表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ほのぼの兄妹

ハッピーホワイトデー

作者: ルーバラン

「カズ兄カズ兄」


「なんだヤヨイ」


 今日もまたヤヨイが俺の部屋に入ってきて、話しかけてくる。

 いつものように、ばったーんとドアを開けて入ってくるわけではないけど、一体今日は何を言ってくるんだろう。


「カズ兄、今日は何月何日でしょー?」


「3月14日」


「だいせいかーい! そんなカズ兄にもう1問!」


 何かくれるわけじゃないのかよ。


「カズ兄、3月14日と言えば?」


「3月14日と言えば……パイの日だな」


「そうそう、円周率は3.1415926535……略してパイの日! って違うでしょー!?」


 ほんとにパイの日ってあるらしいけど。まあそれはどうでもいいか。


「そうじゃなくて、もっと有名な日があるじゃん!」


「有名な日ねえ……ほしのあきの誕生日とか?」


「へえ、そうなんだー……ってそれも違うでしーょ!?」


 わかっちゃいるけど、答えるのもめんどくさいというかなんというか。


「正解はホワイトデー! という訳で、カズ兄!」


 ……そう言いながら、ヤヨイは手を差し出してきた。


「……一応聞くけどさ、その手はなんだヤヨイ?」


「ホワイトデーと言ったら男の人が女の人にバレンタインのお返しを上げる日でしょ? だからだから。ほらほらカズ兄、かわいい妹に言うことがあるでしょー?」


 ニコニコ笑いながらそういうヤヨイだけど、一言俺は言いたいことがある。


「……言っとくけど、俺、ヤヨイからバレンタインにチョコもらってないぞ」


「一緒に食べたじゃんかー」


「家にあったチョコをな。それもらったとは言わない」


 しかも、家にあったのはただのチョコボール。おやつ用に一緒に食べただけだ。

 そんなんをバレンタインチョコと言われて、ホワイトデーのお返しをくれとか言われても、なんかいやだ。

 

「カズ兄カズ兄、私カズ兄に毎日チョコあげてるよ?」


 ……そんなのもらったことない。ここ1週間はチョコも食べてないし。


「ほら、今あげた」


 そう言うと、俺の目の前で立っていたヤヨイがすっと体操座りをした。

 意味が分からないのだが、それのどこがチョコのプレゼントなんだろう?


「……いつくれた?」


「カズ兄の目の前で、『ちょこ』んと座ってあげたじゃんかー」


 ……なんとなくいらっと来たので、ていっと軽くヤヨイの頭にチョップを入れた。


「いったー……。カズ兄ってば何するのさー」


「なんとなくムカッと来ただけ。というかヤヨイってそんな風に座ってたか? そんな風に俺の前に座ってたの、ほとんど見たことないんだけど」


「石の上にも3日って言うでしょ? だから頑張って3日前からしてたよー」


「それじゃただの3日坊主じゃんか」


 たった3日じゃ頑張ったって言わない気がする。


「坊主って言うなー!」


「はいはい、3日娘な」


「むー……なんか馬鹿にされてる感じー。まあ、そんなことはどうでもいいの。ほらほら、普段は吊り橋をたたいて渡るような慎重なカズ兄でも、時には思い切って行動することが必要だよ? だから思い切って私に手作りクッキーでもプレゼントしてよー」


「吊り橋たたいて渡るってめっちゃチャレンジャーな気がするが。でもやだ。めんどい」


 手作りクッキー作るの結構めんどくさいんだぞ。今から作り始めたらどれくらいかかるか。確か材料は家に全部あったような気はするけど。


「もうっ、カズ兄ってばチョコもらえなかったのひがみすぎだよ! ほんとは私だってあげようと思ってたんだよ! でも恥ずかしくってあげられなかっただけなんだから! ほら、実はここにあげるつもりのチョコがあったりするんだよ!」


 そう言って、ヤヨイは背中に隠してた包みを取り出した。そのまま俺に渡す。

 ううん、もらってうれしいはうれしいんだけど……今日、3月14日なんだよなあ。1月遅れのバレンタインとか。

 ……というか、『3月12日 17時32分 チョコレート 798円』なんてレシートが挟まってるとか、俺はどう反応すればいいんだよ。

 言うべきか、言わざるべきか。


「まあ……ありがと」


「ああ、信じてないなー! ほんとは2月14日にあげるつもりだったんだもん! 嘘は言ってないもん!」


 ……まあ、たぶん嘘は言ってないんだろうなあ。


「ほらほら、カズ兄カズ兄、手作りクッキー一緒に食べようよー」


「めんどいからや」


「そこをなんとか」


「や」


「2文字追加して」


「いやだ」


「もうひとひねり」


「いやん」


「そうじゃないでしょ!? そこは『やろう!』って言ってよー!」


 いやだからいやっていってんだよ。めんどいだろうが。


「ううううう……いいよーいいよーだ! クラスの友達にホワイトデーもらうんだから! カズ兄のバーカバーカ!」


 そう言いながら、ヤヨイは立ち上がってドタドタと走って出て行ってしまった。

 ……ああ、今外に出たな。ほんとにクラスの友達の家に行ったのか? ヤヨイのやつ。

 まあ、どうでもいっか。夕飯頃になれば帰ってくるだろ。






「ただいまー……もおっ、カズ兄はほんと強情なんだからー、ほんとにほんとにバレンタインにあげようと思ってたのに、絶対信じてないよねあの顔ー。あげるの結構恥ずかしいんだよ」


 ……ちょ、ヤヨイ、もう帰ってきたのか!? まだ30分くらいしかたってないんだけど!? 絶対3時間くらいは帰ってこないと思ってたのに。

 やばい、急いで色々と片付けないと。絶対こんなん見つかったらやばいだろ。


「ああ、そこらじゅう走り回ったから喉渇いちゃった。みずみずー」


 ちょ、なんでこっち来るんだよ!? 自分の部屋に戻れよ!

 バタンとヤヨイがキッチンへの部屋のドアを開けた。今部屋に入ってきたヤヨイと、エプロン姿になり砂糖とバターと卵黄をぐりぐりとかき混ぜている俺の目と目が合う……ああ、終わった。


「カズ兄、何してるのー?」


 ……見りゃわかるだろ。ニヤニヤしながら聞いてくるなよ。


「にへへ、全くカズ兄ってばツンデレなんだからー」


 ツンデレとかいうな、気持ち悪い。


「まあ、何だ。これは自分が突然食べたくなってだな」


「またまたあ、そんな照れなくてもいいのにー。ねえねえカズ兄、一緒に作ろー?」


「ヤヨイが一緒に作りたければ、好きにしたら? あ、エプロンはきちんとつけろよ」


「はーい、りょーかーい!」


 そう言って、ヤヨイはどたどたと自分の部屋に行き、エプロン姿になって戻ってきた。

 ……こっそり机の上に置いておこうかと思ったけど、こんな風に2人で作る、クッキーもいいものかもしれないな。

 そんな風に思った、ホワイトデー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 期待の新作、読ませていただきました。相変わらずのほのぼの兄妹でしたね、なんだかんだでヤヨイに甘いカズ兄と天真爛漫なヤヨイは微笑ましい2人です。自分もヤヨイみたいな妹が欲しいですがあいにく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ