僕は正義の魔法使い
他人と視線を合わせるのが、怖い。
すれ違った人々が、僕の事をバカにしてるんじゃないかって、思う。
現在進行形の被害妄想。終わらない疑問。見えない何かに怯える日々。
だから、まともに前を向くことができず、いつもうつむいて歩いている。自分に自信が、ないから。他人が、怖いから。
そんな自分が嫌で、だけど前を向く勇気も無くて、まともにあいさつすらできないでいる。
三次元は怖い。だから、二次元の世界に逃げ込んで、没頭した。
ゲーム、アニメ、漫画、ネット、ラノベ。僕にとってなくてはならない世界。
こんな僕に誰がした? きっと、親の責任だ。一人息子を溺愛するあまり、叱ることをしなかった、両親が悪い。
僕のせいじゃない。僕が一人ぼっちなのは、周りのせいだ。
そう、僕は悪くない。悪く、ない。
学校の帰り道、僕は一人歩いていた。公園の近くを通りかかって、ふと足を止める。
そういえば、ここ。真下さんが交通事故で亡くなった公園だ。
今日、真下さんが事故で亡くなったらしい。担任からホームルームで聞いた。
転校して一月も経っていないのに……かわいそうだな。
ん?
その時、小学生……いや、中学生かな。やけに大人びた可愛い女の子が、僕に携帯のカメラを向けていた。
何で、僕を? 僕なんか撮って、どうするつもりだ? 僕の写真を眺めていたいとか?
まさか。たぶん、何かのネタで友達に見せるのだろう。
『昨日こんなキモい奴みたんだけどさー』みたいに。それか、僕の写真をネットにでもアップしていじめるつもりなんだ。
僕は怖くなって、その場から逃げ出した。三次元の女は怖い。やっぱり、女の子は二次元に限るよ。
二次元といえば……今日、劇場版魔法少女リリカルゆうかのリリース日だっけ。
僕は合計7回観に行って、7回とも泣いた。ゆうかちゃんに劇場だけでなく、自宅でも会えるなら、迷い無く購入だな。
僕はDVDを買いに、近くのゲームショップに立ち寄った。
「いらっしゃいませー」
ビクリとする。いきなり声を掛けてくる店員。
やめて欲しい。僕はただ、静かにDVDを物色したいだけなのに。
さっそく目当てのものを発見し、レジにならぶ。
女性店員が営業スマイルでDVDを梱包し、手渡してくれた。
こいつ……今、絶対きもいって思ったな。僕には解る。
ちくしょう。僕に……ゆうかちゃんみたいな、魔法の力があればいいのに。
けれど、店を出ればそんな気持ちはどこかへ吹き飛んでいた。
家に帰って、リリカルゆうかを鑑賞する。それしか頭の中にない。
早く帰るため、近道に人通りの少ない道を選ぶ。それが――間違いだった。
「おいおいおい。ここ通るならー。通行料払わなきゃいけないよ。ぼくちゃん?」
DQNが二体現れた。
たたかう ⇒逃げる ひれ伏す 邪王魔眼に目覚める。
もちろん、僕の選ぶコマンドは、逃げる。しかない。
「ちょっとー。無視しないでよねー」
回りこまれた!
「金出せつってんだよ、このデブ!」
僕は、DQNその1から1200のダメージを受けた。
「い、いたい……」
口の中が熱く、鉄の味がする。痛い、痛いよ。
「おら、立てよ。キモオタ」
無理矢理立たせられ、腹パンを合計3回。くそ、縞パンならときめくのに。
僕に、魔法が使えれば。
立ち上がった瞬間にスマホがポケットから落ちる。慌てて拾うと、待ち受けに設定していたゆうかちゃんのスマイルが僕を癒した。
「何だ、この『マジック』っていうアプリ。こんなの、知らないぞ」
ホーム画面に追加されていたアプリ、マジック。こんものをインストールした覚えは無い。
「ごちゃごちゃうるせえ!!」
「わ!?」
今度は太ももに蹴りを入れられた。
衝撃でスマホを地面に落としてしまい、僕は再び拾う。
頭にきた。僕は、ゆうかちゃんの魔法を叫んで、勇気を奮い立たせようと、そう思った。
「ハリケーンストーム!」
瞬間、時間が止まった。
「は?」
DQN二匹も一瞬呆気にとられている。
「ハリケーンストームぅ? こいつ、頭わいてんじゃね?」
DQNその1が腹を抱えて笑っていると……突然、突風が起きて……3メートルくらい吹き飛んだ。
「うを!?」
「な、なんだよ。今の」
ハリケーンストームが発動した?
まさか? いや、でも……よし、もう一度!
「ハリケーンストーム!」
しばらく間があって、DQNその2がまたまた吹き飛ぶ。
「な、なんだよ、こいつ。気味が悪い……おい、行こうぜ?」
「お、おう」
DQNたちは逃走した。
僕は2の経験値とDQNが落とした財布を手に入れた。
「は、あはは。僕、魔法が使えるのか? 勝った、勝ったよ! ゆうかちゃん!」
ゆうかちゃんのスマイルを拝もうと、スマホを見ると、例のマジックのアプリが起動している最中だった。
『これであなたも魔法使い。好きなだけ魔法を使って、いっぱいモンスターを退治しましょう。マジックは、あなたの想像した現象を引き起こすアプリです。マジック起動中に、魔法をイメージ。そして、マイクに向って呪文を叫んでください。それだけであなたは一人前の魔法使い』




