第5話 はぁ?文官になる?計算もできないのにミスったら懲罰を受けますが大丈夫でしょうか?②
□王城のとある部署の執務室にて
「ついに見つけたぞ!!!」
「エラルド様?なにをされていらっしゃるのですか?」
執務室で文官たちが黙々と作業している中、突然叫んだエラルドに注目が集まります。彼は何やら1束の書類を持ち上げて勝ち誇っているのです。そんな彼に彼が懸想している同僚の女性が声を掛けました。
「よくぞ聞いてくれたラフェリア。聞いてくれ。私は脱税行為を見つけたのだ!」
「えぇ?」
声をかけた女性もその返答に唖然としてしまいます。
なぜなら彼が持っている書類は彼の家……つまりクルスローデン家の税金を計算した書類なのですから。
執務室内も唖然とします。
普通、どこかの家から送られてきたものが探すのは他家の不正です。なのにこのバカは自分の家の不正を見つけたと言って興奮して紅潮し、叫んでいるのです。
「えぇと……それで、どういった不正を見つけられたのですか?」
笑い声をあげたら自分が怒られる。笑った表情を出してもまずいと一生懸命自分を律した鉄の心臓を持つ女性……ラフェリアはなんとかエラルドに質問しました。
「これですよ、ラフェリア。こっちはマクシミリアン侯爵家が提出された書類です」
バカを見る目で弛緩した空気に染まっていた執務室の雰囲気が一斉に変わります。
なにを隠そう、この場にいるのはバカが手に取ったマクシミリアン侯爵家の不正を見つけるために政敵のラヴェロア侯爵家が送り込んだ人材と、マクシミリアン侯爵家陣営が不正を隠すために送り込んだ人材とがひしめき合っていたのですから。
ちなみにクルスローデン家は中立ですが、内実はラヴェロア侯爵家陣営です。
当然、陣営を無視してラフェリアをナンパするバカ……いや、エラルドは完全に浮いていましたが、まさかあのバカが突然核心に迫ってきたのではないか?という懸念が執務室に漂い、どちらの陣営も突如として緊張の渦に飲み込まれます。
「マクシミリアン侯爵家ともなればしっかりと税務に関しては整理されて税金を計算されているであろう。しかし、クルスローデン家の書類はここもここもこっちもマクシミリアン侯爵家のものとは違うのです。一致しているのはここだけです。そしてこれを正して合計すると、なんと10万ギルも多く納税しなければならないのです。あぁ大臣! ちょうどいいところに。これが不正の証拠です!」
誇らしげにバカが計算結果を読み上げ、書類を掲げています。
繰り返しますが、このバカの家が提出した書類をです。そして偶然通りがかった財務大臣にも見せつけます。
これを聞いていた執務室の人間の半分は興奮し、半分は真っ青になりました。
「えぇと、エラルド君だったな。よくやってくれた……と言っていいのだろうか」
そして財務大臣がエラルドに声を掛けます。
「これは大臣。ありがとうございます。しかし気にしないでください。たとえ自家といえども不正は正さなければなりません」
そして声を掛けられたエラルドは得意げに、そして少し自嘲した様子で語りますが……。
「いや、クルスローデン家の計算は一切間違っていない」
「は?」
そもそも彼は計算を間違っていた。普通の文官なら絶対に間違えない単純な四則演算を……。つまりクルスローデン家の計算は別におかしくなかった。
そしてそれをラヴェロア侯爵家陣営の文官がこっそりと彼に教えてやった結果、バカは真っ青になった。
なぜならバカはこれによって彼としてはどうでもいい自分の家の不正を指摘し、同時に懸想しているラフィアが守ろうとしているマクシミリアン侯爵家の書類が問題ないと宣言してしまおうとしていたのだから。失敗した、と思って青くなったようだ。
が、彼の失敗はそれではなかった。
「まず君が指摘してくれたこことこことここ。そもそも比較する必要などないわけだが、クルスローデン家の計算は正しい。エラルド君のそこにメモしてある計算が間違っている」
「……」
エラルドは羞恥で真っ赤になるが、後の祭りだ。貴族や商人の子供でもできそうな計算を間違えた結果、これ見よがしに自家の書類に不備があると大臣に宣言したのだから。
そして……。
「問題は、なぜマクシミリアン侯爵家とクルスローデン家の計算が比較可能なのかということだな。同じ書式を使っているのはなぜだということだ。本来、侯爵家であり領内で魔石を産出しているマクシミリアン侯爵家では税金の割合はこっちを使うべきだし、計算式も変えるべきだった。にもかかわらず、伯爵家かつ過去の功績によって税額が優遇されているクルスローデンと同様の計算をしていることに問題がある。これをなぜ今まで放置してきたのか、文官の選択に間違いがあったと言えるだろう」
マクシミリアン侯爵家の陣営の者は青い顔になって震えています。毎年さっさと合格のハンコを押して処理を終えてしまい、細かい計算式など公開していなかったのだ。
なのに今年はバカが自分の家の計算が間違っている根拠に合格印を押されているマクシミリアン侯爵家の書類が正しいものと勘違いして証拠に出してしまったのだ。
マクシミリアン侯爵家陣営の者たちは全員クビになりました。当然ラフェリアもです。
エラルドの目論見は泡となって消えていきました。
この話を財務大臣ご本人から感謝と共に笑いながら聞かされた私はどういう顔をしていいかわからず混乱してしまい、財務大臣にさらに笑われてしまうという失態を犯してしまいました。
エラルド許すまじ……。




