表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/52

歴史の改変

 まるで、夢を見ているみたいだった。死んだお兄ちゃんが、目の前で生きて、動いている。


「ん、どうしたの天音? あ、そうか。これが欲しいんだね? はい、あげるよ」


「あ、ありがとうお兄ちゃん……」


 じっとお兄ちゃんの顔を見ていたのを、おかずが欲しいと勘違いされてしまったらしい。


 私はとりあえず、ウインナーをもらって、子供らしく無邪気に笑ってみる。


「他に欲しいもの、ある?」


「ううん!」


 ああ。本当に、お兄ちゃんだ。


 いつも私のことを一番に考えてくれて、可愛がってくれる、優しくて大好きなお兄ちゃんだ。


「お兄ちゃん、大好き! もう離さないもん!」


 子供の様に兄の腕に引っ付く私、10年ぶりだった。


 兄の匂いも、兄の大きな背中も、兄の声も……全てが懐かしい。


 ずっと、ずっと、会いたかったよ……。


「おいおい、どうしたの天音。僕はどこにもいったりしないよ」


 その言葉で、現実に引き戻される。そうだ……お兄ちゃんは、あと一週間で死んでしまうんだ。


 歴史を……変えなきゃ。お兄ちゃんを死なない歴史を作らなきゃ。


 でも……思い出せない。お兄ちゃんが死んだ原因は何だったのか。


 そもそも、あの頃の記憶がない。お兄ちゃんが死ぬ一週間前から、死ぬ直前までの記憶が、キレイに空白だった。


 もしかして……17歳の私の意識が7歳の私の体に宿っていたから? だとすれば……これは、チャンスなのかも。


 私が過去で歴史を変えれば、10年後のお兄ちゃんは死なずに済む。そうすれば、そうすれば!  


「天音? 具合でも悪いの? 学校休むか」


「う、ううん。大丈夫だよー」


「そう? なら、いいんだけど」


 食事を終えると、私はお兄ちゃんと一緒に家を出た。久しぶりに背負ったランドセルは、少し重い。


「いってきまーす!」


 二人で元気よく、仲良くお母さんに行ってきますを言うと、外へ出る。


 通学路の途中まではお兄ちゃんと手をつないで歩いていた。


 こうしてみると、改めて仲の良い兄妹だったんだなあって、思う。そういえば、一度もケンカなんかしたことない。


 成長した今の私だから解るけれど、もし私に10歳年下の弟がいれば、いじめたりなんかせず、目に入れても痛く無いくらい可愛がっていただろう。


「あまねちゃーん」


「あ、ゆきちゃんだ」


 懐かしい。小4の時に引っ越して行ったゆきちゃんだ。


 あのころの姿そのままで再会するのは、ちょっとした違和感がある。


「あまねちゃんのお兄ちゃん、おはようございまーす」


「うん、おはよう。ゆきちゃん。それじゃ、天音。僕は行くね」


「あ……」


 途端に不安が私を襲った。これが今生の別れになってしまいそうで、私はお兄ちゃんの手を離せなかった。


「おいおい、まったくもう……しょうがないな、天音は」


 お兄ちゃんは困ったように笑うと、かがみこんで目線を私に合わせた。そして、優しく頭をなでてくる。


「天音、がんばれ」


 おまじない。私が何かに挑戦するとき、こうしてお兄ちゃんは私を励ましてくれる。


「うん、行ってきます……ばいばい、お兄ちゃん」


「ばいばい、天音」


 私はお兄ちゃんと別れ、ゆきちゃんと一緒に学校へ向った。


「天音ちゃんはいいなー。あんなかっこいいお兄ちゃんがいて。私にちょうだい!」


「だめー。私だけのお兄ちゃんだもんー」


 自慢のお兄ちゃんだった。優しくてかっこいい、勉強もできて、いつも遊んでくれる。アルバイトで稼いだお金で、私がおねだりすれば何でも買ってくれた。


 駄々をこねて、よく困らせたっけ。その時に買ってもらったぬいぐるみは、高2になった今でも枕元に置いて一緒に寝ている。


 そんな優しい兄を、助けたい。


 きっと私が十年前に来たのには、兄を助けるという使命があるからなんだ。


 私は、決意を新たにするとランドセルの肩ひもを強く握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ