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突然だがとある男の話をしよう。
いきなりだが、その男は目つきが悪いというだけで周りの人間から「不良」と呼ばれ、恐れられ、時にはさげずまれてきた。
だがその男は一度も自分の周りからの評価を、体裁を気にはしなかった。
それどころか、さげずんできた他者を時には助けて生きてきた。
しかし周りはある時には直接的な暴力で、またある時には間接的な暴力で彼をさげずんで生きてきた。それは助けられた他社も同じく。
だが男は思っている。「助ける、助けられたなら良い」と。
また男は言う。「俺は偽善者だ」と。
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「あ~あ、かったりい」
そんな言葉が校舎の中で反響する。全クラスの生徒は体育館に集まっているため、全ての教室は空である。そこにリノリウムと靴が奏でるその独特な音も響き、これもまた校舎の中ではカツーン、カツーン と反響する。
そこを大和は足早ではなく、しかしゆったりでもなく進む。
大和は思う。
自分とあの生徒会メンバーとの出会いを。ポワワワ~ンという回想に入るような音を頭で流しながら。
半年前、大和は元来の目つきの所為でこの学校のゴロツキ共に絡まれていた。
端的に語るなら、リンチだ。単数 対 多数。
大和はそれをのした。中学校の頃からの延長と大和は考えていたため、特には気にはしなかったのだ。決してインドの偉人のような高尚な考えを持っていたわけでもなく、返した。非暴力なんてのはしなかった。
ごく普通の一般人が見れば地獄という表現をするであろう生活を送っていた。どのような生活かと言うなれば、暴力が毎日に組み込まれた日常である。
しかし、そんな生活にも転機が訪れたのだった。それは去年の11月。
生徒会長選挙の結果発表と人事発表という学校の一大行事の日にちであった。
大和たちの学校の生徒会の仕組みは変わっており、「生徒会長が全ての決定権を持つ」という絶対王政の仕組みであった。つまりは生徒会長は「全ての生徒会しからず生徒会傘下の役職の人事の決定権を持つ」ということでもあった。ついでにこの生徒会長選挙は生徒会長の権利が教師たちよりも上の権利を持つため倍率が高い。
その日の大和は別段そんなものには興味がなく昼休みは、ボケ~、と過ごしていた。
教室はいつになくざわざわとしていて騒がしかった。この結果発表とかは放送で行われるというのは同じである。
そしてチャイムがなった。ピンポーンパンポーン。
「それでは、生徒会長選挙の発表と人事発表しちゃうぜ☆ この放送の担当をする、皆のアイドル曇孤 彼方でぇーす」
放送担当者のテンションが高い。そして周りもそれに感化されていき校舎中は最早お祭り騒ぎである。
そして放送担当者さんの言葉は続く。
「紳士・淑女の諸君、用意はいいかい?・・・それでは生徒会長の発表にいくぜ!!」
こんなハイテンションに盛り上がっている人らに紳士も淑女もありはしないだろう、と大和は心の中で担当者さんにツッコミをいれた。
そして発表に移行した瞬間、さっきまでの騒がしさはなりを潜め、水を打ったかのように静かになった。
大和はさっきは騒がしくて耳が痛かったが、今度は静かすぎて耳が痛くなった。
「発表します。・・・ジャンジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガジャガ・・・」
担当者さん自家製のドラムロールが鳴る。
そして担当者さんは当選者を発表した。
「当選者は・・・水無月 時雨さんで~す。わーパチパチ」
発表した瞬間、全部のクラスが爆発したような声が聞こえた。
やったー!! やら うわ~ん!! などの歓喜や悲哀の声が。
そして担当者さんは続ける。
「続きまして、人事の発表です。まず生徒会から」
俺らの学校の生徒会本部の役職は「生徒会長」「生徒会副会長」「書記」「会計」「雑務」の5役職で副会長2名、書記2名の7人で構成される。
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次々と副会長から順に名前が呼ばれる。
そして最後に残った生徒会本部の役職「雑務」の人事の人の名前を担当者さんが呼ぶ。
その時の俺は文庫本を読み、放送は左から右へ流していた。
「生徒会雑務・・・無月 大和 くん。 おー、おめでとう」
そのとき校舎全体が固まった。
俺は読んでいた文庫本を ポロリと落した。
そして俺は言った。
「はあぁぁぁぁぁー!???」
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まあ、結果から語ると俺の今までの生活に終わりが告げられた。
生徒会本部役員は会長ほどではないがそれなりの権力は持つため一気に世界が変わった。
平穏無事な前の生活とは180度も変わった。
自分でも拍子抜けするほどに。
さてと・・・八雲さんとは全く話をしたことがない。
あの選挙で決まってから長い期間あったのにだ。理由は面会の数がなかったということだが。
まぁすれ違いなんてある事だろう。
コンコンと生徒会室の戸を叩き、入ると彼女はいた。
「おや? はじめまして・・・きみは誰だい?」
お尻が喋った。否、彼女は机の下にもぐりこみお尻をこちらに向けていた。
「生徒会雑務の 無月だが・・・何してるんだ?」
そう言うと彼女はズルズルと机の下から這い出てきて、素顔を見せた。
頭には白い埃がいくつか付着している。
かわいい。彼女を表す言葉はそれだ。
手首足首は健康的に白く、細い。だが、それは彼女の華奢さを更に引き出している。
顔は、そこらの下手なアイドルよりもかわいい。
そんな彼女は言った。
「やあ、君があの無月くんか・・・あの「鬼」と呼ばれているのは君だったか」
いきなりで驚いた。
俺は「鬼」とこの学校では呼ばれている。二つ名だが。
不良からそれで恐れられ、一般人からは外見で恐れられている。
それは置いといて俺は言葉を言う。
「どうかしたのか?何かさがしものか?」
「む、ちょっと入学式の原稿をなくして探し中さ」
「そうか。手伝うぞ」
「む、感謝する」
そういうと彼女のスカートが机の引き出しに引っかかりパンティがチラリと見えた。
ピンクか・・・。うん、眼の保養。心の中でお礼の前払いに感謝して俺たちは原稿を探した。
~5分後~
探しても探しても結局は見つからなかった。
「はぁーー。見つかんねえな」
思わずぼやいてしまう。
「む、すまん。ボクがしっかりしないばかりに・・・」
「あ、いや。それにしても一人称と話し方が変わってるな?」
強引に話題を変えてみた。これに乗ってくれるといいが。
「あぁ、よく言われるさ」
乗ってくれた。そして彼女を見る。ミディアムの黒髪に賢さと可愛さを兼ね備えている顔をしていた。そして彼女の制服はさっきよりもホコリで所々白くなっていた。
すると右ポケットに何かが見えた。
何か紙らしき物が。とりあえずは質問だ。
「なぁ、お前の右ポケットのそれが探しものか?」
「む?・・・・・・」
どうやらビンゴらしい。
顔を真っ赤にしてあうあうと唸っている。
「あうあう唸ってても仕方ねぇ。さて、そろそろ行くか」
腕時計をのぞくと時間はそこまでは無かった。
走れば間に合うくらいだ。
「ほら、行くぞ」
そして俺らは駈け出した。
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駈け出して校舎から出てグラウンドに出た。すると一つの異変があった。
空が変だ。
さっきまでは雲ひとつない綺麗で澄んだ青空が一変、茜色の夕焼け空に変わっていた。
「あ?なんだこれ」
そして人の気配がない。
グラウンドに止めてあった夥しい数の交通手段も無くなっていた。
八雲さんを見ると俺と同じく周りを見ていた。
突如、声がした。
「よほほほほ。捕まえましたわよ、八雲 飛鳥。さぁさ、お死になさい!!」
すると地面から這い出てきた女がいた。
真っ赤なドレスを着て、背丈が2m近くあり、口元が大きく裂けている女が。
女は飛鳥の手を取り、地面に押さえつけた。何かしらヤバイ雰囲気を纏っており俺は瞬間的に駆け出した。
「八雲っ!!」
俺は咄嗟に女を殴り飛ばし八雲を助けた。
すると女は殴られた頬を擦りながら言う。
「おーーいてて。おやおや、邪魔がいますねぇ・・・死になさい!!」
すると女の足元の土が大きくうねり円錐を作り上げ、尖っている方を俺たちに向けた。
「無月くん、逃げて!!」
八雲が俺の腕の中で何かを言うも俺は聞いてはいなかった。
そして円錐の土は俺に襲いかかってきた。