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第一話

私立聖四葉学園


ここ福徳町に30年ほど前に出来たこの学園

[生徒の自主性を重んじ、自己の発達・完成を目指す]

これがこの学園の校訓だ。


そんな立派なんだか放任主義なのか微妙なところのこの学園も4月に入り入学の時期を迎えていた。










福徳町のとある住宅街の一角。

一人の少年が眠っていた。少年の名前は七井洋輔

今日から聖四葉学園に入学する15歳の少年だ。


現在の時刻は午前6時30分。洋輔はいつも7時に目覚ましを設定しているのでまだ起きていない。

しかしそんな時間に彼の部屋へと向かう影があった。

その影は洋輔の部屋の前まで来るとゆっくりとドアに手をかけ、そのままそろそろと部屋に入っていった。そのことにも気づかずに眠っている洋輔。そしてその影は口にある物をくわえて息を吸い込み思い切り息を吐いた。


「ピィーーーーーーーーーーーーー!!!!」


「!?!?!」


洋輔は飛び起きた。それはもう凄い勢いで。勢いが良すぎてベッドから20センチ程浮いていた。


「えっ?あ…え…な、何だ?」


突然の笛の音に若干涙目になりながら周りを見回すと、


「おはよー洋輔」


と一人の少女が体育教師が持ってるような笛を手にして仁王立ちしていた。それを確認した洋輔はすぐさま不機嫌そうな顔になり、


「……何をしてる、璃乃」


と言った。

部屋に入ってきた少女の正体は洋輔の小学生からの幼なじみの小早川璃乃であった。璃乃は紺色のブレザーに同色のスカート、胸元に赤いリボンという聖四葉学園の制服姿だった。璃乃もまた洋輔と同じ聖四葉学園の新入生である。


「いやー洋輔が寝坊して入学式に遅刻しないように起こしてあげたのよ」


「何で笛だよ、そして何でその笛なんだよ。体育ぐらいでしか見ねぇよその笛」


「ふふふ~、いいでしょ?これ。通販で買ったの。全部で5,980円したのよ」


「なんて金の無駄遣い…!って全部で?まだあるのか?」


大体通販で笛を売ってるってなんの会社だよ……

なんて洋輔が思っていると


「そうそう、こっちがメインの商品なのよ!」


そう言って璃乃がポケットから取り出したのはボタンで鳴るタイプの笛だった。


「……悪い、いや悪くねぇけど、何が違うか教えてくれるか?」


「ふっふっふー。聞いて驚きなさい」


そう言うと璃乃はボタンを押した。その瞬間


「バーーーーーーーーーーーン!!!!!!!」


爆音が響いた。


「ぬあぁ…!み、耳がぁ……!」


何の心構えもなくその爆音をもろに聞いてしまった洋輔は耳を押さえて苦しんでいた。その爆音を鳴らした張本人である璃乃はと言うと


「っ~~~~~~~~~~(バタバタ)!!!!」


声にならない悲鳴をあげながらもんどりうっていた。

それを見た洋輔は耳の痛みも忘れてなんともいえない視線を璃乃に向けていた。


「…なんでお前もダメージ受けてんだよ?自爆特効か?」


「……っこんなに音出ると思わなかったわ!!こんなの小学生相手に使ったらショック死するわよ!!!」


「お前それを人に使う気だったのか!?しかも小学生相手に!?」


「そうよ!元々この商品のコンセプトは『可愛いあの子を驚かせ!そんな顔も可愛いね!』って言うものでね、要するに可愛いあの子の驚いた顔を見たいなーという願望から生まれた商品なのよ!わたしは小学生の可愛い子達にこれを使って驚いた顔を堪能しようとしたのに!でもこんなんじゃ驚いた可愛い顔を見る前にその子が死んじゃうじゃない!!誰よこんな頭の悪いもん考えたの!?」


「そんなもん買ったお前が一番頭悪いわ!長々と変な説明しやがってこのロリコンが!」


「誰がロリコンよ!わたしはロリコンとは違うのよ!」


「何が違うんだよ!?」


「わたしはね、可愛いもの全てを愛してるのよ!性別、年齢、国籍、種族、二次元、三次元問わず可愛いものなら何でも好きなのよ!小さい女の子しか愛せない奴らとは違うのよ!!いわば万能型よ!!!」


「ロリコンよりも一層タチが悪いんだよ!なんだその守備範囲の無駄な広さ!昔っから変態だとは思ってたけど最近変態に磨きがかかってきてないか!?」


「高校デビューってやつかしらね…。自分の新しい可能性がどんどん広がっていくの」


「聞いたことねぇよそんな高校デビュー。むしろただの変態デビューじゃねぇか」


璃乃の返事に辟易しながら言葉を返し、携帯のディスプレイを見て時間を確認する。


「まだ7時にもなってねぇじゃねぇか…」

現在の時刻は6時46分。いつも起きる時間よりも約15分早い。


「こんな朝早くから何しに来たんだよ。まさかその笛を試すためにじゃないよな?」


流石にそんな理由じゃないだろうと思いつつ洋輔が訊ねてみると


「え?そのために来たんだけど」


まさかであった。


「てっ……!コ…ノ………!!」


洋輔は文句を言おうとしたが怒りで言葉が出てこなかった。


「ご、ごめんごめん。まさかあんな音がするとはわたしも思わなかったのよ。そうよ!あんなものに5,980円も払ったわたしだって被害者よ!」


「なに逆ギレしてんだよお前……!一番の被害者は俺だろ!!」


「あっ…ごめんなさい……」

璃乃が今度は真面目に謝ったので洋輔の怒りは一応収まった。洋輔は相手がちゃんと謝れば許すことのできる人間だった。陰で単純と言われているのを彼は知らない。


「はぁ…。まあいっか、もう。二度とするなよ?」


「未来は誰にも分からないわ」


「殴るぞ」










それから洋輔は璃乃を一発殴り(かなり弱く)、璃乃はそれにカウンターをいれた(ガチの)。そして璃乃のカウンターによりのされた洋輔は着替えると言って璃乃を部屋から追い出した。その時洋輔の目許が軽く濡れていたのは気のせいではないだろう。

そして現在二人は並んで朝食を食べている。


「…なんでお前は当たり前のように家で朝飯食ってんだよ?」

憂鬱そうに言葉を発する洋輔。その目許は心なしか若干赤い。


「おばさんが食べていきなさいって言ってくれたの」


「余計なことを…」


心底うんざりといった表情で呟く洋輔。そんな様子にかまった様子もなく璃乃は


「それより、なに女の子を殴ってんのよ」


「そのあと5倍以上の力で殴り返したろ…」


「暴力的な男はモテないわよ?」


「あれで暴力的ならお前のはなんだ?もはやテロだろあんなの」


そんな口論を微笑ましいという表情で眺めながら女性が近づいてきた。


「それにしても璃乃ちゃん、綺麗になったわね~」


「母さん、読んでくれない?空気とか雰囲気とかいろいろ」


タイミングを間違えた発言をしたのは洋輔の母、七井京香である。


「洋輔もそう思うわよね~」


「無視?…まぁそうなんじゃない?」


投げやりに答えた洋輔だがその言葉は本心からのものだった。変態だなんだのと言っていたが璃乃の容姿はレベルが高い。

目は二重でパッチリとしておりまつげも長く口と鼻も小さめで全体的に整っている。セミロングにした髪はサラサラで清潔感がある。スタイルもよく端から見れば美少女の部類に入ることは間違いないだろう。その分中身がだいぶ残念なことになっているが。


「お前見てると『天は二物を与えず』って言葉がホント的をえていると思うよ」


「どういう意味?」


別に、と返して洋輔は箸をすすめる。

ちなみに洋輔の容姿については多少目つきが悪いが他はそれなりで、髪は短めに切っている。身長は高めで170後半はある。

そんな2人を眺めながら京香が


「こうして見ると2人ともお似合いね~」


などと言いだした。それに対して2人とも本気でいやな顔をした。璃乃の好きなものは可愛いものであり洋輔はどうみても可愛くなかった。洋輔にとっては、こんな変態とお似合いなんてただの屈辱でしかなかった。


「母さん…それはない」


「おばさん…それはないわ」


2人してお似合い発言を否定するが京香はふふふと笑っているだけだ。


「はぁ…。ごちそうさま。璃乃、早く食べろよ。そろそろ行かないと遅刻するぞ」


時計を見てみると針は7時40分あたりを指していた。洋輔の家から聖四葉学園までは自転車で約30分かかる。8時30分までに教室にいないと遅刻となるのでそろそろ学園へ向かった方がいいだろう。


「ん、ちょっと待って」


そう言って璃乃は残りの朝食を一気に食べる。そして箸を置き、


「おばさん、ごちそうさまでした!」


「はいはい、お粗末さま」


璃乃の食後の挨拶に京香は柔らかく微笑んで答えた。それを見た洋輔はカバンを背負い玄関へと向かう。璃乃も自分のカバンを手に取りそれに続く。玄関で靴を履き見送りにきた京香に向かい、


「じゃあ母さん行ってくる」


「行ってきます。おばさん」


「2人とも行ってらっしゃい」


こうして洋輔の一日が始まった。

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