7年ぶりの再会
私の初恋は、5歳のときだった。
幼稚園の送り迎えで一目彼を見て、気に入った。今でもそのときのことは、はっきりと覚えている。
その人は、友達のお兄さんで、10歳年上で、かっこよくて、一緒に遊んでくれた。
私がその子と仲良くなったのも、お兄さんが目当てであって、その子……相良天音のことなんて、どうでもよかった。
むしろ、私に無いものをいっぱい持っていて、一緒にいるだけで劣等感を煽られたものだ。
天音の家はお金持ちで、その上お兄さんにおねだりしたりで、当時最新のおもちゃが天音の部屋に勢ぞろいしていた。
天音はお姫様みたいに可愛い子で、男の子にチヤホヤされていた。お洋服だって、可愛いのをいくつも持ってる。
天音は末っ子で、その上年が大きく離れたお兄さんがいて、お父さんにもお母さんにも愛情を一身に受けて、幸せそうだった。
それに比べて……。
私の家は貧乏でおもちゃなんか、おねだりしたらそれだけで怒られた。
私の顔は平凡そのもの。天音がお姫様なら、私は町人Aであって、脇役。もしくはその他大勢の中の一人。
私は次女で、服だってお姉ちゃんのおさがりばかり。お姉ちゃんはずるくて卑怯で、嫌な人だった。
何、この差。なんで天音ばっかり……ずるい。
だから、天音のおもちゃをこっそり盗んだり、お気に入りの服にジュースをかけて、台無しにしてやった。
我ながら、最低な奴だとは思う。
でも、それでも天音はあっけらかんとしていて、次の日には新しいおもちゃを持っていて、前よりも可愛い服を着ているのだ。
『天音ちゃんはいいなー。あんなかっこいいお兄ちゃんがいて。私にちょうだい!』
そう言ったこともある。
おもちゃや服は盗めても、お兄さんまでは盗めない。
けれども、天音のお兄さんは、私が小1の時に事故で亡くなった。
その日から天音は、人が変わったように暗い子になった。まるで昼から夜になったみたいに、明るさが消えてしまった。
かわいそうな天音。私は、そんな不孝な天音が大好きだった。
またしてもなんと嫌な奴なんだろう、と思う。けれど、人間なんて皆そんなものだ。他人の不幸ほど面白いものは無い。
それから私は小学4年生になって、引っ越して……また、この街に戻ってきた。
7年ぶりの再会が楽しみね、天音。
思い出をほじくっていると、教室の扉が空いて、担任が手招きしてきた。
「入りなさい」
私は、最初の一歩を踏み出した。
転校生、である。
「真下由紀です」
二学期の始まりと同時に、私は転校した。天音と同じ学校、同じクラスに。
男子は私の顔を見た途端、肩透かしを食らったようにがっかりしていた。
――失礼な奴らだ。
「ゆきちゃん! 久しぶり」
「天音ちゃん、7年ぶりだね」
ホームルームが終わると、さっそく天音が私に話しかけてくる。
7年前の、かわいそうな天音じゃなかった。
活き活きしていて……相変らず、可愛かった。
その原因は、どうやら最近できた彼氏らしい。
それを知ったとき、私の中でどす黒い感情が巻き起こった。
また、また私に無いものを、天音が持っている。
彼氏は、花岡充という男の子で、まあ、かっこいいといえばかっこいい。
私も、欲しい。彼氏……。
そんなとき、私のスマホにいつの間にかインストールされていたのが、『ジャック』だった。




