第5話:王都乱入(カチコミ)
数日後。
轟田とアリスの二人は王都の巨大な城門の前に立っていた。
「ほう。デカいな」
轟田は城壁を見上げ値踏みするように目を細めた。
高さ二十メートルはある石造りの壁。
その奥に見える尖塔群。
そして門を出入りする数多の人々と馬車。
田舎の村とは規模が違う。
「収容人数は数万人ってとこか。俺様の復帰戦を飾るにゃあ悪くねぇ会場だ」
「感心してないで少しは緊張しなさいよ」
隣でアリスが深々とフードを被り直した。
彼女は現在とある事情で身分を隠している。
王都の騎士団長である彼女が、半裸の不審者(轟田)と歩いているところを見られたらスキャンダルどころの話ではないからだ。
「いい?轟田。王都は規則が厳しいの。くれぐれも騒ぎを……」
「おい貴様ら!止まれ!」
アリスの忠告が終わるより早く門番の兵士たちが槍を交差させて立ちはだかった。
彼らの視線は一点に集中している。
轟田の黒パンツと極太のチェーンだ。
「明らかに不審者だ!身分証を見せろ!」
「武器も持たずにその格好……貴様、何者だ!」
当然の反応だった。
轟田は鼻を鳴らし一歩前に出た。
「あァ?俺様を知らねぇとは、モグリかテメェらは」
威圧。
轟田から放たれる歴戦のヒールの空気に兵士たちがたじろぐ。
「お、俺様……?」
「俺は魔王サタン・ゴウダ。地獄から出張してきたプロレスラーだ。……通せよ。俺様の肉体が身分証だ」
「い、意味が分からん!連行しろ!」
兵士たちが色めき立つ。
アリスが頭を抱えた。
やっぱりこうなる。
だがここで轟田が暴れれば「公務執行妨害」で即手配犯だ。
アリスは覚悟を決めて轟田の前に割って入った。
「下がりなさい、下郎ども!」
アリスがフードの下から鋭い眼光を放ち懐から一枚のメダルを取り出して見せた。
王家の紋章が入った騎士団の身分証だ。
「こ、これは……王家直属の!?」
「しっ!声を荒げるな!」
アリスは小声で威圧した。
「極秘任務中だ。この男は私が捕縛し連行している『凶悪犯』だ。私の監視下にある。……文句があるか?」
兵士たちの顔色が変わる。
凶悪犯。
なるほど、だからこの異常な格好なのかと妙な納得が走る。
「し、失礼しました!どうぞお通りください!」
道が開いた。
轟田は兵士たちの横を通り過ぎざま、ニヤリと笑って捨て台詞を吐いた。
「ケッ、権力の犬が。俺様の首輪を握ってるのがこの女で良かったな。でなきゃ今頃、テメェらはミンチになってたぜ」
兵士たちがゾッとして震える。
アリスは轟田の脇腹をつねりながら早足で門をくぐった。
◇
王都に入った二人が最初に向かったのは冒険者ギルドだった。
路銀を稼ぐためだ。
ギルドの扉を蹴り開ける。
ガアンッ!!酒と脂の臭いが充満するホール。
荒くれ者たちの視線が一斉に集まる。
「……あ?」
「なんだあの格好」
「見世物小屋の芸人か?」
クスクスという失笑。
嘲りの視線。
轟田はそれを全身で浴び恍惚の表情を浮かべた。
「……いい空気だ。インテリぶった騎士団より、ここの連中の方がよっぽど『教育』が行き届いてやがる」
「轟田、お願いだから普通にしてて。依頼を受けるだけでいいのよ」
アリスが止めるのも聞かず、轟田はカウンターへ直行した。
受付嬢が引きつった笑顔で対応する。
「い、いらっしゃいませ……」
「一番、ワリのいい仕事をよこせ」
轟田はカウンターに肘をつき、受付嬢を威圧した。
「ドブ掃除や薬草摘みじゃねぇぞ。……もっとこう、血の匂いがするやつだ」
「は、はい……ですが、ランクというものがございまして……」
「オイオイ、兄ちゃん」
その時背後から野太い声がかかった。
振り返ると全身を重装備で固めた大男が立っていた。
手には巨大な戦斧。
ギルドの常連らしい強面の冒険者だ。
「ここはガキのお遊戯場じゃねぇんだ。パンツ一丁でウロウロされちゃ、酒が不味くなるんだよ」
周囲の冒険者たちがニヤニヤと笑う。
「新入りいびり」だ。
アリスが額に手を当てた。
「……はぁ。やっぱり絡まれた」
だが轟田は嬉しそうに振り返った。
「ほう。挨拶もできねぇ猿がいると思ったら……なんだ、テメェか」
轟田は男を見下ろし、鼻で笑った。
「その全身の鉄屑、重くねぇのか?自分に自信がねぇ奴ほど、過剰に身を守りたがるもんだぜ?臆病者さんよォ」
ブチッ。
男の額に青筋が浮かんだ。
「……テメェ、表へ出ろ。その減らず口、利けなくしてやる」
「ここでいいぜ」
轟田は両手を広げノーガードの姿勢をとった。
「俺様のランチタイムだ。……掛かってこいよ、三下」
「死ねェッ!!」
男が戦斧を振り上げた。
ギルド内がどよめく。
直撃すれば即死の威力。
だが轟田は動かない。
《敵対行動を確認。防御力上昇(中)》
ガゴォォォォンッ!!!
鈍い音が響き戦斧が轟田の僧帽筋にめり込んだ――かに見えた。
だが刃は皮膚一枚すら裂けず、金属音を立てて止まっていた。
「な……ッ!?」
男が目を見開く。
轟田は退屈そうに欠伸をした。
「蚊か?止まったぞ」
「ば、バカな……!」
「今度はこっちの番だな」
轟田は男の胸倉を掴み、強引に引き寄せた。
そして、至近距離から強烈な頭突き(ヘッドバット)を叩き込んだ。
ゴッ!!
「がっ……!?」
「オラァッ!」
怯んだ男の体を、轟田は軽々と持ち上げた。
そのまま天井に向けて放り投げる。
男が宙を舞う。
落ちてくるところを轟田はその太い腕でガッチリと受け止めた。
「背骨をへし折ってやる!カナディアン・バックブリーカー!!」
「ぎゃあああああああ!!」
男の悲鳴がギルドに響き渡る。
轟田は男を担ぎ上げたまま周囲の冒険者たちを見回して吠えた。
「どうしたテメェら!仲間がやられてんだぞ!助けに来ねぇのか!?」
冒険者たちが青ざめて後ずさる。
戦斧の一撃を体で受け止め重装備の男を赤子のように扱う怪力。
格が違う。
「……チッ。シケた客だ」
轟田は気絶した男をゴミのように投げ捨てた。
ドシャッ。
静まり返るギルド。
轟田は受付嬢に向き直りニカっと笑った。
「で?仕事の話だったな。……俺様に相応しい『魔王級』の依頼、あるか?」
受付嬢が涙目で震えながら、何かを言おうとしたその時だった。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――ッ!!!!
不快な警報音が、王都中に響き渡った。
ギルド内の空気が一変する。
「こ、この音は……!」
「緊急警報!?まさか魔物の襲撃か!?」
「バカな、王都の結界があるんだぞ!」
アリスが顔色を変えて窓の外を見た。
空が赤く染まっている。
夕焼けではない。
遥か上空から接近する巨大な「何か」が放つ魔力の光だ。
「……来たか」
轟田だけが、楽しそうに空を見上げていた。
その巨大な影は数日前に轟田がラリアットで沈めた竜よりも遥かに巨大で禍々しいオーラを纏っていた。
「どうやら、前座は終わりらしいな」
轟田は指をポキポキと鳴らした。
王都を焼き尽くすための復讐者。
古龍の襲来だった。
(第6話へ続く)
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