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第四話

教室へと戻ってきた洋輔と一成。洋輔は未だぶつぶつ言いながら、一成はそれを優しい目つきで見やりながらそれぞれの席に着いた。すると目をキラキラさせた璃乃が洋輔の席に近づいてきた。


「洋輔!待ってたわよ!さぁ存分にさっきの子について語ろうじゃない!今夜はオールナイトよ!」


「黙れ痴女話しかけるな。俺は今、俺の心を守るために色々と模索している。そんなに語り合いたいなら二岡が相手をする。と言うわけで二岡、パス」


「えぇ!?俺!?」


いきなり会話をパスされて驚愕する一成。何気に初対面の女子とこれまた初めて見た女子の可愛さについてオールで語り合う。状況が本気で意味不明だ。


「あらそうなの?じゃあ、えっと二岡君?ちょっとわたしと語り合いましょうか」


しかし璃乃はそんな状況に疑問を抱かなかったようだ。抱かないどころか順応している。状況適応能力がマジ半端じゃない。


「えっ、い、いいの?相手俺で?初対面なのに?」


「そんなことは些細な問題よ。そこに可愛いものがある。それだけで語り合う理由には困らないわ。わたし小早川璃乃。よろしくね」


ニコリと笑いながら自己紹介をする璃乃。そんな璃乃に思わずドキリとしながら、自分もと自己紹介をする一成。


「あ、ああよろしく。俺、二岡一成って言うんだ。七井とは朝に知り合ったんだ」


「へぇそうなんだ。それよりあの入学式のときの子!すっごい可愛かったわよね!」


「確かに可愛かったよね。確か高木原美幸って名前だったよね」


「そうよ!あんな可愛い顔に名前まで私好み!ああもう!5日間でも眺め続けたいわ!全身くまなく!穴をあけるほどに!」


「それは……アブナいんじゃないかな………」


若干引きながらそう告げる一成。しかしその言葉は璃乃に届かなかったのか璃乃は尚も続ける。


「あ~でも惜しかったわ!あんな可愛いのに泣き顔しか見れなかったわ!あんな可愛い子が満面の笑顔でわたしに『おねえちゃん!』なんて言ってくるのを想像したら…………!!!たまんねぇぜ!!」


「うん………そうだね……」


ヒートアップしたのか妄想しだした璃乃。最後の方は興奮しすぎて口調が変わっている。

一成はそんな璃乃に表面上は同意しつつ内心恐怖していた。一成が璃乃に持った第一印象はすごい可愛いなぁ、くらいのものだった。それが話してみれば初めて見た女子をネタに妄想を始めるような始末。ふたを開ければそこには未知との遭遇。玉手箱なんて目じゃない。

助けを求めて洋輔の方を見るがこちらから目をそらしている。友達になったその日に見捨てられた!

と一成が軽く絶望していると教室の扉がガラガラ、と開かれた。紗耶香が戻ってきたのだ。流石に璃乃も担任が戻ってくると話を切り上げ自分の席へと戻っていった。そのことにものすごく感謝しつつ一成は洋輔に恨めしそうな目を向けた。洋輔はその視線を受け小声でスマン、と言った。その言い方がすごく悲しそうなものだったので一成は思わず泣きそうになった。


「さて、遅れてすまない。みんなも知っての通りちょっとしたトラブルがあってな」


「先生~さっきの人ってなんなんですか?」


クラスの一角から声があがる。紗耶香はその質問にやはり来たか、といった様子で口を開いた。


「さっきのか…まあみんな気になってるだろうから話しておこう」


ちなみに洋輔、璃乃、一成はあまり気にしてなかった。いや気にはしたが気にするポイントが他と違った。璃乃は可愛さ、洋輔はその変人性、一成は洋輔のテンパり具合に気がいっていた。こうしてみるとなんか残念だ。

それはともかく紗耶香は話を始めた。


「さっきのはどうやら部活の勧誘らしくてな。本来なら部活の勧誘は来週からなんだが」


「え~部活ってなんのですか~?」


「高木原は幸福研究同好会という部の部長でな。人数が足りないからああいった行動に出たようだ」


幸福研究同好会?

クラス全員がこう思っただろう。そんな同好会聞いたこともないだろう。普通の高校には絶対ない。


「それって一体どんな部活なんですか?」


そう質問したのは璃乃だ。


「興味があるなら後で話してやろう。私が顧問だからな」


何てことだ…!(洋輔)

あーらら……(一成)


洋輔と一成の心境はこんな感じだった。洋輔は実は身近に敵がいたことに対する戦慄、一成はそんな洋輔を不憫に思う気持ちだ。当たり前だがそんな二人に気づいた様子もなく璃乃の顔には歓喜の色が浮かんでいた。


「はいっ!是非ともお願いします!」


「ああ、いいだろう。あ、それとは別に高木原が二人指名していてな」


美幸が指名した二人。それは一体誰なのか?全員が疑問に思っていると紗耶香が口を開いた。その口から出た言葉はある一人を心の底から震撼させるものだった。


「この中で今朝駐輪場で『自分の幸せの為に他人を傷つけるなよ?』とかっこいい台詞を吐いた奴と言われた当人はこの後私の所まで来い」


「あ、それならわたしと洋輔です」


「璃乃、貴様……!!」


指名されていたのは璃乃と洋輔だった。洋輔は心の底から驚いていた。高木原美幸という洋輔から見たら大変人から指名を受けたこともそうだが、それよりも朝言った台詞をこんな所で暴露された方が驚きだった。というか凄く恥ずかしい。前後のくだりを省かれてこの台詞だけ言われると凄くイタい。クラスメイトからの視線もとても痛い。


「どうした?七井?」


「どうしたじゃないんですけど!?なに人が言ってしまった恥ずかしい台詞暴露してくれてんですか!?」


「なんだ。恥ずかしいと思ってたのか?私はこれを高木原から聞いたとき、なんて痛々しい奴なんだろうと思ったんだが。違ったか?」


「嫌な勘違いしないでください!そういうのじゃないですから!」


「でも言ったんだろ?」


「痛いトコついてきますね…!っ確かに言いましたけどあれは……」


「言ったんじゃないか。イタい奴め」


「話の腰を折らないでください!あと、違うんです!あれはそこのバカを諫めるために言っただけで……」


「まあ、二人とも後で私の所に来い」


「聞けーーーーーー!!!!」


思わず敬語を忘れるほど興奮している洋輔。周りの視線は痛いものを見るものから可哀相なものを見るものに変わっていた。空気が凄く生暖かい。

その視線に気づいた洋輔はなんだか恥ずかしいやら情けないやらで、訳の分からない感情になり着席した。そんな洋輔の肩を一成が優しく叩いていた。


「じゃあ連絡事項を言うぞ。明日から早速平常授業だ。今からプリントを配るから時間割を確認しておけ。それからさっきも言ったが、来週から部活の勧誘が始まる。今のうちにどの部を見るか決めておけ。あとは特にないな。ではプリントを配るぞ」


そう言いプリントを配り始める紗耶香。列ごとに人数分のプリントを置いていき、全員にプリントが行き渡ったことを確認したところで


「では、解散」


と簡潔に締めた。










「じゃあ俺見たいものも無いし帰るわ。二岡、また明日な」


「待ちなさい洋輔」


「ぐぇっ!!」


当たり前のように帰ろうとした洋輔の首を当たり前のように掴む璃乃。当たり前のように無視するクラスメイト達。関わりたくないという心境が丸見えだった。


「さぁ大河内先生の所に行くわよ」


「…ぅっ……かっ………!」


「小早川さん、その前に七井が逝ってしまいそうなんだけど……」


洋輔の首を掴んだ手そのままで紗耶香のもとへ行こうとする璃乃。やることがパワフルだ。


「ん?ああ、ごめん洋輔」


ポイッと洋輔を投げ捨てる璃乃。言葉とは裏腹に悪びれた様子が一切無い。


「げほっ!げぇほっ!げぇほっ!」


「うわぁ…」


思いっきりむせている洋輔を見て少し引いてしまった一成。可愛い女の子が自分より背の高い男の首を掴んで投げ飛ばしたのだ。引かない方がどうかしている。

そんな洋輔を不憫に思い、一成は洋輔の背中をさすっていた。


「大丈夫か?七井」


「……泣きたい」


「……いいんじゃないか?」


泣きたいと言う洋輔とそれを優しく受け止める一成。ここだけ見れば感動的な場面かもしれない。


「ありがとう…もう大丈夫だ」


「無理すんなよ?」


「ああ。本当にありがとう」


青春ドラマの様な雰囲気が出来上がりつつある。今にも熱い抱擁を交わしそうだ。


「まあ、安心しろよ。俺もついていってやるから」


「えっ?いいのか?二岡」


「ああ。俺もちょっと興味あるしな。ほら行こうぜ?小早川さんも待ってるし」


「…本当にありがとうな。二岡」


「一成でいいよ。俺も洋輔って呼ぶから」


そう言って爽やかに笑う一成。そんな一成を見て確かな友情を感じた洋輔。思わず目頭か熱くなり涙がこぼれかけたその時


「青春ドラマごっこは終わったか?なら早くしろ。部室に案内するから」


「ぶち壊してくれますねぇ…!色々と……!!」


一瞬で涙を引っ込めた洋輔が紗耶香に噛みついた。その横で一成は自らの言動を思い返し、いたたまれない気持ちになっていた。ちょっとクサかったのだろう。


「先生!早く案内してください!わたしの楽園パラダイスへと!!」


「部室だ」


そう言い教室を出る紗耶香とそのあとに続く璃乃。璃乃の無視っぷりが何気に凄い。


「……行くか、洋輔」


「……そうだな、一成」


傷つきながらもお互いに名前を呼び合い新しい友情を確認する二人。そして二人は結構距離が離れてしまった紗耶香のもとへと小走りで向かうのだった。

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