3人の思い出
平日の金曜日に遊園地。土日に比べると確かに人は少ない方だけど、それでも暇人がごろごろいる。
「天音ちゃん、今日は楽しみだねー」
「うん……」
「ゆかり、天音。まずは、あれに乗ってみる?」
3人で遊園地の定番、コーヒーカップに乗ることになった。そう、3人で。
私とお兄ちゃんとゆかりの3人。
お兄ちゃんとゆかりのデートだとばかり思っていたのに、なぜか私まで来るハメになった。
『天音ちゃんも一緒に行こうね! 楽しみにしててよー。お弁当いっぱい作って持っていくから!』
彼氏とのデートに、妹まで誘うだなんて……この女の考えが読めない。
私だったら、彼氏と二人っきりで過ごして……まあ、いい感じになって……オトナの時間を過ごしたい、かな。……そんな相手いないけど。
けれど、こちらとしては都合が良かった。
今日は、お兄ちゃんが死ぬ日なのだ。何かあればすぐにでも助けられる。
本当は家に閉じこもっていて欲しかったけど、うまく説得ができなかった。家にいても安全とは限らないし、それならばいっそ側にいたほうが安心できるというものだ。私のほうも今日、学校は創立記念日で休みだし。
「楽しいねー天音ちゃん!」
「ん、うん……」
コーヒーカップではしゃぐ女子高生、ね。お兄ちゃんは何でこんな女を好きになったんだろう。
「んー? 天音ちゃん、元気ないなー? わかった! 昨日、興奮しすぎて眠れなかったんでしょ?」
「……あんまり、寝てないかも」
別に遊園地に興奮して寝れなかったわけじゃない。今日のことを考えると……寝ても寝付けなかった。
「きっと、おなかが空いたんだよ。天音、食いしん坊だからなあ。はは」
「もう! お兄ちゃん!」
無邪気に笑う兄に、軽く怒ってみせる。
「先輩、女の子に食いしん坊はないですよー。よし、天音ちゃん。デザートは2人で食べようね。意地悪なお兄ちゃんにはナシ!」
ゆかりは楽しそうに笑って私の肩を抱いてきた。
お兄ちゃんは困ったように笑い、頭をかいている。
ちょっと……楽しいかも。お兄ちゃんを悪者にしたみたいで、かわいそうだけど。
「じゃあ、ちょっと早いけど、お弁当食べちゃいますか!」
私たちはベンチに腰掛けると、ゆかりのお弁当箱を開いた。
私はゆかりとお兄ちゃんに挟まれるようにして、座っている。
「天音ちゃん。欲しいものがあったら、遠慮なく言ってね!」
「ん、うん」
ハンバーグに、エビフライ、ウインナーに、たまご焼き。
……テンプレ弁当ね。おにぎりの中身は梅干か。ていうか、なかなかハイカロリーな内容だと思うけど。
試しにたまご焼きを食べてみた。
口の中いっぱいに広がるたまごの味。とろりとしていて、さりげに甘く、だしの味もきいている。
「おいしい……」
「んー今、何て言ったのかなあ?」
「お、おいしいとか言ってないもん! おい、しいたけどこだー。って言おうとしたんだから!」
「うーん。苦しいなー天音ちゃん。ここは素直にお姉ちゃんの腕を認めちゃいなよ。ユー、楽になるよ?」
ゆかりは満足そうに私を見ていた。く、悔しい!!
でも、これはマグレ! きっと、他のは全部ハズレ!
「う、うま――い!?」
「うまい? そうだよねー。そうだよねー。お姉ちゃんの得意技なんだよね。ハンバーグは」
「馬井さんていう子がね、この前間違えて私の上履きで帰っちゃったんだよー。って言おうとしたの! このハンバーグは……まあまあね」
「強情だなー天音ちゃんはー。認めれば楽になれるのに。故郷のおふくろさんが泣いちゃうよ? ユー、認めちゃいなよ」
「み、認めないもん!!」
認めたら、負ける。なんだかそんな気がして、本当はおいしいのに、それを無理してまずいと言っていた。
「まずいけど! 残したら悪いから、食べてあげてるんだから、へんな勘違いはやめてよね!」
なんで私、こんなツンデレやってるんだろう……。
「あのー、僕の分のおかずは……」
「あ、すっかり忘れてた」
「あ、お兄ちゃんいたの?」
それから5分近くお兄ちゃんは泣いていた。どうやら、むきになりすぎたあまり、お兄ちゃんそっちのけで弁当を食べていたらしい。
ちょっとお兄ちゃんがかわいそうだった。
「じゃあ、今度はメリーゴーランド! 乗りたいと思う人、挙手!」
ズバッ! と、思い切り手を挙げたのはお兄ちゃん1人だけだった。
「はいはーい! あれ? 2人とも、乗りたくないの?」
「いや~、さすがに高校生にもなって、メリーゴーランドはないでしょ、先輩」
「恥ずかしいよ」
それからお兄ちゃんは1人でメリーゴーランドに乗ることになった。最初こそ、恥ずかしいそうにうつむいていたけど、途中から吹っ切れたのか私たちに手を振って楽しんでいた。
……お兄ちゃん……私、恥ずかしい。
「あはは。かわいいよね、天音ちゃんのお兄ちゃんは」
「お兄ちゃん、ちょっと子供っぽいところあるから」
「いつもは大人っぽくて、優しいんだけどね。たまにああやって、子供みたいに無邪気に笑うんだよね~」
「うん。お兄ちゃん、かっこいいけど、かわいいところもあるの」
「さすが妹。よく解ってるねー」
「ゆかり……さん、こそ」
奇妙な友情が芽生えつつあった。少し、ゆかり……さんと私の距離が縮まった気がした。




