魔法使いになった僕が夢をかなえようとした結果
「ヒーリング!」
僕は自分の部屋で、スマホのマイクに向ってそう叫んだ。
するとどうだろう、DQNに受けたダメージが、みるみると治っていくではないか。
口の中の切れた部分もあっという間に元通りになって快適だ。お腹の痛みもすっかり消えた。
「すごい。回復魔法もばっちりだ」
マジックの実験を兼ねて、自分の傷を癒してみた。期待通りの効果を得られて大満足している。
「僕は、本当に魔法使いになったのか」
これなら、僕の夢が叶う。
僕の夢。それは……。
「全学年女子生徒妹化計画」
まだ試していないけど、幻惑の魔法とかで学校の女子全員を僕の支配下に置き、妹にする。
1年生の後輩はもちろん、2年の同級生も、3年生の先輩も、みんなが僕の愛しい妹になる。
素晴らしい。素晴らしすぎるぞ。
でも、さすがにそんな広範囲かつ大人数を操るのは無理かもしれない。
それなら、僕のクラスの女子だけでもいい。うちのクラスは、可愛い子がそろっているしね。
相良天音は特に外せない。クラスのアイドルといってもいい。
葉山美月はメガネっ娘要員としてアリだ。
なにより……真壁るる。
あの小動物みたいに可愛らしい容姿に、ツインテールが似合いそう。
よし。まずは身近にいる女を使って、幻惑の魔法を実証してみよう。
僕はさっそく家の外に出て、自転車にまたがった女子中学生を発見した。
いいなあ、あのサドル。僕もサドルになりたい。
って、違うだろ僕。今はあの子に魔法をかけなきゃ。
「そこの君!」
「はあ?」
女子中学生を無理矢理止めて、接近する。
そして、スマホのマイクに向けて叫んだ。
「コンフューズ!」
えっと、これでいいよな? コンフューズって、混乱って意味でしょ?
一瞬、女子中学生の体がビクンと飛び跳ねた。そして、白目を向いて僕を押し倒してくる。
今は僕のお腹がサドル状態だ。ああ、生きててよかった。
「シャアアアアアアアアアアアアアアア」
「う、うあ!?」
女子中学生は僕の首を絞めてきた。すごい、力だ。こういうプレイは僕、望んでない。
コンフューズはいけなかったのか?
じゃ、じゃあ。
「チ、チャーム!」
なんとか声を絞り出すと、女子中学生は首を絞めるのをやめて、僕から離れてくれた。
ふう。危なかった。もうちょっとで錯乱状態の彼女に殺されるところだった。
「ふふ。これで君はもう、僕の虜だよ。僕のこと好きになったでしょ? 好きになったなら、僕のことをお兄ちゃんと呼び――」
返事よりも早く、僕は押し倒された。
しまった? もしかして、まだ錯乱状態!?
「欲しいの。ねえ、私に赤ちゃん、ちょうだい?」
「はあ!?」
女子中学生は恍惚の笑みを浮かべながら、そんな事を言った。
「ちょ、ちょっと待って! 僕は妹が欲しいんだ! そんな過激なところまで、求めてないよ!」
「そう、赤ちゃんは女の子がいいのね」
僕の声がまるで届いていないようだ。それどころか、乱暴な手付きで僕のズボンを脱がせようとしている。
「ちょ! ダメ! やめてー!」
だから、僕はこんなプレイを望んでいない! ていうか、チャームの効力おかしすぎる。
「も、元に戻れ! えーと。異常状態を回復する……キュア!」
女子中学生にズボンを剥ぎ取られた僕は、赤面しながらそう叫んだ。
「あれ? 私、何してたんだっけ?」
僕のズボンを片手に、しばらく呆然とする女子中学生。
「い、いやああああ!? あ、あんたなんで脱いでるのよ、この変態!!」
「き、君が僕を無理矢理脱がせたんじゃないか! こんなの初めてだよ! 女の子に脱がされるだなんて!」
「うるさい、死ね!」
僕が精一杯抗議してると、ズボンを放り投げられて、さらに腹パンされた。その瞬間、やはり縞パンならときめくのにな、と考えていた。
「ちくしょう……チャームは使えないぞ、こうなれば全学年女子生徒妹化計画は、諦めるか」
ならば。もう一つの計画を進めるのみ。
それは。
「最強の魔術師は俺だ計画」
軍隊と戦って勝利する俺かっけー。
異能力バトルを制する俺かっけー。
人知れず街の平和を守る俺かっけー。
ふふ。これだよ、これ。
ようやく僕が、物語の主人公になるときがきたのだ。
もちろん、クラスメイトには僕が魔法使いである事は黙っている。隠れチートってあこがれるじゃない。
謎の機関に狙われる美少女を助け出し、戦いに巻き込まれていく……そして、激闘の末に美少女と結ばれ、それを妹が嫉妬して、幼馴染が猛列アピールしてきて、僕は鈍感にもそれに気付かなくて。クラスの委員長にも好意を持たれてて……僕のハーレムが完成する、なんてね。
中二病とハレームは、男の夢でしょ。