますから!」
「なんでも?」
これは助けないと。なんでもっていったら、『なんでも』だよね? あんなことも、こんなことも、だよね?
「お前は俺が守る」
僕は、爽やかに笑ってみた。一度言ってみたかったんだ、このセリフ。
「あ、ありがとう!」
美少女が僕の背中に隠れてすぐのことだった。
全身黒ずくめの男達がやってきて、僕を取り囲む。
「その娘を返してもらおうか」
「……嫌だと言ったら?」
「我々は、穏便にことを済ませたい。君もまだ学生だろう? これからの人生は長い。それなのに、こんな所で死にたくは……ないだろ?」
グラサンをかけた偉そうな男が一歩前に出て、僕に拳銃を向けた。
エアガンじゃない。どこからどう見ても……本物だ。
けれど、僕は魔法使い。拳銃如きにやられたりしない。
「だが断る」
「消せ」
グラサンがそう言うと、男達は拳銃を取り出して、一斉に僕へ向けた。
すでにマジックは起動させている。
「リフレクション!」
「撃て」
いくつもの銃口が一斉に火を吹いた。鉛弾が僕の心臓目掛けて飛んでくる。
黒服の男達は笑っている。
僕がこれで死ぬとでも思っているのだろう。
だが、銃弾は僕の体に命中した瞬間、その軌道を正反対にして飛んで行った。
「な、なに!?」
あらゆる攻撃を跳ね返すバリアを周囲に展開したんだ。核兵器だって、防いでみせる。
銃弾は男達に反射され、それぞれ足や腕に命中した。
気分は学園都市ナンバーワンの超能力者だ。今度コスプレでもしてみようかな。
「化け物か!? 撤退だ、撤退しろ!」
黒ずくめの男達は一目散に逃げ出そうとする。だが、ここで逃がすつもりは無い。
「逃がすかよ! 楽しいパーティーは、これからだろうが!」
ノリノリで中二病なセリフを言う。
僕は近くに落ちていた空き缶を拾い、スマホのマイクに向けて叫んだ。
「マグネティック!」
電磁力で加速された空き缶が、光りをまとって打ち出される。空き缶は命中することなく、ビルの谷間を駆けて行った。
気分は学園都市ナンバースリーの超能力者だ。今度コスプレでも……って、誰得だよ。
「ひ!?」
サングラスの男はその場に座り込んで、なにやら黄色い池を作っていた。
「おい、お前。この閃光の貴公子、服部浩太様にケンカ売るたあ、いい度胸だ」
「せ、閃光の貴公子だと? 我々の組織、『エフラム』に敵対するつもりか、貴様!」
「エフラム? え、なにそれ?」
もしかして、待ちに待った謎の機関?
「詳しく教えろ。エフラムとは、何だ?」
「教えるとでも思っているのか?」
男はニヤリと笑うと、ポケットから何かを取り出した。
「うわ!?」
眩しい光が辺りを照らし、一瞬で視界が奪われた。
――閃光弾か何かか。
「一体、何だったんだ……エフラムって」
「超能力を研究する秘密組織です」
そう答えたのは、さっきの美少女だった。
「私、実験所を抜け出して彼らに追われていたんです。助けてくださって、ありがとうございました」
「いや、いいんだよ。ところでさ、僕のいうこと何でも聞いてくれるんだよね?」
「は、はい。なんなりと」
「じゃあさ」
僕は、一番のお願いを口にした。
「僕のこと、お兄ちゃんって呼んでくれない?」




